神様自学

天ノ谷 霙

文字の大きさ
上 下
437 / 812

12月27日 練習開始

しおりを挟む
深沙ちゃんに指示を仰ぎながら、明と共に給水の準備を行う。ウォータージャグに予め用意されていたスポーツドリンクを注ぎ、紙コップを付属したカップディスペンサーに入れた。1年生2人は記録用紙とペンを準備し、もう片手にはストップウォッチを持っている。八千奈は慣れからかサクサクと様々な仕事をこなしていた。
「終わったか?ならこっちを手伝ってくれ!」
「はい!」
陸上部の顧問であり、私のクラスの現代文を担当している先生に呼ばれる。バトンゾーンを示すマーカーコーンの設置を頼まれた。
「稲森、それはもう2歩奥で…明はそこっす!」
鹿宮くんが遠くから大声で指示をしてくれるので、とても分かりやすかった。多少のズレを修正すると、先生からもOKサインを貰えた。
「夕音ちゃん、明ちゃん、こっち来てー!」
「はーい!」
普段の様子からは想像も出来ないような大きな声で、深沙ちゃんに呼ばれた。何となく気合が入って、小走りで向かう。記録用紙とペンが渡された。深沙ちゃんは1年生2人を見てハキハキと指示を出す。
「2人は今日、短距離と長距離とハードルを担当して。先生も今日そっち重視で見るから」
「「はい!」」
「八千奈ちゃんも同じ。タイム測定慣れてるよね?」
「大丈夫やでー」
「明ちゃんは三段跳びと走り幅跳びね。砂場のとこ。深沙もそっち行くから」
「うん、了解」
「夕音ちゃんは走り高跳び。浅野くんがいるから、何かあったらそっちに聞いてね」
「わかった」
言われた通り、校庭の真ん中の辺りに準備されている場所へ向かう。私に気付いた浅野くんが、ふっと笑った。
「稲森が記録してくれるのか?」
「うん。わからないところがあったら教えてね」
「おー。なるべくカバー出来るようににするわ。ハイジャンプの奴らは騒がしい奴が多いから気を付けろよ」
「え?う、うん?」
「あー!浅野先輩が笑ってるー!」
「その人が彼女ですかー!?前に彼女が出来たって言ってましたよねー!?」
「…ほら、こういう奴らだ」
「あー、大体分かった」
浅野くんは騒ぎ出した後輩の頭を軽くチョップした。大袈裟なリアクションにため息を吐いて、訂正してくれる。
「違ぇ、ただのクラスメイトだ」
「本当ですかー?」
「あの鬼の浅野先輩が笑ったのにですか??」
「あぁ?」
「「すみませんでしたー!!」
まるでコントのように流れる会話に、思わず笑ってしまう。その様子に気付いた女の子が、私の側ににやけ顔で寄ってきた。
「隠さなくていいんですよ。えーっと稲森先輩、浅野先輩を宜しくお願いしま…っ痛!」
浅野くんが女の子の頭をペシっと叩いたらしい。女の子は頭を押さえて浅野くんに驚いた顔を向けた。
「違ぇっつってんだろ!」
「そうだよ。浅野くんの彼女さんは吹奏楽部だもの」
「稲森!!」
浅野くんの耳が赤く染まり、後輩達の瞳がキラキラと輝く。どうやら、その辺りの情報は全く開示していなかったらしい。私が詰め寄られる前に、浅野くんが怒号にも似た大きな声で号令をかけた。
「練習始めんぞ!」
その声にビクッと肩を震わせて、皆顔付きを変える。スイッチが入ったらしい。私も切り替え、バーの近くに立った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

セキワンローキュー!

りっと
青春
活発な少年・鳴海雪之丞(なるみ ゆきのじょう)は、小学校五年生のときに親友の大吾をかばった事故により左手を失った。 罪の意識に耐えかねた大吾は転校して雪之丞の前から姿を消してしまったが、いつか再会したときに隻腕の自分を見て呵責に苦しんでほしくないと思った雪之丞は気丈に振る舞い、自分をからかう奴らなどいない状況を作ろうと決意する。その手段として、周囲を威嚇するために喧嘩ばかりを繰り返す日々を過ごしていた。  高校生になった雪之丞は、バスケ部の先輩に惹かれてバスケ部に入部する。左手のないハンデを乗り越えようとひたすらに努力を重ねていく雪之丞は急速に力をつけ、バスケにのめり込むようになる。 ある日、バスケ部の練習試合で雪之丞は強豪チームでエースとなっていた大吾と再会する。雪之丞は再会を喜んだものの、大吾は贖罪の気持ちから散漫としたプレーをした挙句にバスケを辞めると言い出した。 今までの生き方を否定されたようで傷ついた雪之丞は、やる気がなくなってしまいバスケから離れようとするが、そんな彼を支えてくれたのはーー? 隻腕のバスケプレーヤーとして、いずれ雪之丞はその名を世界に轟かせる。 伝説への第一歩を踏み出す瞬間を、ぜひご覧ください。

【改稿版】人間不信の俺が恋なんてできるわけがない

柚希乃愁
青春
青春ボカロカップにエントリーしました!開催中は一日複数回投稿します!ご一読、お気に入り登録をぜひよろしくお願い致します。 本編完結しました。 自分のことが嫌いな風見春陽(かざみ はるひ)は高校2年になった。 黒髪で目元まで隠れた長い前髪に、黒縁眼鏡をかけた彼は、周囲から根暗な陰キャと認識されていた。 他人を信じられない春陽は、学校生活を一人で平穏に過ごすため、目立つ人物とは関わらないようにしてきた。 1年の時もそれで1年間平穏に学校生活を送れた春陽は、2年でも同じように過ごそうと決めていた。 2年のクラスでは春陽にとっての要注意人物は3人。 白月雪愛(しらつき ゆあ) 新条和樹(しんじょう かずき) 佐伯悠介(さえき ゆうすけ) しかし、そのうち一人は同じ中学の知り合いで…。 ある日、バイト先から買い出しに出た春陽は、偶然、男達に絡まれている同じ学校の制服を着た女子生徒を助けた。 それが同じクラスの雪愛だとは気づかずに。 ここからすべては始まった―――。 バイト中の春陽は学校とは別人のような風貌で、ハルと呼ばれていた。 男性が苦手との噂の彼女は春陽とは気づかず、なぜかハルに近づいてくる。 「私はもっとハルくんと仲良くなりたい」 春陽には雪愛が何を考えているのかがわからない。 加えて、雪愛と話す陰キャな自分を想像し、周囲の反応の怖さから嫌がる春陽。 だが、雪愛の想いは止まらず―――。 五月の連休中、ついに雪愛は、同じクラスの風見春陽がハルだと知る。 そのことに驚きつつもこれまでと変わらず距離を詰めようとする雪愛。 なぜ自分のような人間にクラスの中心にいるような人が、と戸惑いを隠せない春陽だが、雪愛の真っ直ぐな言葉が春陽の心境に変化をもたらしていく。 一方、雪愛の友人達は、雪愛が男嫌いだということを知っており、学校で自分から春陽に近づく雪愛に驚きを隠せない。 そして、雪愛から話を聞いた友人達も春陽に興味を持ち始める。 どんどんと自分の理想である平穏な学校生活からかけ離れていく春陽。 その結果、彼は様々な人と関わっていくことになる。 雪愛の春陽への想いは、友情なのか恋なのか。 そして、人との関わりを避けて生きてきた春陽の想いは……。 春陽の学校生活が動き始めたとき、それぞれの想いも動き始める―――。 焦れったくてキュンキュンする、純愛系ラブコメここに開幕! *表紙は、日華てまり様にいただきましたAIイラストです(*^^*) *本作はカクヨムコン9で中間選考を突破した作者の処女作を一話一話再確認し、加筆修正したものとなります。

父(とと)さん 母(かか)さん 求めたし

佐倉 蘭
歴史・時代
★第10回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★ ある日、丑丸(うしまる)の父親が流行病でこの世を去った。 貧乏裏店(長屋)暮らしゆえ、家守(大家)のツケでなんとか弔いを終えたと思いきや…… 脱藩浪人だった父親が江戸に出てきてから知り合い夫婦(めおと)となった母親が、裏店の連中がなけなしの金を叩いて出し合った線香代(香典)をすべて持って夜逃げした。 齢八つにして丑丸はたった一人、無一文で残された—— ※「今宵は遣らずの雨」 「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。

麻雀青春物語【カラスたちの戯れ】~牌戦士シリーズepisode3~

彼方
青春
   平成の世に後の麻雀界を大きく変える雀士たちがいた。  彼らが運命によって導かれた場所は富士2号店。 そこでは様々な才能がぶつかり合い高め合った。  これは、小さな小さな店の中で起きた壮大な物語。 作画:tomo0111

恋ぞつもりて

冴月希衣@商業BL販売中
青春
【恋ぞつもりて】いや増す恋心。加速し続ける想いの終着点は、どこ? 瀧川ひかる——高校三年生。女子バレー部のエースアタッカー。ベリーショート。ハスキーボイスの気さくな美人さん。相手を選ばずに言いたいことは言うのに、さっぱりした性格なので敵を作らない。中等科生の頃からファンクラブが存在する皆の人気者。 麻生凪——高校一年生。男子バレー部。ポジションはリベロ。撮り鉄。やや垂れ気味の大きな目のワンコ系。小学一年生の夏から、ずっとひかるが好き。ひーちゃん至上主義。十年、告白し続けても弟扱いでまだ彼氏になれないが、全然諦めていない。 「ひーちゃん、おはよう。今日も最高に美人さんだねぇ。大好きだよー」 「はいはい。朝イチのお世辞、サンキュ」 「お世辞じゃないよ。ひーちゃんが美人さんなのは、ほんとだし。俺がひーちゃんを好きなのも本心っ。その証拠に、毎日、告ってるだろ?」 「はい、黙れー。茶番は終わりー」 女子バレー部のエースアタッカー。ベリーショートのハスキーボイス美人が二つ年下男子からずっと告白され続けるお話。 『どうして、その子なの?』のサブキャラ、瀧川ひかるがヒロインです。 ◆本文、画像の無断転載禁止◆ No reproduction or republication without written permission.

雨上がりに僕らは駆けていく Part2

平木明日香
青春
学校の帰り道に突如現れた謎の女 彼女は、遠い未来から来たと言った。 「甲子園に行くで」 そんなこと言っても、俺たち、初対面だよな? グラウンドに誘われ、彼女はマウンドに立つ。 ひらりとスカートが舞い、パンツが見えた。 しかしそれとは裏腹に、とんでもないボールを投げてきたんだ。

きみにふれたい

広茂実理
青春
高校の入学式の日に、イケメンの男子高校生から告白されたさくら。 まるで少女漫画のようなときめく出会いはしかし、さくらには当てはまらなくて――? 嘘から始まる学校生活は、夢のように煌いた青春と名付けるに相応しい日々の連続。 しかしさくらが失った記憶に隠された真実と、少年の心に潜む暗闇が、そんな日々を次第に壊していく。 最初から叶うはずのない恋とわかっているのに、止められない気持ち。 悩み抜いた二人が選んだ、結末とは―― 学園x青春xシリアスxラブストーリー

恋は虹色orドブ色?

黒辺あゆみ
青春
西田由紀はどこにでもいる、普通の地味な女子高生だ。ただし、人が色を纏って見えるという体質以外は。  この体質を利用して相性診断をしていたら、いつの間にか「お告げの西田」という異名持ちになっていた。  そんな由紀が猫と戯れる不良男子の近藤を目撃した日から、平穏だった生活がおかしな方向へ転換し始める。 「おめぇ、バイトしねぇ?」 「それは、夜のいかがわしいお店だったり、露出の激しい衣装で誰かを勧誘したりするバイトで?」 近藤にバイトに誘われて以来、毎日が慌ただしい。それでもマイペースに生きる由紀に、近藤が振り回されることとなる。  由紀の目の前に広がる世界は果たして虹色か、あるいは最低なドブ色?

処理中です...