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12月8日 ぐるぐるepisode
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富くんは色々な話をしてくれた。小学生からの霙や雪くんの面白い話を中心に、紗奈や竜夜くん、明の話もしてくれた。霙と竜夜は腐れ縁と言っているだけあって、喧嘩の話が多かった。小学生の頃からずっと富くんが止めているらしい。「雪は絶対止めないんだよ。昔一回止めて、流れ弾で霙に罵倒されたのがトラウマらしい…俺なんて入ってなくても罵倒されたことあるのに」と愚痴っていた。他にも微笑ましいエピソードをいくつか聞いて、私は自然と笑みが溢れるくらいにまで回復していた。
「…良かった」
「え?」
富くんがふっと微笑む。今日は星が少し明るくて、闇夜が紫がかっている。だからか、より神秘的に見えた。富くんはふいに立ち上がって、伸びをした。空になった缶を揺らし、「ちょっと捨てて来る」と呟いて走り出してしまった。1分も経たないうちに戻って来たので、何かを考える暇もなかった。富くんはスポーツバッグを肩に掛けて、私の方を見る。
「稲森は電車通学だよな?送るよ」
「え、いいよっ!大丈夫だよ?」
思いがけない富くんの言葉に、私はスクールバッグを急いで肩に掛けて立ち上がる。
「冬だし余計に暗いだろ?どうせ駅から俺の家までそんな遠くないし」
「えっ、富くんの家ってここから徒歩圏内なの?」
「ん?おぉ。あれ、言ってなかったっけ。駅までの道に神社あるじゃん?霜月神社。あれが霙の家だからその隣。隣っていっても神社の敷地広いから、隣って言うのか裏って言うのかよく分かんねーけどな」
あぁ、確かに霙も「隣に引っ越して来た」と言っていた気がする。霙の話だと雪くんのイメージが強くて、富くんは雪くんの双子の兄だというのに結び付かなかった。
「あー、じゃあこの流れのついでに俺の話もして良い?実は俺、霙の姉ちゃんと付き合ってるんだけどさ」
「え!?霙の、お姉さん…ってことは…」
最近会ったばかりのその人物。まさか富くんの彼女だとは思わなかった。小柄ではあるが大人っぽい雰囲気の女性だったと記憶している。他に姉がいなければ、確実にあの人だろう。
「清歌、さん?」
「お、当たり。知ってるの?」
「うん、数日前に会ったばっかり…」
「マジか!あぁ、まぁあの人、いつも神社の手伝いしてるしなぁ…」
「そ、そうなの?」
私は稲荷様に会いによく行くが、会ったのはこの前が初めてだった。いつも手伝いをしているような人が、そんなにタイミング良く私が来るときだけ不在、なんてことがあるのだろうか。
「おう。ただよく転ぶから外掃除は禁止令が出てるんだよ。だから大体社務所に引きこもってる。あ、社務所ってお守りとか御朱印とかがあるところな」
「へぇ…」
通りで見ないわけだ。私が稲荷様のところへ行くのと逆側に存在する社務所の方は、ほとんど見たことがなかった。
「清歌さんな、女の子を一人で帰すなんてやっちゃ駄目よ!って凄い怒るんだ。嫉妬とかを超えてそっちで怒るから、怒られないように送らせてくれないか?多分神社から見えるし…」
なんか納得がいった気がする。さりげない申し出だったし、慣れてるんだろうなと思ったがまさか彼女に怒られるからだとは。ちょっと面白かったので、清歌さんの話がもう少し聞きたくなって、お願いした。
「…良かった」
「え?」
富くんがふっと微笑む。今日は星が少し明るくて、闇夜が紫がかっている。だからか、より神秘的に見えた。富くんはふいに立ち上がって、伸びをした。空になった缶を揺らし、「ちょっと捨てて来る」と呟いて走り出してしまった。1分も経たないうちに戻って来たので、何かを考える暇もなかった。富くんはスポーツバッグを肩に掛けて、私の方を見る。
「稲森は電車通学だよな?送るよ」
「え、いいよっ!大丈夫だよ?」
思いがけない富くんの言葉に、私はスクールバッグを急いで肩に掛けて立ち上がる。
「冬だし余計に暗いだろ?どうせ駅から俺の家までそんな遠くないし」
「えっ、富くんの家ってここから徒歩圏内なの?」
「ん?おぉ。あれ、言ってなかったっけ。駅までの道に神社あるじゃん?霜月神社。あれが霙の家だからその隣。隣っていっても神社の敷地広いから、隣って言うのか裏って言うのかよく分かんねーけどな」
あぁ、確かに霙も「隣に引っ越して来た」と言っていた気がする。霙の話だと雪くんのイメージが強くて、富くんは雪くんの双子の兄だというのに結び付かなかった。
「あー、じゃあこの流れのついでに俺の話もして良い?実は俺、霙の姉ちゃんと付き合ってるんだけどさ」
「え!?霙の、お姉さん…ってことは…」
最近会ったばかりのその人物。まさか富くんの彼女だとは思わなかった。小柄ではあるが大人っぽい雰囲気の女性だったと記憶している。他に姉がいなければ、確実にあの人だろう。
「清歌、さん?」
「お、当たり。知ってるの?」
「うん、数日前に会ったばっかり…」
「マジか!あぁ、まぁあの人、いつも神社の手伝いしてるしなぁ…」
「そ、そうなの?」
私は稲荷様に会いによく行くが、会ったのはこの前が初めてだった。いつも手伝いをしているような人が、そんなにタイミング良く私が来るときだけ不在、なんてことがあるのだろうか。
「おう。ただよく転ぶから外掃除は禁止令が出てるんだよ。だから大体社務所に引きこもってる。あ、社務所ってお守りとか御朱印とかがあるところな」
「へぇ…」
通りで見ないわけだ。私が稲荷様のところへ行くのと逆側に存在する社務所の方は、ほとんど見たことがなかった。
「清歌さんな、女の子を一人で帰すなんてやっちゃ駄目よ!って凄い怒るんだ。嫉妬とかを超えてそっちで怒るから、怒られないように送らせてくれないか?多分神社から見えるし…」
なんか納得がいった気がする。さりげない申し出だったし、慣れてるんだろうなと思ったがまさか彼女に怒られるからだとは。ちょっと面白かったので、清歌さんの話がもう少し聞きたくなって、お願いした。
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