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叫び
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叫んだのは、私では無かった。私達が入ってきた洞窟の入り口で蹲っている白髪の少女が、息も絶え絶えに胸元を押さえている。私の部屋に来た、あの白狐だった。
「…リィ…ロ…?」
私の下で寝ていた虹様が、感情も妖気も何もかもを失くしたようだった虹が、瞳を震わせて呟いた。虹が急に動き出したので、私はふわっと体が浮いて尻餅をつくことになった。虹は蹲っているリーロの元へ半ば這いずった膝立ちで近寄り、彼女の白い頬に自身の手を滑らせた。
「…冷たい…」
虹は一瞬驚いた顔をして、怯えながらそう呟いた。主人が側にいるからか、リーロは微笑んだ。しかし咳き込んだその唇からは血が流れていた。
「…虹、様…」
「リーロ!お前…!」
リーロは何かを言おうと口を開いたが、呪いを全てその身に受けたせいで言葉を満足に紡げずに咳き込んでしまう。リーロがチラッとこちらを向いた時、私の奥で何かが動いた。
『…私は、夕音様の呪いを自分に移しました』
私の口から、私のものではない言葉が溢れていく。その言葉に反応して、一斉に皆の視線が私に集まるのが分かった。
『もうこれ以上、虹様に罪を負わせたく無かったからです。ヒトの世に手を出せば、虹様はもう戻れません。ですが私であれば、我々の地のいざこざで片付けられます』
言葉が、思いが、伝わってくる。痛いくらいに主人の為を思う、彼女の心が。
『夕音様には私から祝福を送っております。彼女に降り掛かる災難が、呪言が、全て私に向くように。勝手をしたことをお許しください。私は虹様に罪を犯して欲しくなかったのです』
そこまで言い切って、やっと体に自由が戻った。視線を彷徨わせて見れば、リーロが満足そうに頷いていた。
「…そんな…リーロ、お前…」
虹はリーロを抱き締めた。赤い瞳から大粒の涙を流し、自分の為に尽くした使いに詫びるように、謝するように抱き締め続けた。
「呪いを解除する方法は…」
カサマの声に、はっと我に返る虹。リーロの肩を掴み、真剣な表情を浮かべる。
「必ず、必ず解除してやるから…だから、少し待っててくれ…!」
目尻に浮かべた涙を拭い、はっきりとそう告げた。自身の服を1枚脱ぎ、地面に敷いてその上にリーロを寝かせると立ち上がった。そして洞窟の突き当たりに手を当て、何かを唱える。すると壁がぐにゃりと歪んで、奥へ進む道が出て来た。
「頼む…辛抱してくれ…!」
虹はその道に入り、駆け出した。カサマと稲荷様がリーロの様子を見てくれていることを確認し、私も後を追った。
「…リィ…ロ…?」
私の下で寝ていた虹様が、感情も妖気も何もかもを失くしたようだった虹が、瞳を震わせて呟いた。虹が急に動き出したので、私はふわっと体が浮いて尻餅をつくことになった。虹は蹲っているリーロの元へ半ば這いずった膝立ちで近寄り、彼女の白い頬に自身の手を滑らせた。
「…冷たい…」
虹は一瞬驚いた顔をして、怯えながらそう呟いた。主人が側にいるからか、リーロは微笑んだ。しかし咳き込んだその唇からは血が流れていた。
「…虹、様…」
「リーロ!お前…!」
リーロは何かを言おうと口を開いたが、呪いを全てその身に受けたせいで言葉を満足に紡げずに咳き込んでしまう。リーロがチラッとこちらを向いた時、私の奥で何かが動いた。
『…私は、夕音様の呪いを自分に移しました』
私の口から、私のものではない言葉が溢れていく。その言葉に反応して、一斉に皆の視線が私に集まるのが分かった。
『もうこれ以上、虹様に罪を負わせたく無かったからです。ヒトの世に手を出せば、虹様はもう戻れません。ですが私であれば、我々の地のいざこざで片付けられます』
言葉が、思いが、伝わってくる。痛いくらいに主人の為を思う、彼女の心が。
『夕音様には私から祝福を送っております。彼女に降り掛かる災難が、呪言が、全て私に向くように。勝手をしたことをお許しください。私は虹様に罪を犯して欲しくなかったのです』
そこまで言い切って、やっと体に自由が戻った。視線を彷徨わせて見れば、リーロが満足そうに頷いていた。
「…そんな…リーロ、お前…」
虹はリーロを抱き締めた。赤い瞳から大粒の涙を流し、自分の為に尽くした使いに詫びるように、謝するように抱き締め続けた。
「呪いを解除する方法は…」
カサマの声に、はっと我に返る虹。リーロの肩を掴み、真剣な表情を浮かべる。
「必ず、必ず解除してやるから…だから、少し待っててくれ…!」
目尻に浮かべた涙を拭い、はっきりとそう告げた。自身の服を1枚脱ぎ、地面に敷いてその上にリーロを寝かせると立ち上がった。そして洞窟の突き当たりに手を当て、何かを唱える。すると壁がぐにゃりと歪んで、奥へ進む道が出て来た。
「頼む…辛抱してくれ…!」
虹はその道に入り、駆け出した。カサマと稲荷様がリーロの様子を見てくれていることを確認し、私も後を追った。
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