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2月16日 視界の変化
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まだ暗い部屋の中で、ゆっくりと体を起こす。かなり長い間眠っていたらしい。頭を抱えて、今さっき起きたことを反芻する。
幼い私と羅樹が神社に行った時のこと。きっと寝る前に母が教えてくれた、迷子になった時の話。話を照合すると、羅樹が泣き叫んでいた時のことだと思う。私の耳には全く届かなかったけど、神様、否守様が呟いた「彼の喉が潰れてしまいますね」という言葉からして、外で羅樹が叫んでくれていたのだろう。確証はない。確証はないけれど、その可能性が1番高い。
「羅樹に聞くのは…」
覚えているだろうか。当時の体の大きさ的に覚えているかもしれないが、羅樹がこういった話を振って来たことはない。いなくなって何をしていたのと聞くだとか、私を恐れるだとか、そういったことをさらた記憶もない。夢として見たことで、認識したことで私の視界にはヒトならざるモノの姿まで戻って来た。関わりも、忘れたい恐怖も全部、思い出してしまった。私が抑え付けていたのかもしれないが、それでは映り込むモノまで認識しないなんて難しいだろう。誰かに隠されていたと考えるのが自然である。そんなことが出来るのは、私の中に宿り、解呪すらも行える彼女しかいない。
「恋音さん」
呼び掛けると、暗闇の中で金糸が揺らめく。目の前に気配を感じて、目を覆っていた手を退かすと下駄が見えた。恋使の姿でなくとも認識出来たということは、やはり私の視界が変わったのだろう。
「…何ですか?」
「ヒトならざるモノの存在を忘れさせてくれたのは、貴方ですね」
顔を上げて真っ直ぐ見つめる。暗闇の中に慣れて来た目は、驚いたように丸く見開く恋音さんの瞳を捉えた。やがてバツが悪そうに視線を彷徨わせると、拗ねたように話し始める。
「貴方がこちらの気に当てられて体調を崩すから、自由に行動する為に少し力を解いていただけよ。そしたら貴方が自分の力を忘れてしまって、解くタイミングがなかっただけ」
「そっか。気を遣わせてごめんなさい」
私の返しに、恋音さんはふっと表情を緩める。わざわざ出て来てくれたということは、会話をする意思があるということだろう。
「ほとんどのことは思い出したけど、気になることがあるんです。否守様ってご存知ですか?」
恋音さんは先程よりも驚いた顔をして、すぐに納得したように頷いた。
「勿論。名前を口にすることすら烏滸がましい程に高位の存在だから」
「高位の?」
「えぇ、私達は天女神様と呼ばせていただいているわ。言葉を交わすことも難しい、私達の世界にいる2対の最高神の片方だから」
「えっ」
そんなに高位の存在だとは知らなかった。けれど私と話してくれた時は、人好きな優しい性格だったと思う。もし変わっていないのなら、聞きたいことがある。
またあの神社に行けば、会えるだろうか。
幼い私と羅樹が神社に行った時のこと。きっと寝る前に母が教えてくれた、迷子になった時の話。話を照合すると、羅樹が泣き叫んでいた時のことだと思う。私の耳には全く届かなかったけど、神様、否守様が呟いた「彼の喉が潰れてしまいますね」という言葉からして、外で羅樹が叫んでくれていたのだろう。確証はない。確証はないけれど、その可能性が1番高い。
「羅樹に聞くのは…」
覚えているだろうか。当時の体の大きさ的に覚えているかもしれないが、羅樹がこういった話を振って来たことはない。いなくなって何をしていたのと聞くだとか、私を恐れるだとか、そういったことをさらた記憶もない。夢として見たことで、認識したことで私の視界にはヒトならざるモノの姿まで戻って来た。関わりも、忘れたい恐怖も全部、思い出してしまった。私が抑え付けていたのかもしれないが、それでは映り込むモノまで認識しないなんて難しいだろう。誰かに隠されていたと考えるのが自然である。そんなことが出来るのは、私の中に宿り、解呪すらも行える彼女しかいない。
「恋音さん」
呼び掛けると、暗闇の中で金糸が揺らめく。目の前に気配を感じて、目を覆っていた手を退かすと下駄が見えた。恋使の姿でなくとも認識出来たということは、やはり私の視界が変わったのだろう。
「…何ですか?」
「ヒトならざるモノの存在を忘れさせてくれたのは、貴方ですね」
顔を上げて真っ直ぐ見つめる。暗闇の中に慣れて来た目は、驚いたように丸く見開く恋音さんの瞳を捉えた。やがてバツが悪そうに視線を彷徨わせると、拗ねたように話し始める。
「貴方がこちらの気に当てられて体調を崩すから、自由に行動する為に少し力を解いていただけよ。そしたら貴方が自分の力を忘れてしまって、解くタイミングがなかっただけ」
「そっか。気を遣わせてごめんなさい」
私の返しに、恋音さんはふっと表情を緩める。わざわざ出て来てくれたということは、会話をする意思があるということだろう。
「ほとんどのことは思い出したけど、気になることがあるんです。否守様ってご存知ですか?」
恋音さんは先程よりも驚いた顔をして、すぐに納得したように頷いた。
「勿論。名前を口にすることすら烏滸がましい程に高位の存在だから」
「高位の?」
「えぇ、私達は天女神様と呼ばせていただいているわ。言葉を交わすことも難しい、私達の世界にいる2対の最高神の片方だから」
「えっ」
そんなに高位の存在だとは知らなかった。けれど私と話してくれた時は、人好きな優しい性格だったと思う。もし変わっていないのなら、聞きたいことがある。
またあの神社に行けば、会えるだろうか。
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