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Valentine’s day 桜
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日曜日だろうがイベントだろうが関係なく、部活はある。今日も今日とて陸上部は寒空の下、肉体を行使して様々な競技を行う。いつも通り各競技をそれぞれ練習し、仲間内で改善点や良かったところを話し合い、各競技を回っている顧問からアドバイスを受ける。恐ろしく厳しいことも多いが、大会時には選手に気負わせないように工夫してくれる面倒見の良い先生だ。厳しすぎて基本は文句しかないが、何だかんだ言って皆懐いている。
「集合ー」
笛の音と大声が聞こえ、疲労した体を無理やり動かして全力で集まる。全体ミーティングを終えると、部活は終わりである。今日は午前練だけであるため、後は家に帰って寝るくらいしかすることがない。マネージャーが「差し入れだよ」と言って市販のお菓子をばら撒いてくれるのも、疲れた体にはありがたかった。マネージャーと選手で出来ている者もいるのかもしれないが、噂になっていない上そういった話に疎いため、あまり知らない。貰ったチョコではない菓子を口の中に放り込んでいると、浅野が物珍しそうな顔でこちらを見てくる。
「何すか?」
「いや、今日はチョコが凄い倍率だと思って」
義理だろうが市販だろうが、1個でも手に入れれば勲章となるのだろう。チョコを持っているマネージャーに凄い勢いで集まっていた。醜い争いが勃発しているのを遠目に見ながら、飲み込む。
「そうっすね。浅野は辻から貰うんすか?」
「…っ!?」
何とはなしに問い掛けると、浅野は顔を真っ赤にして狼狽えてしまった。ぶつぶつと「貰えるだろうか」といった不安を呟いている。すると面白い雰囲気を察したのか、仲の良いハイジャンプ組が集まってくる。浅野を弄り始めたので、知らないふりをして帰り支度を終えた。
「お疲れ様っしたー!」
そそくさと帰るに限る。浅野の恨めしそうな目が見えたが、知らないふりだ。好きな人どころか恋人なのだから、きっと想いの籠った素敵なプレゼントを貰えるだろう。俺は休日ということも相まって好きな人に会える可能性はほぼ0に等しいし、そもそも彼女が誰かに菓子を渡したら一瞬で学年中の噂になってしまうだろう。少し前に酷い噂に何度も振り回されていたし、今年は誰にも渡さないかもしれない。去年も休日だったので知らないが、前後の平日に女子と交換会をしているのは見掛けたような気がする。
それが羨ましいと思うくらいには、今の俺はあの人の虜だ。チョコなんて貰っても食べられないくせに、あの人に貰えるのなら無理してでも食べてしまうと思う。
我ながら馬鹿みたいに考え事に夢中になっていると、あっという間に駅に着いた。休日だからか人通りの少ない駅の中で、壁際に佇む1人の女の子にふと目が釘付けになった。いつもの制服とは違い、可愛らしい私服姿に身を包んだ明だ。何か小さな紙袋を持って、そわそわと辺りを見回している。
もしかして、誰かに渡すのだろうか。
去年もそうやって、本当は誰かに渡していたのだろうか。
心の中で醜い嫉妬心が渦巻いたことに気付き、きっと表情も同じように歪んでいるだろうと戸惑う。せっかくなので話し掛けたかったが、こんな顔を見られたくないので気付いていないふりをして、改札の方へ向かった。
その瞬間、誰かにぐいっとジャージの裾を引っ張られた。
「集合ー」
笛の音と大声が聞こえ、疲労した体を無理やり動かして全力で集まる。全体ミーティングを終えると、部活は終わりである。今日は午前練だけであるため、後は家に帰って寝るくらいしかすることがない。マネージャーが「差し入れだよ」と言って市販のお菓子をばら撒いてくれるのも、疲れた体にはありがたかった。マネージャーと選手で出来ている者もいるのかもしれないが、噂になっていない上そういった話に疎いため、あまり知らない。貰ったチョコではない菓子を口の中に放り込んでいると、浅野が物珍しそうな顔でこちらを見てくる。
「何すか?」
「いや、今日はチョコが凄い倍率だと思って」
義理だろうが市販だろうが、1個でも手に入れれば勲章となるのだろう。チョコを持っているマネージャーに凄い勢いで集まっていた。醜い争いが勃発しているのを遠目に見ながら、飲み込む。
「そうっすね。浅野は辻から貰うんすか?」
「…っ!?」
何とはなしに問い掛けると、浅野は顔を真っ赤にして狼狽えてしまった。ぶつぶつと「貰えるだろうか」といった不安を呟いている。すると面白い雰囲気を察したのか、仲の良いハイジャンプ組が集まってくる。浅野を弄り始めたので、知らないふりをして帰り支度を終えた。
「お疲れ様っしたー!」
そそくさと帰るに限る。浅野の恨めしそうな目が見えたが、知らないふりだ。好きな人どころか恋人なのだから、きっと想いの籠った素敵なプレゼントを貰えるだろう。俺は休日ということも相まって好きな人に会える可能性はほぼ0に等しいし、そもそも彼女が誰かに菓子を渡したら一瞬で学年中の噂になってしまうだろう。少し前に酷い噂に何度も振り回されていたし、今年は誰にも渡さないかもしれない。去年も休日だったので知らないが、前後の平日に女子と交換会をしているのは見掛けたような気がする。
それが羨ましいと思うくらいには、今の俺はあの人の虜だ。チョコなんて貰っても食べられないくせに、あの人に貰えるのなら無理してでも食べてしまうと思う。
我ながら馬鹿みたいに考え事に夢中になっていると、あっという間に駅に着いた。休日だからか人通りの少ない駅の中で、壁際に佇む1人の女の子にふと目が釘付けになった。いつもの制服とは違い、可愛らしい私服姿に身を包んだ明だ。何か小さな紙袋を持って、そわそわと辺りを見回している。
もしかして、誰かに渡すのだろうか。
去年もそうやって、本当は誰かに渡していたのだろうか。
心の中で醜い嫉妬心が渦巻いたことに気付き、きっと表情も同じように歪んでいるだろうと戸惑う。せっかくなので話し掛けたかったが、こんな顔を見られたくないので気付いていないふりをして、改札の方へ向かった。
その瞬間、誰かにぐいっとジャージの裾を引っ張られた。
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