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消えないFlashback 羅樹
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お母さんがいなくなった。お父さんが泣いて、苦しんで、僕にあまり構ってくれなくなった。笑顔なんてほとんど見ていない。そんな毎日だった。寂しかったけど、手を伸ばしたら振り払われてしまいそうで。恐ろしくて、良い子でいようとして、僕は現実から目を逸らし続けた。
そんなある日、僕の手を掴んだ女の子がいた。名前は稲森 夕音。近所に住む幼馴染の女の子で、僕を見て険しい表情を浮かべた。
「どうせ家にいても1人なんでしょ?なら、私の話し相手してよ!」
傲慢にそう告げた彼女の耳が少し赤くて、僕を気遣ってくれたのだと気付いた。その事実が嬉しくて、僕は泣きそうなのを我慢して笑った。久しぶりに誰かと過ごす日はとても楽しくて、嬉しくて、幸せだった。そして、夕音が僕の手を引いてくれたあの日から、たくさんのことが変わった。お父さんが僕との時間を作ってくれるようになった。話す頻度も増え、僕は家族の温もりを取り戻していった。夕音のお陰で。夕音がいなかったらきっと、今も僕は寂しさを閉じ込めて悲しい思いをしていただろう。だから今度は僕が、夕音の困ったときには助けてあげたいってずっと思っていたんだ。
そんなある日のことだった。
近所の神社に遊びに行った。霜月神社とは違って遊具があるその場所は、秘密基地のように隠れる場所もあって、楽しくて好きだった。何して遊ぼうか問い掛けようと振り向くと、夕音は明後日の方向を見てぼんやりしていた。
「夕音ちゃん?」
声を掛けても、返事はない。夕音は僕のことなんて知らないかのように、どこかに向けて歩き出した。手を掴もうとしたら何かに弾かれた。吹き飛ばされている間に夕音は建物の裏に入ってしまい、慌てて追い掛けた。夕音は虚ろな目で空を見上げていた。
「夕…っ」
そしてそこで目にしてしまった。強い風が吹き荒ぶ中、忽然と夕音が消える瞬間を。
「なっ…!」
直前までそこにいた。知ってる。あれは夕音だった。夕音がいなくなった。消えてしまった。僕が吹き飛ばされたりなんかしたから。僕が止められなかったから。夕音が、目の前で。
「夕音ちゃん!!夕音ちゃ…っ夕音!!ゆうねぇ!!」
僕は必死に叫んだ。神社の中には誰もいなくて、まるで世界に僕1人だけが取り残されたようだった。
「ゆうっ、ねぇっ…!!夕音!どこ!?返事をして!夕音!!やだっ…夕音ぇ!!!」
喉から血の味がした。声が擦り切れて、咳が止まらなくなった。それでも、夕音がいなくなったショックの方が大きくて、自分の不調になんか構っていられなかった。
夕音に会えなくなるのは、それだけは嫌だ。
「…待ってよ、夕音ぇっ!!!」
そんな想いだけで、僕は必死に彼女の名前を呼び続けた。
そんなある日、僕の手を掴んだ女の子がいた。名前は稲森 夕音。近所に住む幼馴染の女の子で、僕を見て険しい表情を浮かべた。
「どうせ家にいても1人なんでしょ?なら、私の話し相手してよ!」
傲慢にそう告げた彼女の耳が少し赤くて、僕を気遣ってくれたのだと気付いた。その事実が嬉しくて、僕は泣きそうなのを我慢して笑った。久しぶりに誰かと過ごす日はとても楽しくて、嬉しくて、幸せだった。そして、夕音が僕の手を引いてくれたあの日から、たくさんのことが変わった。お父さんが僕との時間を作ってくれるようになった。話す頻度も増え、僕は家族の温もりを取り戻していった。夕音のお陰で。夕音がいなかったらきっと、今も僕は寂しさを閉じ込めて悲しい思いをしていただろう。だから今度は僕が、夕音の困ったときには助けてあげたいってずっと思っていたんだ。
そんなある日のことだった。
近所の神社に遊びに行った。霜月神社とは違って遊具があるその場所は、秘密基地のように隠れる場所もあって、楽しくて好きだった。何して遊ぼうか問い掛けようと振り向くと、夕音は明後日の方向を見てぼんやりしていた。
「夕音ちゃん?」
声を掛けても、返事はない。夕音は僕のことなんて知らないかのように、どこかに向けて歩き出した。手を掴もうとしたら何かに弾かれた。吹き飛ばされている間に夕音は建物の裏に入ってしまい、慌てて追い掛けた。夕音は虚ろな目で空を見上げていた。
「夕…っ」
そしてそこで目にしてしまった。強い風が吹き荒ぶ中、忽然と夕音が消える瞬間を。
「なっ…!」
直前までそこにいた。知ってる。あれは夕音だった。夕音がいなくなった。消えてしまった。僕が吹き飛ばされたりなんかしたから。僕が止められなかったから。夕音が、目の前で。
「夕音ちゃん!!夕音ちゃ…っ夕音!!ゆうねぇ!!」
僕は必死に叫んだ。神社の中には誰もいなくて、まるで世界に僕1人だけが取り残されたようだった。
「ゆうっ、ねぇっ…!!夕音!どこ!?返事をして!夕音!!やだっ…夕音ぇ!!!」
喉から血の味がした。声が擦り切れて、咳が止まらなくなった。それでも、夕音がいなくなったショックの方が大きくて、自分の不調になんか構っていられなかった。
夕音に会えなくなるのは、それだけは嫌だ。
「…待ってよ、夕音ぇっ!!!」
そんな想いだけで、僕は必死に彼女の名前を呼び続けた。
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