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2月14日 事件の顛末
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それから、互いに事件に至るまでの過程を話し合うことになった。羅樹は先程もパニックになりながら説明してくれたが、改めてということで話してもらった。話していた筈の私が急に黙り、ぼんやりとケーキを見つめていることに首を傾げ、声を掛けたり眼前で手を振ったりしてくれたようだが、私は全く気付いていなかった。つい考え事に没頭してしまっていただけだ、と説明し、中身までは言わなかった。羅樹が問い掛けて来たが、何だっけ、と返して誤魔化した。微妙に言語化出来そうになかったし、私の中で燻ってはいるものの害はない。正体不明の気持ち悪さというよりは、忘れていることへの疑問という面が強かった。
「そうだ。羅樹ってさ、私の名前を叫んだことある?」
「どういうこと?」
「私を夕音って呼ぶ前に、なんか必死に…?そんな記憶があるような無いようなって感じなんだけど、少し気になって」
「…うーん、覚えてないなぁ」
「そっか。なら夢か何かと混ざってるのかもね。それがちょっと気になって、声を掛けられても気付かなかったみたい。ごめんね」
「ううん、僕こそごめんね。その、怖かったでしょ?」
「え?」
羅樹は頬を赤らめながら、ボソボソと呟く。丸い水色の瞳を潤ませて、意を決したように私を見つめた。
「夕音をぐいって引っ張っちゃったし、その後床に倒しちゃったし…すぐに退かなかったし…」
改めて言葉にされると余計に恥ずかしい。顔に熱が集中するのがわかった。しかし私は首を横に振り、羅樹を見つめ返す。
「大丈夫だよ。怖くは、なかったから」
私が慌てたのは近さと、緊張と、驚きと、
───ドキドキしたせいで。
羅樹に組み敷かれたのが怖かったからではない。
「そっ、かぁ」
そんな意図が伝わっているのかどうかは分からないが、羅樹が妙に緊張した様子で視線を彷徨わせたあと、何かに納得したようにふにゃりと笑った。距離が縮まったのか遠ざかったのか分からない出来事だが、私と羅樹だから仕方ない。
「羅樹?」
「うん?…ケーキ食べたらどこか行く?」
「それもいいけど、たまには家でのんびりするのも良いんじゃない?久しぶりに来たわけだし」
「えっ!?」
私の提案に、羅樹が戸惑う。何を驚いているのかと目をぱちくりさせていると、羅樹がぶんぶんと両手を振った。
「やっ、家には何もないし、楽しいかなって思って!」
変に慌てた様子の羅樹に首を傾げながら、そういえば昔はこんな感じで、誰に対しても人見知りしていたなぁと考える。
「昔と記憶合わせするのも楽しいよ?久しぶりに、ちょっと探検していい?」
そんな提案をすると、羅樹は落ち着いたようで、ホッとした様子で頷いた。
「いいよ。昔みたいに大きくは感じないだろうけど、楽しそう!」
次の計画を立てて、私達は残りのケーキを口に運んだ。
「そうだ。羅樹ってさ、私の名前を叫んだことある?」
「どういうこと?」
「私を夕音って呼ぶ前に、なんか必死に…?そんな記憶があるような無いようなって感じなんだけど、少し気になって」
「…うーん、覚えてないなぁ」
「そっか。なら夢か何かと混ざってるのかもね。それがちょっと気になって、声を掛けられても気付かなかったみたい。ごめんね」
「ううん、僕こそごめんね。その、怖かったでしょ?」
「え?」
羅樹は頬を赤らめながら、ボソボソと呟く。丸い水色の瞳を潤ませて、意を決したように私を見つめた。
「夕音をぐいって引っ張っちゃったし、その後床に倒しちゃったし…すぐに退かなかったし…」
改めて言葉にされると余計に恥ずかしい。顔に熱が集中するのがわかった。しかし私は首を横に振り、羅樹を見つめ返す。
「大丈夫だよ。怖くは、なかったから」
私が慌てたのは近さと、緊張と、驚きと、
───ドキドキしたせいで。
羅樹に組み敷かれたのが怖かったからではない。
「そっ、かぁ」
そんな意図が伝わっているのかどうかは分からないが、羅樹が妙に緊張した様子で視線を彷徨わせたあと、何かに納得したようにふにゃりと笑った。距離が縮まったのか遠ざかったのか分からない出来事だが、私と羅樹だから仕方ない。
「羅樹?」
「うん?…ケーキ食べたらどこか行く?」
「それもいいけど、たまには家でのんびりするのも良いんじゃない?久しぶりに来たわけだし」
「えっ!?」
私の提案に、羅樹が戸惑う。何を驚いているのかと目をぱちくりさせていると、羅樹がぶんぶんと両手を振った。
「やっ、家には何もないし、楽しいかなって思って!」
変に慌てた様子の羅樹に首を傾げながら、そういえば昔はこんな感じで、誰に対しても人見知りしていたなぁと考える。
「昔と記憶合わせするのも楽しいよ?久しぶりに、ちょっと探検していい?」
そんな提案をすると、羅樹は落ち着いたようで、ホッとした様子で頷いた。
「いいよ。昔みたいに大きくは感じないだろうけど、楽しそう!」
次の計画を立てて、私達は残りのケーキを口に運んだ。
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