605 / 812
2月26日 お迎え雪遊び
しおりを挟む
しばらくして、羅樹が訪れた。青海川くんは体調を崩してしまったからと、代わりに先生が出てくれることになった。驚いた様子の羅樹は「お大事に」と告げた後チラリとこちらを見た。私は大丈夫かという確認だろう。笑顔を浮かべて平気なことを示せば、ほっと小さく息を吐く。その安堵の表情を見て、ずきんっと胸が痛んだ。
私はたくさん嘘を吐いている。
羅樹の目の前でいなくなったり、急に現れたり、熱を出して倒れたり、離れて戻って来たり。本当はまた昔と同じように境界を超えているのに、それを隠して「何でもない」と嘘を吐いている。羅樹が悲しんでいると知らなければ、きっと今日も過去に遡る力を使って倒れていた。今日は心を見ただけ、花言葉を伝えただけ。"恋使"になって最初に使った力と同じ。だから虹や扇様の時のように体調を酷く崩し、長いこと目覚めないことはないだろう。後悔の念に当てられて気持ち悪くなったが、青海川くんより軽症だ。だから今日のことは羅樹に露呈することはない。
そんなことを考えている時点で、私は羅樹を裏切ってるのだろうと思う。
「ねぇ、羅樹」
「うん?」
空色の瞳が、曇り空の下でキラキラと輝く。春の日差しを反射する湖のような綺麗な瞳。私を映すにはあまりにも眩しすぎる瞳。私に真っ直ぐ向けられた視線が、少しだけ痛い。
「…迎えに来てくれてありがとう」
コートの襟に少しだけ顎を埋めて小さく呟けば、パチパチと瞳を瞬いた後でふっと笑った。
「どういたしまして!」
羅樹がそのまま手を差し出してくる。何かと首を傾げていれば、悪戯っ子の表情で羅樹が笑い、私の手をぐっと引いた。半ば強引に引っ張られた手が、羅樹の指先に絡め取られる。大きくて少しだけゴツゴツした男の人の手をしていた。
「もう少しだけ遊んで行こう!」
体の成長を実感していると、そんな子供みたいなことを言う。思わず顔を上げると、少年の顔をした羅樹が楽しそうに笑っていた。顔の距離は凄く近いのに、いつもみたいに心臓がドキドキとうるさいのに、それが心地良くて、気付いたら私は羅樹の提案に乗っていた。
「いいよ、雪だるま作ろう!」
「あはは、楽しそう!大きいの作ろうね!」
はしゃいだ様子の羅樹が、雪道を踏み締めて駆け出す。まだふわふわの雪が残っていて、歩く度にしゃくしゃくと音がした。
「ねぇ、羅樹」
「うんー?」
また呼び掛ける。今度は誤魔化すための言葉じゃなくて。
「ありがとう」
「? どういたしまして??」
雪だるまを作るのが、今から楽しみだ。
私はたくさん嘘を吐いている。
羅樹の目の前でいなくなったり、急に現れたり、熱を出して倒れたり、離れて戻って来たり。本当はまた昔と同じように境界を超えているのに、それを隠して「何でもない」と嘘を吐いている。羅樹が悲しんでいると知らなければ、きっと今日も過去に遡る力を使って倒れていた。今日は心を見ただけ、花言葉を伝えただけ。"恋使"になって最初に使った力と同じ。だから虹や扇様の時のように体調を酷く崩し、長いこと目覚めないことはないだろう。後悔の念に当てられて気持ち悪くなったが、青海川くんより軽症だ。だから今日のことは羅樹に露呈することはない。
そんなことを考えている時点で、私は羅樹を裏切ってるのだろうと思う。
「ねぇ、羅樹」
「うん?」
空色の瞳が、曇り空の下でキラキラと輝く。春の日差しを反射する湖のような綺麗な瞳。私を映すにはあまりにも眩しすぎる瞳。私に真っ直ぐ向けられた視線が、少しだけ痛い。
「…迎えに来てくれてありがとう」
コートの襟に少しだけ顎を埋めて小さく呟けば、パチパチと瞳を瞬いた後でふっと笑った。
「どういたしまして!」
羅樹がそのまま手を差し出してくる。何かと首を傾げていれば、悪戯っ子の表情で羅樹が笑い、私の手をぐっと引いた。半ば強引に引っ張られた手が、羅樹の指先に絡め取られる。大きくて少しだけゴツゴツした男の人の手をしていた。
「もう少しだけ遊んで行こう!」
体の成長を実感していると、そんな子供みたいなことを言う。思わず顔を上げると、少年の顔をした羅樹が楽しそうに笑っていた。顔の距離は凄く近いのに、いつもみたいに心臓がドキドキとうるさいのに、それが心地良くて、気付いたら私は羅樹の提案に乗っていた。
「いいよ、雪だるま作ろう!」
「あはは、楽しそう!大きいの作ろうね!」
はしゃいだ様子の羅樹が、雪道を踏み締めて駆け出す。まだふわふわの雪が残っていて、歩く度にしゃくしゃくと音がした。
「ねぇ、羅樹」
「うんー?」
また呼び掛ける。今度は誤魔化すための言葉じゃなくて。
「ありがとう」
「? どういたしまして??」
雪だるまを作るのが、今から楽しみだ。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる