神様自学

天ノ谷 霙

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執着rain 光

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俺はアネモネの花を握りしめた。どこから現れたのか、なんて気にせずに握りしめた。外の雨が弱くなる。
「俺は…執着…していた…?」
よろけた拍子に机にぶつかる。痛みが響く。白いアネモネの花が俺の心の澱みと相反してチカチカする。くらっと…全身の力が抜けた。

「…おい、花の香りが強いぞ」
「それはその人の想いだよ」
「…そうか…お前の力も強くなったのかもな」
「…そう、なのかも。想いに触れると、花が溢れて止まらない」
「それは…っ…」
「…」
「大丈夫、だ。お前は絶対に逃げないだろう?」
「…?えぇ、この使いの命を受けたからには、逃げないつもりだけど」
「なら、大丈夫だ…絶対に」

耳に響く声。遠い声。一つは先程まで話していた稲森。稲森のはずなのに、どこか違和感を感じた。薄目を開けると、稲森の姿は見えなかった。ただ浮いているような感覚がする。足元を見ると、何かに支えられて浮いている。ぼーっとしてしまい、何も考えられない状況になってしまった。
「…そろそろ雨が止む。帰りに寄るから待っていて」
「あぁ」
俺の姿勢がすっと戻された。その瞬間目が覚めるようだった。
これは、夢…?
「いな、もり…?」
蜃気楼のように現れた稲森に戸惑いを隠せない。ドキドキする。
「どうした?」
いつもと違う強気な態度。先程の夢の中の稲森のようだった。
「今…の、声…」
「声?」
「稲森と、誰かいなかったか?」
俺が聞くと、稲森は少しも態度を変えずに返答した。
「いや、私しかいなかったよ?」
「……っそう、か」
じゃあ、あれはなんだったのだろう。そんな事を考えながら稲森と会話をする。
「あ、雨。弱くなったみたいだね」
「…あぁ。そうだね」
窓の外を見ると、小雨になった空が見える。雲の隙間からきらきらと青空が見えている。
「桐竜さんへの想いは、断ち切れるか?」
「…え」
心の中の黒いものはいつの間にか軽くなっていて。溶けるようにその言葉は奥に落ちていった。
断ち切れない。このままじゃ。
その様子を見て察したのか、稲森は俺の目をまっすぐ見て言った。
「ヒントをあげる。『summer  orange  park』。ヒントじゃないか、答えだね」
「summer  orange  park…?」
英語で言われたその言葉を、なんとなく直訳してみた。夏、オレンジ、公園?
「じゃあ、後はアネモネに空を込めて」
「空…?」
稲森は、すっと微笑んでドアから出て行く。窓の外を見ると、雨がやんで虹がかかっていた。
「summer、orange…park…」
俺は携帯を取り出して、地図を開く。夏がつく公園を探してみた。すると、一件、近くに見つけた。
「夏みかん…公園…」
俺は何も疑わずに、ただそこへ向かって歩き始めていた。
~*~*~*~*~*~*~*~*~*~
「はぁ…はぁ…」
途中走ったりもしたからか、息はとっくに切れていた。そして静かに公園を見つめた。すると、近くにある黄色い壁の家から女の子が出てきた。ぱあっと目を輝かせ空を見上げている。
「き、りゅ…」
「…きれい…」
言葉にならない声が、名前を呼ぶことを躊躇った。
「桐竜、さん」
俺は、公園に足を踏み入れしっかりと言葉を発した。
「あれ?北原くん?」
澄んだ瞳で俺を見る。ドキドキと心臓は高鳴った。それでも、俺の気持ちは呪縛と一緒だ。断ち切ろう。
「ずっと…好きでした」
その言葉は静かに響いて。桐竜さんの瞳に溶けていった。
「…えっ…北原、くん…?」
「でも、桐竜さんは…一人の男に夢中なのはわかっているから、返事はいらない。でも、俺は好きだった。ずっと」
震えながらの言葉は、声となっていた。
「…っあ、…ぅ…。返事は、させて」
オロオロしながら返された言葉は、予想外だった。いや、よく考えたら桐竜さんらしい答えだった。
「うん」
俺はゆっくりと頷いた。桐竜さんは深呼吸をして、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「北原くんの言う通り…ごめんね。私、今一人の男の子にしか…夢中になれないの」
悲しげな顔で笑う桐竜さん。俺はその言葉を聞いて、すっと肩の荷が下りた気がした。
「ありがとう。応援してるよ。だからこれからも友達でいて?」
「!…もちろん!」
桐竜さんは弾ける笑顔で言った。俺はその様子を見て解放された気がした。
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