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12月8日 苦悩
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あの後、清歌さんのほわほわしたオーラと天然褒め責めに耐えかねて、私は3人の輪から離脱した。箒を肩に担いでいた件について怒られていた霙は、姉には弱いのかすぐに下ろしていた。電車に揺られている間も、思い出して顔が熱を帯びるのが辛かった。何度も顔を覆って誤魔化していたので、周りの人から奇異な目で見られても仕方なかった気がする。
そんなこんなで、今現在私はベッドの上で寝転がっている。このまま眠るつもりではないのだが、何となく座っていると落ち着かなくて寝転がってみた。それでも落ち着かないものは落ち着かないもので、ベッドの上で忙しなく寝返りを打っていた。手元に置いた携帯を見たり、ネットを使ったり、漫画を読んだり、何をしてもそれに集中することが出来ず、困っていた。もういっそこのまま眠ってしまおうかと目を瞑った瞬間、今日の出来事がフラッシュバックして襲い掛かってきて、余計集中出来ない。その中に一瞬浮かんだ、爽の涙を堪えた苦しそうな顔。
私はハッとして、目を見開いた。どうやら私は、富くんにすっかり慰められて忘れていたようだ。
一瞬でも思い出すと、その記憶が消えることは無い。さっきまで楽しい記憶でいっぱいだった脳内に、爽の「馬鹿」という声が反響する。横を通り過ぎていく、紫から白へグラデーションを形成している髪。今にも溢れそうな涙。今日見た映像が脳を通して画像として切り取られ、何枚も何枚も、そして何回も私の脳内を巡る。まるで蝕むようなその映像に、胸中は罪悪感で満たされた。
そうだ。私は、爽に何をしてしまったのか考えなくてはならない。
私は幸い"恋使"として人の感情に干渉する能力がある。能力が…。
そこまで考えたところで、私は今とある神様に「力」もしくは「命」を狙われていることを思い出した。そして同時に、自分に向けられた感情は読み取れないことを思い出した。北原くんの好意に気付けなかったように。
「あっ」
そういえば北原くんに返事もしていない。何もかも中途半端にしている自分に嫌気がさす。先程までのそわそわは何処へやら、今は苦しさと罪悪感でいっぱいだ。
「…どうしよう」
私は別に好きな人がいる。北原くんのことは好意的に思っているが、そこに恋愛感情が含まれたことは無い気がする。異性だから、という理由で多少緊張することはあっても、そこに「友人」以上の感情は無いのだ。
そう、だから返事は決まっている。
決まっている、のに。
どの状況で切り出せば良いのか分からなくなっていた。もう噂が立っている。人気のないところに呼び出せば何をしているのかと勘繰られる。そんなのは嫌だった。
すぐ断れば良かった。いきなりで頭が働かなかった。ずるずると引きずれば引きずるほど、言い出しにくいとは分かっているのに。身をもって、羅樹への思いを告げられずにいるのに。
黒い塊が、私の心を蝕むのが分かった。
そんなこんなで、今現在私はベッドの上で寝転がっている。このまま眠るつもりではないのだが、何となく座っていると落ち着かなくて寝転がってみた。それでも落ち着かないものは落ち着かないもので、ベッドの上で忙しなく寝返りを打っていた。手元に置いた携帯を見たり、ネットを使ったり、漫画を読んだり、何をしてもそれに集中することが出来ず、困っていた。もういっそこのまま眠ってしまおうかと目を瞑った瞬間、今日の出来事がフラッシュバックして襲い掛かってきて、余計集中出来ない。その中に一瞬浮かんだ、爽の涙を堪えた苦しそうな顔。
私はハッとして、目を見開いた。どうやら私は、富くんにすっかり慰められて忘れていたようだ。
一瞬でも思い出すと、その記憶が消えることは無い。さっきまで楽しい記憶でいっぱいだった脳内に、爽の「馬鹿」という声が反響する。横を通り過ぎていく、紫から白へグラデーションを形成している髪。今にも溢れそうな涙。今日見た映像が脳を通して画像として切り取られ、何枚も何枚も、そして何回も私の脳内を巡る。まるで蝕むようなその映像に、胸中は罪悪感で満たされた。
そうだ。私は、爽に何をしてしまったのか考えなくてはならない。
私は幸い"恋使"として人の感情に干渉する能力がある。能力が…。
そこまで考えたところで、私は今とある神様に「力」もしくは「命」を狙われていることを思い出した。そして同時に、自分に向けられた感情は読み取れないことを思い出した。北原くんの好意に気付けなかったように。
「あっ」
そういえば北原くんに返事もしていない。何もかも中途半端にしている自分に嫌気がさす。先程までのそわそわは何処へやら、今は苦しさと罪悪感でいっぱいだ。
「…どうしよう」
私は別に好きな人がいる。北原くんのことは好意的に思っているが、そこに恋愛感情が含まれたことは無い気がする。異性だから、という理由で多少緊張することはあっても、そこに「友人」以上の感情は無いのだ。
そう、だから返事は決まっている。
決まっている、のに。
どの状況で切り出せば良いのか分からなくなっていた。もう噂が立っている。人気のないところに呼び出せば何をしているのかと勘繰られる。そんなのは嫌だった。
すぐ断れば良かった。いきなりで頭が働かなかった。ずるずると引きずれば引きずるほど、言い出しにくいとは分かっているのに。身をもって、羅樹への思いを告げられずにいるのに。
黒い塊が、私の心を蝕むのが分かった。
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