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12月30日 友人
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中振袖が大きく揺れる。私を庇うように上げられた手が、指先まで美しく伸びている。爪の先まで気を遣っているかのような洗練された仕草。着物に合わせた赤の水引がピンッと張った。
「私の友人を愚弄する無礼は、許しませんわ」
凛とした扇様の声に、先程までザワザワと騒がしかった会食会場が静寂で満ちた。視線が私達を取り囲む。
「ぐ、愚弄だなんてそんなこと!わたくし達がする筈無いでしょう!」
「そうですわ、言い掛かりはよしてくださいまし!」
視線が集まった瞬間、オドオドと言い訳を始めた令嬢達。心底見苦しい。向かいに扇様がいるから尚更だろう。
「私は自分の耳で聞いたことを信じます。先程の言葉、雑言でないのなら何のつもりだったのですか」
令嬢達は扇様の剣幕に怯み、一歩二歩と後ずさる。今にも逃げ出そうとする彼女らに、私からも言いたいことがあった。扇様の手を下させ、隣に立つ。
「扇様は、貴方達の言う通り名も知られていない私にも優しく接してくださいます。貴方達が召使だと見下して呼ぶ付き人達にも、1人1人心を込めて接していらっしゃいます」
私は扇様と目を合わせ、微笑む。扇様は驚いたような表情を浮かべた後、嬉しそうにはにかんだ。私はもう一度令嬢達に目を向け、はっきりと言い放つ。
「そのような誠実で心優しい扇様が強欲に見えるというのなら、1度その目を磨き直すことをお勧めします」
すっかり戦意喪失した令嬢達がバタバタと部屋を出るのを見送った後、静まりかえった会場の中に「ふふっ」と笑い声が響いた。声の主は紺様だった。
「いやぁ、扇様は良い友人を持ったね。果敢に立ち向かうその姿、とても格好良かった」
「あ、ありがとうございます…?」
「それに、数年前の誰かさんそっくりだ。ねぇ、扇様?」
紺様が視線を向けると、扇様は「えっ」と戸惑ったような声を上げて考えるような仕草をした。首を傾げながら必死に記憶を探っている。
「覚えていないくらい、さりげない行動だったんだろうね。私は絶対に忘れられないけどね」
紺様はボソッと小さく呟き、わかりにくいように私に目配せした。
そして扇様のご両親、澪愛様が呼び掛ける。
「本日は年末の忙しい時期にも関わらず、お集まりいただいてありがとうございました。これを持ちまして歳の瀬の挨拶とさせていただきたく存じます」
どうやら会食は終わりらしい。ホッと胸を撫で下ろす。考えに耽っていた扇様は慌てて顔を上げ、私の方を見た。
「夕音、部屋に戻りましょう」
「はい、わかりました」
私は微笑んで、扇様の後に続いて会場を出る。紺様は残る必要があるのか、笑顔でひらひらと手を振っていた。
「私の友人を愚弄する無礼は、許しませんわ」
凛とした扇様の声に、先程までザワザワと騒がしかった会食会場が静寂で満ちた。視線が私達を取り囲む。
「ぐ、愚弄だなんてそんなこと!わたくし達がする筈無いでしょう!」
「そうですわ、言い掛かりはよしてくださいまし!」
視線が集まった瞬間、オドオドと言い訳を始めた令嬢達。心底見苦しい。向かいに扇様がいるから尚更だろう。
「私は自分の耳で聞いたことを信じます。先程の言葉、雑言でないのなら何のつもりだったのですか」
令嬢達は扇様の剣幕に怯み、一歩二歩と後ずさる。今にも逃げ出そうとする彼女らに、私からも言いたいことがあった。扇様の手を下させ、隣に立つ。
「扇様は、貴方達の言う通り名も知られていない私にも優しく接してくださいます。貴方達が召使だと見下して呼ぶ付き人達にも、1人1人心を込めて接していらっしゃいます」
私は扇様と目を合わせ、微笑む。扇様は驚いたような表情を浮かべた後、嬉しそうにはにかんだ。私はもう一度令嬢達に目を向け、はっきりと言い放つ。
「そのような誠実で心優しい扇様が強欲に見えるというのなら、1度その目を磨き直すことをお勧めします」
すっかり戦意喪失した令嬢達がバタバタと部屋を出るのを見送った後、静まりかえった会場の中に「ふふっ」と笑い声が響いた。声の主は紺様だった。
「いやぁ、扇様は良い友人を持ったね。果敢に立ち向かうその姿、とても格好良かった」
「あ、ありがとうございます…?」
「それに、数年前の誰かさんそっくりだ。ねぇ、扇様?」
紺様が視線を向けると、扇様は「えっ」と戸惑ったような声を上げて考えるような仕草をした。首を傾げながら必死に記憶を探っている。
「覚えていないくらい、さりげない行動だったんだろうね。私は絶対に忘れられないけどね」
紺様はボソッと小さく呟き、わかりにくいように私に目配せした。
そして扇様のご両親、澪愛様が呼び掛ける。
「本日は年末の忙しい時期にも関わらず、お集まりいただいてありがとうございました。これを持ちまして歳の瀬の挨拶とさせていただきたく存じます」
どうやら会食は終わりらしい。ホッと胸を撫で下ろす。考えに耽っていた扇様は慌てて顔を上げ、私の方を見た。
「夕音、部屋に戻りましょう」
「はい、わかりました」
私は微笑んで、扇様の後に続いて会場を出る。紺様は残る必要があるのか、笑顔でひらひらと手を振っていた。
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