神様自学

天ノ谷 霙

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2月14日 バレンタイン

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昨日は明をしっかりと駅まで送り届け、その後帰宅メールを受け取れるほどに何事もなく終わった。安心してぐっすりと眠った翌日。冷蔵庫の中を見てラッピングの存在を思い出した。そもそもバレンタインに届けに行くということすら伝えていない。一応毎年あげることにはあげているので、期待していないわけではないだろうが催促が来たことは1度もない。出来る幼馴染なのか、私からのチョコにあまり興味がないのか、と悲しいことを考えようとしたところでパンッと両頬を叩く。そんなことは言っていられない。私は羅樹の彼女で、振り向かせなければならないのだ。とりあえず朝食を終えて、両親にチョコレートケーキを渡す。家族間でのラッピングは面倒なのとお金がもったいないという理由で行なっていないが、2人はそんなこと気にせず嬉しそうに受け取ってくれた。少し照れくさいが、日頃の感謝ということで今日くらいは素直に渡す。そして残った2切れを別々に、綺麗にラッピングする。羅樹と羅樹のお父さんの分だ。
「羅樹に渡してくる」
「行ってらっしゃい」
幼馴染なので別に変ではない、隠す方が変だ。そう自分に言い聞かせて家を出る。羅樹は家に居るだろうか。玄関を出て羅樹の家に視線を動かすと、羅樹のお父さんがスーツ姿で出て行くところだった。どうやら今日は仕事らしい。手を振るような仕草をして、駅へと向かう。その影から出て来たのは、一瞬だけど悲しそうに目を伏せた羅樹の姿だった。私は驚いて固まってしまったが、一瞬で硬直を振り払って羅樹の元へ向かう。近付いてくる人影に気づいたのか、羅樹が目を丸く見開いて、そして笑った。胸の奥を掴まれるような優しい笑みに、きゅうっと胸が鳴る。
「夕音!どうしたの?夕音もお出掛け?」
「あ、えぇと…その、まぁ…」
しどろもどろになってしまうが、羅樹は気にした様子もなくニコニコしている。先程悲しそうにしていた姿を隠すような笑顔。昔から変わらず、自分の負の感情は出したがらない。いや、ずっと昔は出していた。お父さんを困らせるのは嫌だとか、お母さんはどこだとか、よく泣いていた気がする。
泣かなくなったのは、いつからだろうか。
「夕音?」
羅樹の呼び掛けに、ふと考え事から引き戻される。慌ててバックから2つ分の包みを取り出すと、羅樹に押し付けるようにして渡した。
「…え?」
「チョコ!ば、バレンタイン、だから!」
きょとんと水色の目を何度か瞬いた後で、羅樹は日付を思い出したようで「あぁ!」と納得した様子を見せた。そういえば毎年似たようなやり取りをしている気がする。私が渡しに来るまで、カレンダーやニュースを見ていないのか。それとも耳に入っていないのか。訝しげな顔をする私とは対照的に、羅樹は嬉しそうに笑う。
「ありがとう!今年は何?」
「チョコケーキだよ。味は自信ないけど、許してよね」
「毎年そう言うよね。でも毎年凄く美味しいよ?」
サラッとそんなことを言われたら、真っ赤になってしまう。早く家に帰ろうとしたところで、羅樹がふと思い出したように聞く。
「夕音、この後用事ある?」
「ないけど、何?」
「今、家に美味しいお菓子があるんだ。一緒に食べない?」
「え?」
「夕音が好きな味だと思うよ。お父さんも仕事だし、入って」
「え、ちょ、待っ」
引っ張られるようにして、久しぶりに羅樹の家に上がることになった。
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