522 / 812
1月30日 謝罪と感謝
しおりを挟む
落ち着いた頃、私と羅樹は別の階で休憩スペースのようになっているベンチに腰掛けていた。人気は下の階に吸い取られてしまったのか、ほとんどない。私は羅樹に借りたハンカチを握りしめ、溢れ続ける涙を拭っていた。羅樹は目の前の自販機で買ったらしいジュースを、私に差し出してくれた。私はそれを受け取り、そのまま一気に3分の1くらいを飲み干した。ホッと息を吐いていると、気まずそうに羅樹が口を開いた。
「ごめん、今日、ずっと一緒にいるって言ったのに」
「え?」
羅樹が申し訳なさそうな顔を浮かべる。戸惑いながら記憶を遡ると、今朝の会話を思い出した。髪を下ろした私に羅樹が子供っぽく妬くものだから、それなら彼女だと分かるように一緒にいて、と約束したのだった。
「そんな、羅樹は悪くないよ!私が勝手に…」
勝手に怯えて、勝手な行動をした。羅樹を振り回したのは私。多分声を掛けられた筈なのに気付かなかった。恐らく羅樹は何処かの店に入ると伝えてくれた筈なのに、私は考え事に夢中で話を聞いていなかった。目の前にいた羅樹のことを考えられなかった。それは私の落ち度だ。羅樹は何も悪くない。
「でも、夕音に怖い思いさせたのは僕だよ」
「…え?」
羅樹は私の手に触れて、するりと指を絡めた。悲痛な表情が至近距離に迫っているのに、私は身を硬くするばかりで動くことが出来ない。
「僕が無理矢理にでも手を繋いでおけば良かった。気付くまで声を掛けて、離れないようにするべきだった」
水色の瞳が罪悪感に歪む。そんなの、羅樹が背負う必要のないものなのに。
「ごめん、夕音」
「違う!」
繰り返される謝罪の言葉に、私は涙声で叫ぶ。乱れた髪をそのまま振り乱して、羅樹を真っ直ぐに見つめる。
「羅樹は私を助けてくれたよ。誰も気付いていなかったのに、私を見つけてくれた。怖くて仕方なかったのに、羅樹の声が聞こえた瞬間凄く安心した。羅樹が庇ってくれたから、助けてくれたから私はもっと怖い思いをしなくて済んだんだよ。羅樹のお陰で私は…っだから、お願いだから、そんな風に自分を責めないで…」
羅樹の服をしがみつくように掴んで、必死に言葉を紡いだ。羅樹は驚いたように目を丸くした後、泣きそうになりながら相好を崩した。そして優しく、遠慮がちに背中に腕が回される。私の体を、羅樹の体温が包んだ。
「わかった…うん、良かった…」
「羅樹…」
私は羅樹の腕の中で、まだ言えていなかったことを思い出す。小さく深呼吸してから、呟くように告げた。
「…助けに来てくれて、ありがとう」
私の言葉が届いたのか、羅樹はふふっと小さく笑って私の頭を撫でてくれた。
「ごめん、今日、ずっと一緒にいるって言ったのに」
「え?」
羅樹が申し訳なさそうな顔を浮かべる。戸惑いながら記憶を遡ると、今朝の会話を思い出した。髪を下ろした私に羅樹が子供っぽく妬くものだから、それなら彼女だと分かるように一緒にいて、と約束したのだった。
「そんな、羅樹は悪くないよ!私が勝手に…」
勝手に怯えて、勝手な行動をした。羅樹を振り回したのは私。多分声を掛けられた筈なのに気付かなかった。恐らく羅樹は何処かの店に入ると伝えてくれた筈なのに、私は考え事に夢中で話を聞いていなかった。目の前にいた羅樹のことを考えられなかった。それは私の落ち度だ。羅樹は何も悪くない。
「でも、夕音に怖い思いさせたのは僕だよ」
「…え?」
羅樹は私の手に触れて、するりと指を絡めた。悲痛な表情が至近距離に迫っているのに、私は身を硬くするばかりで動くことが出来ない。
「僕が無理矢理にでも手を繋いでおけば良かった。気付くまで声を掛けて、離れないようにするべきだった」
水色の瞳が罪悪感に歪む。そんなの、羅樹が背負う必要のないものなのに。
「ごめん、夕音」
「違う!」
繰り返される謝罪の言葉に、私は涙声で叫ぶ。乱れた髪をそのまま振り乱して、羅樹を真っ直ぐに見つめる。
「羅樹は私を助けてくれたよ。誰も気付いていなかったのに、私を見つけてくれた。怖くて仕方なかったのに、羅樹の声が聞こえた瞬間凄く安心した。羅樹が庇ってくれたから、助けてくれたから私はもっと怖い思いをしなくて済んだんだよ。羅樹のお陰で私は…っだから、お願いだから、そんな風に自分を責めないで…」
羅樹の服をしがみつくように掴んで、必死に言葉を紡いだ。羅樹は驚いたように目を丸くした後、泣きそうになりながら相好を崩した。そして優しく、遠慮がちに背中に腕が回される。私の体を、羅樹の体温が包んだ。
「わかった…うん、良かった…」
「羅樹…」
私は羅樹の腕の中で、まだ言えていなかったことを思い出す。小さく深呼吸してから、呟くように告げた。
「…助けに来てくれて、ありがとう」
私の言葉が届いたのか、羅樹はふふっと小さく笑って私の頭を撫でてくれた。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる