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力の防御 稲荷
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どうにもおかしかった。夕音がその身に受けている姉神様からの祟りは、普通のヒトが耐えられるものではない。力を持つ、こちら側に近い者が耐える量も軽く超えている。わたしが吸い取った僅かな分でさえ、下位の神ならばその命を終えている量だ。私でも額に汗が滲む量の祟り。下位とはいえ、神を上回るその耐久力に、わたしは違和感を覚えた。何かが夕音の中にいなければ、肩代わりしていなければそんなことは起こり得ない。しかし探っても、何が入っているかは分からなかった。祟りによって余計に分からなくなっている。そんな状態だった。
流した魔力はやはり姉神様のもの。けれどその中に一滴も他の魔力は混じっていない。耐えるのなら、肩代わりしているのなら、他の魔力が混じっていないとおかしい。ヒトが怪我をしたら血を流すように、神が祟りを受ければ魔力が流れるのだ。それなのに夕音から吸い取った魔力には夕音の魔力も、他の何かの魔力も混じっていない。純粋な姉神様の力しか感じない。それが余計に不思議で、不気味で、違和感を感じさせた。
はぁはぁ、と夕音の切れていた息が整ってきた頃、わたしは彼女の額から手を離した。ヒトではないものの力をその身に受けて、もしくは宿して健康に生きている。
「…末恐ろしい娘じゃの」
そして同時に、本気で夕音を殺しにかかっている姉神様に怒りが湧いた。
「カサマ」
わたしが名を呼ぶと、毎度夕音をこちら側へ案内する狐が現れた。きちんと前足を揃え、障子を挟んだ奥から返事をする。
「何でしょうか」
「姉神様に使いを出せ。個々の感情でヒトに手を出すなど、神の風上にも置けぬ」
「承知致しました」
カサマは一瞬でその場から離れた。姉神様の元へ宣戦布告をしに。本来神同士の争いは御法度だが、ヒトの世を守らねばならぬ。ヒトの世に災いをもたらせば、姉神様は罰を受ける。どちらも避けたいことだった。もう既に姉神様は片足を突っ込んでいる。姉神様はそれほどまでにあのニンゲンに心酔していた。我を失っているのだ。もうこの世にはいない、姉神様に僅かでも想いを返したあのニンゲンのことを。僅かな時を共にして、姉神様の世に色を付けたあのニンゲンに感謝している。それでも、その個人に心酔しすぎだ。わたしの使いに手を出すまでに、盲目になってしまっているのは許されない。わたしは彼の方の決着をつけなければならない。わたしの初めの使いを失ったのも、姉神様を見てヒトに不安を覚えたからだった。もう失いたくない。誰かを失いたくはない。
穏やかに眠る夕音に、僅かに視線を落とした。
流した魔力はやはり姉神様のもの。けれどその中に一滴も他の魔力は混じっていない。耐えるのなら、肩代わりしているのなら、他の魔力が混じっていないとおかしい。ヒトが怪我をしたら血を流すように、神が祟りを受ければ魔力が流れるのだ。それなのに夕音から吸い取った魔力には夕音の魔力も、他の何かの魔力も混じっていない。純粋な姉神様の力しか感じない。それが余計に不思議で、不気味で、違和感を感じさせた。
はぁはぁ、と夕音の切れていた息が整ってきた頃、わたしは彼女の額から手を離した。ヒトではないものの力をその身に受けて、もしくは宿して健康に生きている。
「…末恐ろしい娘じゃの」
そして同時に、本気で夕音を殺しにかかっている姉神様に怒りが湧いた。
「カサマ」
わたしが名を呼ぶと、毎度夕音をこちら側へ案内する狐が現れた。きちんと前足を揃え、障子を挟んだ奥から返事をする。
「何でしょうか」
「姉神様に使いを出せ。個々の感情でヒトに手を出すなど、神の風上にも置けぬ」
「承知致しました」
カサマは一瞬でその場から離れた。姉神様の元へ宣戦布告をしに。本来神同士の争いは御法度だが、ヒトの世を守らねばならぬ。ヒトの世に災いをもたらせば、姉神様は罰を受ける。どちらも避けたいことだった。もう既に姉神様は片足を突っ込んでいる。姉神様はそれほどまでにあのニンゲンに心酔していた。我を失っているのだ。もうこの世にはいない、姉神様に僅かでも想いを返したあのニンゲンのことを。僅かな時を共にして、姉神様の世に色を付けたあのニンゲンに感謝している。それでも、その個人に心酔しすぎだ。わたしの使いに手を出すまでに、盲目になってしまっているのは許されない。わたしは彼の方の決着をつけなければならない。わたしの初めの使いを失ったのも、姉神様を見てヒトに不安を覚えたからだった。もう失いたくない。誰かを失いたくはない。
穏やかに眠る夕音に、僅かに視線を落とした。
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