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1月8日 手の痕
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また私の病室のドアがノックされた。入って来たのはピンクベージュのコートを身に付けた由芽だった。
「おー、久しぶり」
「久しぶり…?まぁ、そうだね」
由芽はサイドテーブルに焼き菓子の入った紙袋を置き、くすくすと笑った。
「いつの間に澪愛様と仲良くなってたの?」
「仲良くって…花火に頼まれてたまに遊びに行ってただけだよ」
「だけって言っても凄いけどね。ここだって澪愛家御用達の医者の系列病院だし、個室なんて相当愛されてるじゃん。しかも夕音の親とか私達が入りやすいように家の近くだし」
「そうなの?」
由芽の説明は初耳だ。確かに花火が澪愛様の屋敷に寝室を用意するというのは止めたらしいが、まさかそこまで配慮されているとは思っていなかった。
「そうだよ。…榊原くんも、やっと落ち着けたみたいだね」
由芽が困ったような表情を浮かべて、ベッドに突っ伏している羅樹を見つめる。言葉の意味が分からなくて首を傾げると、由芽は苦笑いをした。
「夕音が倒れたって聞いてから、ずっと取り乱してたしずっと泣いてた。毎日お見舞いに来てたみたいで、私とか紗奈とかは交代で来てたんだけど、誰が来てもいつも居たって報告受けてるよ」
由芽の言葉に、私は戸惑う。私が倒れてから毎日そんな様子だったなら、起きた私を見て羅樹が駆け寄って来たのも頷ける。けれど、何だか引っかかる。目覚めないのは確かに変だが、命に別状はないと言われているわけだし、そこまで冷静さを失うだろうか。まるで、過去にも同じことが起こったかのような、幼児みたいな怯え方だった。
考え込んでいる私を見て、由芽は視線を巡らせる。ある1点に視点を定めて、感心したように呟いた。
「ふむ。愛されてるね、夕音」
「え?」
由芽は口角を意地悪く上げて笑った。
「手。榊原くんの痕付いてるよ。どれだけ必死に握ってたんだか。邪魔者はさっさと退散しますかね。皆心配してたし、報告もしなきゃ。またね、夕音」
手を振りつつ、さっさと扉を閉めて行ってしまう。私は握られたままの手を見て、指の痕が赤く付いているのに気付いた。恐らく両手で握りしめるように掴まれていたのだと思う。そこまで考えて、由芽や花火が来る前のことを思い出した。
羅樹は、起きた私を見て驚いて花瓶を落とし、それで、駆け寄って来て、私に飛び込んで来た。私の首に腕を回し、ぎゅっと密着するような形で、抱き締めるように。
「~~~~っ!?!?!?」
声にならない叫び声が上がる。寝起きな上状況が掴めなかったせいで、気付いていなかった。私、羅樹に抱き締められていた。今も手を繋いでいる。解こうにも強い力で握られているし、由芽から聞いた話を考えれば無理やり解こうなんて気も起きない。そこまで心配を掛けてしまったのは私なのだ。諦めて、繋がれた手を見つめていた。
「おー、久しぶり」
「久しぶり…?まぁ、そうだね」
由芽はサイドテーブルに焼き菓子の入った紙袋を置き、くすくすと笑った。
「いつの間に澪愛様と仲良くなってたの?」
「仲良くって…花火に頼まれてたまに遊びに行ってただけだよ」
「だけって言っても凄いけどね。ここだって澪愛家御用達の医者の系列病院だし、個室なんて相当愛されてるじゃん。しかも夕音の親とか私達が入りやすいように家の近くだし」
「そうなの?」
由芽の説明は初耳だ。確かに花火が澪愛様の屋敷に寝室を用意するというのは止めたらしいが、まさかそこまで配慮されているとは思っていなかった。
「そうだよ。…榊原くんも、やっと落ち着けたみたいだね」
由芽が困ったような表情を浮かべて、ベッドに突っ伏している羅樹を見つめる。言葉の意味が分からなくて首を傾げると、由芽は苦笑いをした。
「夕音が倒れたって聞いてから、ずっと取り乱してたしずっと泣いてた。毎日お見舞いに来てたみたいで、私とか紗奈とかは交代で来てたんだけど、誰が来てもいつも居たって報告受けてるよ」
由芽の言葉に、私は戸惑う。私が倒れてから毎日そんな様子だったなら、起きた私を見て羅樹が駆け寄って来たのも頷ける。けれど、何だか引っかかる。目覚めないのは確かに変だが、命に別状はないと言われているわけだし、そこまで冷静さを失うだろうか。まるで、過去にも同じことが起こったかのような、幼児みたいな怯え方だった。
考え込んでいる私を見て、由芽は視線を巡らせる。ある1点に視点を定めて、感心したように呟いた。
「ふむ。愛されてるね、夕音」
「え?」
由芽は口角を意地悪く上げて笑った。
「手。榊原くんの痕付いてるよ。どれだけ必死に握ってたんだか。邪魔者はさっさと退散しますかね。皆心配してたし、報告もしなきゃ。またね、夕音」
手を振りつつ、さっさと扉を閉めて行ってしまう。私は握られたままの手を見て、指の痕が赤く付いているのに気付いた。恐らく両手で握りしめるように掴まれていたのだと思う。そこまで考えて、由芽や花火が来る前のことを思い出した。
羅樹は、起きた私を見て驚いて花瓶を落とし、それで、駆け寄って来て、私に飛び込んで来た。私の首に腕を回し、ぎゅっと密着するような形で、抱き締めるように。
「~~~~っ!?!?!?」
声にならない叫び声が上がる。寝起きな上状況が掴めなかったせいで、気付いていなかった。私、羅樹に抱き締められていた。今も手を繋いでいる。解こうにも強い力で握られているし、由芽から聞いた話を考えれば無理やり解こうなんて気も起きない。そこまで心配を掛けてしまったのは私なのだ。諦めて、繋がれた手を見つめていた。
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