神様自学

天ノ谷 霙

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2月3日 噂の伝播

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明が交際を否定したという噂は、瞬く間に広がった。僅か1日で塗り替えられた噂は噂を呼び、人々に疑問を抱かせた。
何故、交際したというデマ情報が出回ったのか。
最初に出て来た噂は何処から現れたのか。こういった話を広めるのは悪意ない第三者であるが、出所や扇動には誰か1人でも悪意を持つ者が必要である。噂を広めるために誘導した者がいることは間違いないのだ。そしてその懐疑の目は、交際相手として噂されていた1人の男子に向く。了承の返事を得たと勘違いし、浮かれて友達に話したところ広まってしまったのだろうか。いや本当は断られていたのに嘘を吐いて広めてしまったのだろうか。憶測が飛び交い、彼を崖っぷちへと追い詰めて行く。前者であれば恥ずかしい奴だ、で終わる。明の返事が勘違いさせるようなものだったのかもしれない、と痛み分けしてまだマシかもしれない。しかし後者だった場合は違う。往生際が悪く、かつ外堀を埋めようとした悪知恵の働く者だという印象を植え付けるだろう。必死になって明と交際を既成事実として作り上げようとした愚かな者だと見られてもおかしくない。それは噂話やゴシップが大好きな人間にとって、美味しいネタだろう。例え友人であったとしても食い付かない筈がない。
明から話を聞き、尚且つ由芽から客観的な情報を得た私は真実を知っており、自業自得としか言いようがない彼の現状に同情する気も起きない。明の感情を再び凍らせようとしたようなものだ。許せない。事情を知らなかった、なんて言い訳は聞きたくない。囃し立てていた女子も罰せられたのだ。事の犯人が無傷では示しが付かないというもの。
この策を講じた人物はあまり頭が良くないようで、自身を噂に出してしまった上に昨日今日で否定や誤魔化す態度も見られなかった。恐らく明が無口なことを利用するつもりだったのだろう。しかし予想に反して明は意思表示をした。お陰で舞台に挙げられたのは自分だけ。針の筵のような好奇の目に晒されるのは自分だけ。明は被害者となり、同情の的になる。糾弾されるのは、彼1人なのだ。
きっと、彼の中で認識は歪む。
自分が揶揄される原因となった明が悪者であると考え、諸悪の根源だと思い込む。明さえ黙っていれば成功したかもしれないのだから。そんな思い込みは、好意を簡単に裏返す。想いを拒否された苦しみや自尊心を傷付けられた怒りも合わさって、強い怨恨へと変わる。
「ストーカーみたい」
ボソッと呟いた声は口の中に留まり、誰の耳にも届くことはなかった。私の想像でしかないが、用心しておいて損はない。少し気を配っておこう、と考えた。
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