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12月12日 針
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暗い顔、瞳に溜まった大粒の涙。私にはっきりと向けられた言葉。それらがノイズ混じりに、けれどはっきりと脳内に再生される。富くんに慰められて、発熱して、悪夢を見て、利羽と出掛けて。頭の片隅にはあったが考えないようにしていた。考えても分からなくて、何が理由なのか知らなくて、ただ恐怖に侵されていく感覚が怖かったからだ。逃げていることは分かっている。仲直りするためには、爽が泣いた理由を聞くためには話し合うことが必要であると。
「…夕音?」
「あ、ごめん。大丈夫だよ、平気」
私は電話越しで見えるはずのない笑顔を無意識に作っていた。何もないフリをするのに必死で、「困っていることがあるか?」の質問に「大丈夫」と返してしまった。私は気付いていなかったけれど、本当に困ったことがある人は平気なフリをするらしい。困っていなければ「何が?」と聞き返す筈なのに。この返答を聞いた利羽は、そのことを知っていたらしい。困ったように『そっか』と返した。
『何かあったら、相談してね』
「うん、ありがとう」
『それじゃあ、また月曜日に』
「うん、またね」
電話の切れた画面を見つめて、私は深く溜め息を吐いた。私には考えることがある。爽がどうして怒ったのか、それと一緒に思い出したこと、北原くんへの返事だ。学校を休んだ分、長引かせてしまった。
月曜日に、しっかりと返事をしよう。私には好きな人がいるからごめんね、って。言わなきゃ。関係が変わるのが怖くても、もう回り出してしまった針は止められないんだから。私だけが元の関係を切望しても、時計の針は戻ってはくれない。私はそれを理解しているはずなんだ。止めたいとどんなに願っても変わることなく動き続ける秒針に、何度も恐怖を抱いた。進むのが怖かった。羅樹との関係が変わっていくのが怖かった。
でもそれも今年中に終わらせる。今年というか、高校3年生に上がる前までには。猶予を持たせたわけではない。怖気づいたわけでもない。何となく、その前に終わらせなきゃならない気がしたんだ。来年には受験だし、卒業が待っている。家が近所ということに、幼馴染みに甘えるのはこれで最後にするんだ。
月曜日に何を言おうか。部活もあるだろうし放課後じゃない方が良いのだろうか。でも朝や昼休みも難しいと思う。クラスメイトの視線がただでさえ痛い。それに、それに。
わざわざ直接言ってくれたから。私もちゃんと向き合って言いたい。好きになってくれてありがとう、って。
そう思いながら、思考に耽っていった。
「…夕音?」
「あ、ごめん。大丈夫だよ、平気」
私は電話越しで見えるはずのない笑顔を無意識に作っていた。何もないフリをするのに必死で、「困っていることがあるか?」の質問に「大丈夫」と返してしまった。私は気付いていなかったけれど、本当に困ったことがある人は平気なフリをするらしい。困っていなければ「何が?」と聞き返す筈なのに。この返答を聞いた利羽は、そのことを知っていたらしい。困ったように『そっか』と返した。
『何かあったら、相談してね』
「うん、ありがとう」
『それじゃあ、また月曜日に』
「うん、またね」
電話の切れた画面を見つめて、私は深く溜め息を吐いた。私には考えることがある。爽がどうして怒ったのか、それと一緒に思い出したこと、北原くんへの返事だ。学校を休んだ分、長引かせてしまった。
月曜日に、しっかりと返事をしよう。私には好きな人がいるからごめんね、って。言わなきゃ。関係が変わるのが怖くても、もう回り出してしまった針は止められないんだから。私だけが元の関係を切望しても、時計の針は戻ってはくれない。私はそれを理解しているはずなんだ。止めたいとどんなに願っても変わることなく動き続ける秒針に、何度も恐怖を抱いた。進むのが怖かった。羅樹との関係が変わっていくのが怖かった。
でもそれも今年中に終わらせる。今年というか、高校3年生に上がる前までには。猶予を持たせたわけではない。怖気づいたわけでもない。何となく、その前に終わらせなきゃならない気がしたんだ。来年には受験だし、卒業が待っている。家が近所ということに、幼馴染みに甘えるのはこれで最後にするんだ。
月曜日に何を言おうか。部活もあるだろうし放課後じゃない方が良いのだろうか。でも朝や昼休みも難しいと思う。クラスメイトの視線がただでさえ痛い。それに、それに。
わざわざ直接言ってくれたから。私もちゃんと向き合って言いたい。好きになってくれてありがとう、って。
そう思いながら、思考に耽っていった。
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