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12月18日 白
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ゆっくりと目を開けると、外は明るくなってきていた。枕元にある携帯画面を見ると、時刻は6時28分を指していた。視線だけを彷徨わせると、白く長い絹糸のようなものが何千本もさらさらと動くのが見えた。その糸を辿っていくと、遠くを見つめる女性がいた。女性というか、少女というか、年齢不詳の女の子がいた。糸だと思ったものは髪の毛で、風も吹いていないのに靡いているようだった。
最近、私の部屋にいろんな人が来るなぁ。
明らかにヒトとは違う者だった。そう思った理由は、"恋使"姿の私と同じ狐の耳と尾があったからだ。異なるのは、髪も耳も尾も全て真っ白であることだった。
「…あ、起きました?」
こちらに気付いたらしい。私の方を見てゆったりと微笑んだ。
「申し訳ないです、私の主人が」
「主人…?」
「虹様、こちらに来ていたでしょう?」
私が起き上がると、私の腕を引いてそっと撫でた。痛みが走ったので見てみると、そこには赤い線が走っていた。そういえば、虹様の爪に引っ掻かれていた気がする。
「…本来、私達のような者はこちらの世の者に傷付けることすら許されていません。我が主人は罪を犯しており、それを認めようともしません。主人に代わって、私がお詫び申し上げます」
そう言って、するりと私の肌を傷に沿って撫でた。染みるような痛みがしたあと、傷は綺麗さっぱり無くなっていた。
「そして…少々、失礼します」
そう呟くと、その方は私の額に自身の額を当てた。私の手に手を重ね、目を閉じる。端正な顔立ちに驚き、慌てて目を瞑った。
『此方に仇なす禍よ 彼の者を揺らす呪言よ 我が体内にそれを移せ 彼の者に祝福を』
美しい鈴のような声。それに伴って光が溢れた。白く、儚い雪のような淡い光。すっと手や額が離れたので目を開くと、至近距離で微笑む彼女がいた。瞬きした瞬間、私の視界が天井に代わっていた。いつの間にかベッドに寝かされている。
「はい、終わりです。お疲れ様でした。少々力をお借りしましたので、この後また数日寝込むかもしれません。代わりに、それ以降今回と同じことで体調を崩すことはないでしょう。私が出来るのはここまでです。力不足で、申し訳ないのですが」
鈴が耳元で鳴り響いているようだった。その言葉を理解する前に、何だか眠気が襲ってきた。
「…最後に一つだけ。貴方に近しい者ほど貴方の存在に気付いていません。それは貴方を失った悲しみを、思い出したくないからだと私は推測します。これは独り言ですので、聞こえてなくても結構ですよ」
ふふっという笑い声と共に、私はまた眠りについた。
最近、私の部屋にいろんな人が来るなぁ。
明らかにヒトとは違う者だった。そう思った理由は、"恋使"姿の私と同じ狐の耳と尾があったからだ。異なるのは、髪も耳も尾も全て真っ白であることだった。
「…あ、起きました?」
こちらに気付いたらしい。私の方を見てゆったりと微笑んだ。
「申し訳ないです、私の主人が」
「主人…?」
「虹様、こちらに来ていたでしょう?」
私が起き上がると、私の腕を引いてそっと撫でた。痛みが走ったので見てみると、そこには赤い線が走っていた。そういえば、虹様の爪に引っ掻かれていた気がする。
「…本来、私達のような者はこちらの世の者に傷付けることすら許されていません。我が主人は罪を犯しており、それを認めようともしません。主人に代わって、私がお詫び申し上げます」
そう言って、するりと私の肌を傷に沿って撫でた。染みるような痛みがしたあと、傷は綺麗さっぱり無くなっていた。
「そして…少々、失礼します」
そう呟くと、その方は私の額に自身の額を当てた。私の手に手を重ね、目を閉じる。端正な顔立ちに驚き、慌てて目を瞑った。
『此方に仇なす禍よ 彼の者を揺らす呪言よ 我が体内にそれを移せ 彼の者に祝福を』
美しい鈴のような声。それに伴って光が溢れた。白く、儚い雪のような淡い光。すっと手や額が離れたので目を開くと、至近距離で微笑む彼女がいた。瞬きした瞬間、私の視界が天井に代わっていた。いつの間にかベッドに寝かされている。
「はい、終わりです。お疲れ様でした。少々力をお借りしましたので、この後また数日寝込むかもしれません。代わりに、それ以降今回と同じことで体調を崩すことはないでしょう。私が出来るのはここまでです。力不足で、申し訳ないのですが」
鈴が耳元で鳴り響いているようだった。その言葉を理解する前に、何だか眠気が襲ってきた。
「…最後に一つだけ。貴方に近しい者ほど貴方の存在に気付いていません。それは貴方を失った悲しみを、思い出したくないからだと私は推測します。これは独り言ですので、聞こえてなくても結構ですよ」
ふふっという笑い声と共に、私はまた眠りについた。
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