349 / 812
12月4日 干渉
しおりを挟む
神の地と呼ばれる神々の世は、こちらの世界を監視しながら様々な掟を定め、この世の理を決めているという。"この世の理"と言われてもピンと来ないが、来てしまう方が困るとのことで、私は深く追求しなかった。
「…自己紹介するべきかしら。と言っても私は稲荷のように分かりやすい名ではないのだけど」
独り言のように呟く神様を、私はどうするべきか分からずにただ見つめる。私のそんな様子を見て、神様はふぅ、と息を吐いた。
「そんなことどうでも良いか。貴方には必要のないことだわ」
「…あの」
自己完結してしまったようなので、せめて知りたいことだけでも教えてもらおうと口を開いた。神様は不思議そうに「ん?」とだけ返した。
「どうして私をここに…?」
何故か私の声は震えていた。前に他の神様に会った時は何も感じなかったのに、どうしてかこの神様の前では勝手に震えてしまう。声が小さくなってしまう。体を守るように身構えてしまう。それが何故か、そしてそれが正しい反応であると分かったのは、神様のこの後の言葉を理解した瞬間だった。
「…我らの世では、ある噂が流れているの。稲荷の使いの1つである"恋使"をその身に取り入れれば、人間になれると」
長い爪が私の顎に添えられる。間近に迫った美しい顔が、醜く歪んだ気がした。
背筋が凍りつく。恐怖で思考が回らない。
「私は、人間になりたいの」
その言葉が何を意味するか、唐突に理解した。多分私の脳は今、フルスピードで回転していることだろう。沸騰するように熱い。体は恐怖で冷えていくのに、頭だけが反比例するように熱くなっていく。
「つまり、私を取り入れるために?」
「えぇ、そうよ。その為には貴方に自らこちらの世界に干渉して貰う必要があった」
「干渉…」
神の地に干渉する為には、"恋使"の姿になる必要がある。ならば干渉されない為には?神に準じた姿でないと干渉出来ないのならば、元の姿に戻れば、きっと。
「…! やめろ!!」
私は神様の手を払って、制止も聞かず勢いのままに腕を振り下ろした。
"恋使"!
花びらが舞い、オレンジ色の光が私を包む。
私は暗闇の中でへたり込んでいた。辺りを見回すと、先ほどまでの光は存在しない。暗闇の中、遠くの方に淡い光が見えるだけだ。そして背後には、大きな鳥居があった。暗くてよく見えないが、本来は赤色を持つそれに安心感を感じた。
「…戻って、来たんだ…」
座り込んでしまっていたため、スカートが汚れている。慌てて立ち上がって払うと、目の前に巫女服姿の女性が現れた。和傘を持つ彼女は驚いた顔をしてこちらを見ていた。
「…自己紹介するべきかしら。と言っても私は稲荷のように分かりやすい名ではないのだけど」
独り言のように呟く神様を、私はどうするべきか分からずにただ見つめる。私のそんな様子を見て、神様はふぅ、と息を吐いた。
「そんなことどうでも良いか。貴方には必要のないことだわ」
「…あの」
自己完結してしまったようなので、せめて知りたいことだけでも教えてもらおうと口を開いた。神様は不思議そうに「ん?」とだけ返した。
「どうして私をここに…?」
何故か私の声は震えていた。前に他の神様に会った時は何も感じなかったのに、どうしてかこの神様の前では勝手に震えてしまう。声が小さくなってしまう。体を守るように身構えてしまう。それが何故か、そしてそれが正しい反応であると分かったのは、神様のこの後の言葉を理解した瞬間だった。
「…我らの世では、ある噂が流れているの。稲荷の使いの1つである"恋使"をその身に取り入れれば、人間になれると」
長い爪が私の顎に添えられる。間近に迫った美しい顔が、醜く歪んだ気がした。
背筋が凍りつく。恐怖で思考が回らない。
「私は、人間になりたいの」
その言葉が何を意味するか、唐突に理解した。多分私の脳は今、フルスピードで回転していることだろう。沸騰するように熱い。体は恐怖で冷えていくのに、頭だけが反比例するように熱くなっていく。
「つまり、私を取り入れるために?」
「えぇ、そうよ。その為には貴方に自らこちらの世界に干渉して貰う必要があった」
「干渉…」
神の地に干渉する為には、"恋使"の姿になる必要がある。ならば干渉されない為には?神に準じた姿でないと干渉出来ないのならば、元の姿に戻れば、きっと。
「…! やめろ!!」
私は神様の手を払って、制止も聞かず勢いのままに腕を振り下ろした。
"恋使"!
花びらが舞い、オレンジ色の光が私を包む。
私は暗闇の中でへたり込んでいた。辺りを見回すと、先ほどまでの光は存在しない。暗闇の中、遠くの方に淡い光が見えるだけだ。そして背後には、大きな鳥居があった。暗くてよく見えないが、本来は赤色を持つそれに安心感を感じた。
「…戻って、来たんだ…」
座り込んでしまっていたため、スカートが汚れている。慌てて立ち上がって払うと、目の前に巫女服姿の女性が現れた。和傘を持つ彼女は驚いた顔をしてこちらを見ていた。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
女装とメス調教をさせられ、担任だった教師の亡くなった奥さんの代わりをさせられる元教え子の男
湊戸アサギリ
BL
また女装メス調教です。見ていただきありがとうございます。
何も知らない息子視点です。今回はエロ無しです。他の作品もよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる