神様自学

天ノ谷 霙

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2月18日 童心に帰る組と見守る組

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雪はどんどん強くなる。薄らと校庭が白く染まり、木々も被る程度には積もり始めた。地面に落ちた雪も解けずに残っている。授業への集中力も少しずつ失われ、外に気を取られる生徒も増え始めた。昼休みには校庭に入ってはいけないという指示まで出て、しばらく溶け残る危惧まで出て来た。それでも元気な霙や竜夜くんはギリギリ校舎前のアスファルトの上で雪合戦を行っていた。鹿宮くんや蒼くんなど運動が好きな組もそれに加わって、それぞれのファンが窓の内側から応援するという構図が出来ていた。ほとんどの女子は寒いのが嫌だという理由で中にいるというのに、運動好きの男子達と互角に渡り合う霙は本当に一体何者なのだろうか。途中で八千奈も加わったが、昼休み終了10分前には全員雪だらけになって帰って来た。この事態を予測していたらしい由芽の指示によってタオルや櫛が用意され、それぞれおもちゃにされていた。
雪に気を取られた1日となったが、皆楽しそうなので問題ないだろう。3年生は受験の関係でもう学校にはほとんど来ていないし、テストも来週だ。
そう考えたところで、ふと足を止めた。そういえば来週はテストだ。誰も言い出さない上に、私は私で他のことに気を取られていたからすっかり忘れていた。とりあえず今日は帰ったら数学でもやろう、と教科書をロッカーから取り出す。同じようにロッカーに荷物を取りに来ていた人影の中に、青海川くんを見つけた。目が隠れそうなほどに伸びた前髪と、首を覆う程に長い髪。同じように長髪を後ろで無造作に縛っている担任、青海川先生の歳の離れた弟である星空かなたくん。珍しい読み方だったからよく覚えていた。彼はぼんやりとロッカー越しに窓の外を眺めては、酷く悲しそうな顔をする。ハッと我に返ると首を横に振り、落ち着かせようとしているのか胸元の教科書を強く抱き締めた。その様子が凄く不安げで、見ているこっちが心配になってしまう。
「ねぇ、どうしたの?大丈夫?」
しばらくその繰り返しだったので、つい声を掛けてしまった。驚いたらしい青海川くんは視線を落として猫背になり、オドオドし始めた。大人しい男子だと思っていたが、話したこともあるしそんなに警戒しないで欲しい。前に話した時はもっとしっかりしていて、見かけによらずはっきり喋ると感じたのだが。その時は確か、せん様のところに初めて訪れた時で。
「あ」
それで、ふと思い出した。青海川くんは深沙ちゃんと扇様と一緒に前世の記憶が奥底に眠っていることを。扇様に支えていたのが深沙ちゃんで、青海川くんは扇様の想い人だった。全部前世の話だったけど。もしかしてその時のことが何か、と考えてみるも分からない。そもそもこんなに警戒されているということは、もしかして私とあの時会ったことすら忘れているのかもしれない。
唐突に考えに耽った私と、困惑する青海川くんを見つけて小野くんが助け舟を出してくれるまで、あと5分。
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