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修学旅行4 帰路
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12時半。私達は国際通りに降ろしてもらった時と同じように、役所近くでバスに乗った。揺られること20分弱。那覇空港に着いた。飛行機に乗れば、帰るだけ。修学旅行は終わりになる。いつか絶対に来る終わりが、もう来てしまったのかと切なくなる。
「楽しかったね!」
にこにこと笑う霙が、明るい調子で言う。でもどこか寂しそうで。隣に立つ由芽も、あくびを噛み殺したからかもしれないが、目頭に涙を溜めている。
「そうだね。あっちに戻ったらまた遊びたいね」
「遊べるのなんて、あと少しだもんね」
「えっ?」
「来年は受験生だよ、私達」
「ぎゃっ」
見たくもない現実をひしひしと感じながら、夢が覚めるような感覚に陥る。
「行くぞー」
青海川先生の声がかかって、2年3組は歩き始める。飛行機に乗って、私達は懐かしい故郷へ帰る。
疲れが溜まっていたようで、泥のように眠っている人がほとんどだった。私は何とか奮闘していたけれど、襲い来る眠気に抗えず、いつの間にやら眠ってしまっていた。
起きたのは、着陸寸前だった。何が何だか分からないまま、体に、機体に、衝撃が走る。といっても少し揺れたくらいで、落ちたような衝撃ではない。それから10分程度、止まるのを待って近くの席の人を起こしていた。ほとんどずっと眠っていた人もいたようで、「え、もう着いたの?」などと言う声が聞こえてくる。ぼんやりと目を開けた亜美と、目が合う。
「おはよう」
「おはよう。ってもう夕方過ぎだよ」
時刻は夕方過ぎを指しているが、外はもう暗くなっていた。夜の闇が、空を染めていく。
順番に降りていき、大きな広場で集合する。全体で話を聞いたあと、青海川先生がだるそうな号令をかけた。
「それじゃあ明日、明後日は休みな。ゆっくり疲れを取れよー」
そして私達は解散となった。ここから自宅の最寄り駅まで1時間半もあるので、夜ご飯を食べて帰ることにする。家の方向が似ている霙や由芽は明達のところに集まっている。何となく一緒に行く気になれなくて、誰か別の人を探そうと歩き始めた時、後ろから腕を掴まれた。驚いて振り向くと、いつもと同じ無表情な北原くんが立っていた。
「北、原くん…?どうしたの?」
私が足を止めたのに気付いているのかいないのか、私の腕を離さない。少し呼吸を整えるような仕草をした後に、北原くんは覚悟を決めたように小さく口を開いた。
「稲森」
「は、はい」
真剣な声色に、緊張が走る。次に続く言葉に、びくびくしてしまう。でも私の予想外の言葉が、北原くんの唇から紡がれた。
「俺は稲森が好きだ」
「楽しかったね!」
にこにこと笑う霙が、明るい調子で言う。でもどこか寂しそうで。隣に立つ由芽も、あくびを噛み殺したからかもしれないが、目頭に涙を溜めている。
「そうだね。あっちに戻ったらまた遊びたいね」
「遊べるのなんて、あと少しだもんね」
「えっ?」
「来年は受験生だよ、私達」
「ぎゃっ」
見たくもない現実をひしひしと感じながら、夢が覚めるような感覚に陥る。
「行くぞー」
青海川先生の声がかかって、2年3組は歩き始める。飛行機に乗って、私達は懐かしい故郷へ帰る。
疲れが溜まっていたようで、泥のように眠っている人がほとんどだった。私は何とか奮闘していたけれど、襲い来る眠気に抗えず、いつの間にやら眠ってしまっていた。
起きたのは、着陸寸前だった。何が何だか分からないまま、体に、機体に、衝撃が走る。といっても少し揺れたくらいで、落ちたような衝撃ではない。それから10分程度、止まるのを待って近くの席の人を起こしていた。ほとんどずっと眠っていた人もいたようで、「え、もう着いたの?」などと言う声が聞こえてくる。ぼんやりと目を開けた亜美と、目が合う。
「おはよう」
「おはよう。ってもう夕方過ぎだよ」
時刻は夕方過ぎを指しているが、外はもう暗くなっていた。夜の闇が、空を染めていく。
順番に降りていき、大きな広場で集合する。全体で話を聞いたあと、青海川先生がだるそうな号令をかけた。
「それじゃあ明日、明後日は休みな。ゆっくり疲れを取れよー」
そして私達は解散となった。ここから自宅の最寄り駅まで1時間半もあるので、夜ご飯を食べて帰ることにする。家の方向が似ている霙や由芽は明達のところに集まっている。何となく一緒に行く気になれなくて、誰か別の人を探そうと歩き始めた時、後ろから腕を掴まれた。驚いて振り向くと、いつもと同じ無表情な北原くんが立っていた。
「北、原くん…?どうしたの?」
私が足を止めたのに気付いているのかいないのか、私の腕を離さない。少し呼吸を整えるような仕草をした後に、北原くんは覚悟を決めたように小さく口を開いた。
「稲森」
「は、はい」
真剣な声色に、緊張が走る。次に続く言葉に、びくびくしてしまう。でも私の予想外の言葉が、北原くんの唇から紡がれた。
「俺は稲森が好きだ」
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