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1月30日 "助けて"
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空気が凍る。青褪めていく。落ち着け、落ち着いて、私。
もしかしたら、私が困っているのに気付いて助け出してくれただけかもしれない。
そう思い込もうにも、暗がりの人気のない場所に連れ込まれたという事実は変わらない。私を人混みから離してくれただけと思いたくとも、気味悪く浮かべられた薄ら笑いが気になって仕方がない。思い込みだと信じたい。私を相手にする筈がないと、自意識過剰だと嘲笑いたい。でも出来なかった。頭の何処かで警鐘が鳴る。今すぐ逃げなければ、と恐怖心が告げる。しかし逃げ道は数人の男達によって塞がれ、私の手は掴まれたままである。震える腕を引っ込めようにも、こちらを気遣う様子のない容赦のない力の入れ方のせいで動かすことが出来ない。
「あ、あの…」
声が震える。喉が声を出すことを拒否する。それでも言わなければ、何かしら退路を導き出さなければ。
「お姉さんさぁ、具合悪いの?」
頭上から降って来たのは、予想外の言葉だった。私が驚いて顔を上げると、乱暴に頭を壁に押さえつけられた。ガンッと鈍い音と同時に後頭部に痛みが走る。
「やっぱり!熱いよ、熱があるんじゃない?」
至近距離でヘラヘラと笑う。相手の意図が分からず、ただ痛みに耐えた。
「やばいじゃん。休んだ方が良いよ」
「俺ら、良い休憩場所知ってるんだよね」
「一緒に行こうよ」
急に腕を引かれ、私はバランスを崩した。それを支えるように抱き止められた瞬間、背筋を寒気が襲った。
「け、結構です!大丈夫なので!」
突き飛ばすように離れると、舌打ちと共に「いってぇ…」という低い声が聞こえて来た。無視して走り出そうとしたところで、他の男が私の足を引っ掛け、別の男に手を掴まれ腰を抱かれてしまった。
「離して!嫌!やめて!」
出せる限りの精一杯の大声を出すが、喧騒に紛れて届かない。耳が痛いくらいの甲高い声で、泣きそうになりながら必死に叫ぶ。体を捩り抵抗する。「うるさい」と口を塞がれた。その手を叫ぶ勢いのまま噛んで、血の味を吐き出すように声を張り上げる。
誰でもいい、誰か気付いて。
お願い。
誰か、誰か。
助けて、羅樹。
「夕音!!」
明るい方から現れたのは、紛れもなく私の大好きな人で。一瞬、時が止まったかのように感じた。
羅樹は私を見つけると男達から引き剥がし、守るように、庇うように抱き締めてくれた。
「何を、してるんですか」
聞いたこともない羅樹の低い声。威圧感を放つ険しい表情に男達は一瞬怯んだが、悪びれる様子もなく口を開いた。
「そのお姉さんが具合悪そうだったんで、介抱してただけですよ。連れが来たなら俺達は失礼します」
そう言ってゾロゾロとその場を去っていく男達。直接的なことはされていない、未遂ではある。証拠もない。だから訴えることも警察を呼ぶことも出来ない。その事実が憎らしくて、それと同時に未遂では無かったその先のことを考えてしまって、身体がすくんだ。よろけた私を、羅樹が優しく抱き止めてくれる。先程の男達とは違う、包み込むような温かい手。
「遅くなってごめん」
私と真っ直ぐ目を合わせて、申し訳なさそうに微笑むものだから。その水色の瞳に酷く安心してしまって、同時に恐怖が襲って来た。
「……ら、き…っ」
私は羅樹にしがみつくようにして、声を押し殺して泣いた。
もしかしたら、私が困っているのに気付いて助け出してくれただけかもしれない。
そう思い込もうにも、暗がりの人気のない場所に連れ込まれたという事実は変わらない。私を人混みから離してくれただけと思いたくとも、気味悪く浮かべられた薄ら笑いが気になって仕方がない。思い込みだと信じたい。私を相手にする筈がないと、自意識過剰だと嘲笑いたい。でも出来なかった。頭の何処かで警鐘が鳴る。今すぐ逃げなければ、と恐怖心が告げる。しかし逃げ道は数人の男達によって塞がれ、私の手は掴まれたままである。震える腕を引っ込めようにも、こちらを気遣う様子のない容赦のない力の入れ方のせいで動かすことが出来ない。
「あ、あの…」
声が震える。喉が声を出すことを拒否する。それでも言わなければ、何かしら退路を導き出さなければ。
「お姉さんさぁ、具合悪いの?」
頭上から降って来たのは、予想外の言葉だった。私が驚いて顔を上げると、乱暴に頭を壁に押さえつけられた。ガンッと鈍い音と同時に後頭部に痛みが走る。
「やっぱり!熱いよ、熱があるんじゃない?」
至近距離でヘラヘラと笑う。相手の意図が分からず、ただ痛みに耐えた。
「やばいじゃん。休んだ方が良いよ」
「俺ら、良い休憩場所知ってるんだよね」
「一緒に行こうよ」
急に腕を引かれ、私はバランスを崩した。それを支えるように抱き止められた瞬間、背筋を寒気が襲った。
「け、結構です!大丈夫なので!」
突き飛ばすように離れると、舌打ちと共に「いってぇ…」という低い声が聞こえて来た。無視して走り出そうとしたところで、他の男が私の足を引っ掛け、別の男に手を掴まれ腰を抱かれてしまった。
「離して!嫌!やめて!」
出せる限りの精一杯の大声を出すが、喧騒に紛れて届かない。耳が痛いくらいの甲高い声で、泣きそうになりながら必死に叫ぶ。体を捩り抵抗する。「うるさい」と口を塞がれた。その手を叫ぶ勢いのまま噛んで、血の味を吐き出すように声を張り上げる。
誰でもいい、誰か気付いて。
お願い。
誰か、誰か。
助けて、羅樹。
「夕音!!」
明るい方から現れたのは、紛れもなく私の大好きな人で。一瞬、時が止まったかのように感じた。
羅樹は私を見つけると男達から引き剥がし、守るように、庇うように抱き締めてくれた。
「何を、してるんですか」
聞いたこともない羅樹の低い声。威圧感を放つ険しい表情に男達は一瞬怯んだが、悪びれる様子もなく口を開いた。
「そのお姉さんが具合悪そうだったんで、介抱してただけですよ。連れが来たなら俺達は失礼します」
そう言ってゾロゾロとその場を去っていく男達。直接的なことはされていない、未遂ではある。証拠もない。だから訴えることも警察を呼ぶことも出来ない。その事実が憎らしくて、それと同時に未遂では無かったその先のことを考えてしまって、身体がすくんだ。よろけた私を、羅樹が優しく抱き止めてくれる。先程の男達とは違う、包み込むような温かい手。
「遅くなってごめん」
私と真っ直ぐ目を合わせて、申し訳なさそうに微笑むものだから。その水色の瞳に酷く安心してしまって、同時に恐怖が襲って来た。
「……ら、き…っ」
私は羅樹にしがみつくようにして、声を押し殺して泣いた。
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