神様自学

天ノ谷 霙

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2月9日 皆の到着

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はっと我に返り、明の元へ駆け寄る。半分気絶して倒れている男なんてどうでもよかった。
バタバタと人の集まる音が聞こえて来て、先生や、由芽に霙などの演劇部が現れる。部活を中断して人手として来てくれたらしい。他にも残っていたらしい人物達が集まっている。その中には陸上部の鹿宮くんもいた。倒れた明を見つけると、顔色を真っ青に染めるよりも先にその俊足を活かして駆け寄った。顔の横に膝をついて、血の気の引いた明の顔を見つめる。私が見た時には虚ろに開いていた瞳も閉じられ、元々白い肌は更に白く染まっている。戸惑って明を揺さぶろうとする鹿宮くんを、先生の指示で動いた霙が止める。羽交い締めにするようにして、鹿宮くんの腕を押さえた。その力は流石の霙でも抑え切ることが叶わなかったようで、振り切られてしまう。共に来た陸上部の浅野くんが代わり、激情に駆られる鹿宮くんを抑えていた。
その反対側にしゃがんだ保健医の先生が、明の脈を測り外傷を確認する。赤く腫れた片頬と強く噛んだ唇、頭をぶつけた様子も見られると、簡潔に状況を把握していた。その中で私しか伝えられない事実を告げるため、口を開く。何故か酷くふらつく体は、由芽が支えてくれた。
「お腹、蹴られて、ました」
「まぁっ」
流石に人前で確認出来ないため、救急車が来た時の説明に加えてくれるのだろう。
私の後ろで倒れている男は別の先生が様子を見ていた。何かに怯えるように謝罪と懺悔を続ける男。その異様な様子に被害者か加害者か分からず、困惑しているらしい。逃走の意思はなさそうなので、先生が私の方に視線を向ける。状況が分かるのは私だけなのだ。私は由芽に肩を支えられたまま、彼女に語りかけるように話し始める。
「明が、私と帰れないって困ったように言ってたから、悪いと思ったけど後を追って。そしたらあの人と話し始めて。その人は明を責めて、叩いたり、蹴飛ばしたりして。そしたら明が倒れちゃって…それで、私が飛び出して、それで…それ、から…?」
記憶は残っている。私の中に記録されているものがある。けれどそれは説明して、到底信じてもらえることではないようなこと。私であって、私じゃない人がやったこと。どう話せば良いのか分からない。それに記憶があるという感覚はあるのに、場面が次々と切り替わるばかりで時系列が分からなくなっていく。戸惑う私に、由芽が隣でふるふると首を横に振った。
「友達が暴力を振るわれる場面を見たから、記憶が混濁してるのかもしれないですね。トラウマみたいな感じで」
「そうだな。無理に話を聞くわけにはいかない」
私は戸惑いながら、身体中から力が抜けていくのを感じた。
あんなに強い怒りを感じ、そして落胆したのは誰?
私の感情であって、私でない誰かの心。
絡み合う不可思議さに戸惑いながら、私は救急車の走ってくる音を聞いた。
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