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11月23日 好きでも嫌
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制服越しに伝わってくる冷たさが、痛みのように私を襲う。霙は酸欠で苦しむ様子はもう無く、ただ雪くんのことを考えているようだった。
「…霙は、仲直りしたくないの?」
「…どうだろう。いつかは元に戻りたいけど、今はちょっと離れていたいかな」
霙の心は伝わって来ない。多分、今言ったことがそのまま本心なのだろう。私はまた何も言えず、黙った。
「…夕音も、確か榊原と幼馴染だったよね。そういう時、無かった?」
「えっ、羅樹と?」
霙は体育座りに姿勢を変え、膝に顔を埋めながらこちらを見る。私は少し考えて、思い出したことをそのまま言った。
「榊原くんを独占しないで、って言われた時…かな」
「…そんなこと言われたの?」
「うん。小学生の時に、女の子から。誰に言われたか覚えてないけど、言われて怖くなって、羅樹と距離を置いたんだ。中学時代も、ほとんど話さなかった」
「榊原は、何か言った?」
霙の言葉に、色々と思い出が蘇る。自分勝手で馬鹿な私の、酷い態度。それに対して何も文句を言わない羅樹。本当に、私は馬鹿だ。
「…何も言わなかった。悲しそうな顔をしてるのをたまに見かけたけど、話しかけてくることも無かったな」
「意外だな。夕音と榊原って結構仲良いイメージだったから、口聞かないことなんて無いと思ってた」
本当は話したかった。恋心を自覚するのが遅すぎて、傷付けた後だったから言えなくて。そのまま時の流れに身を任せている。踏み出そうとして踏み出せないのは、私に罪の意識があるからだろうか。
「でも、やっぱりどこにでもあるよね。好きな人だったとしても、顔も見たくなくなること」
「え?」
好きな人なのに、顔も見たくなくなる?
どういうことだろう。
「ん?無い?好きだからこそ、許せなかったり、嫌だと思うこと。友達だったらそこまで気にしないことなのに」
「えっと…」
国語の問題みたいで難しい。眉間にしわを寄せて考えていると、霙がふっと笑った。
「例えば…竜夜でいいや。竜夜が他の女の子と楽しそうに話してた後に夕音を見つけて、話しかけてきたらどう思う?」
「別にどうも…何か用事があるのかな、って思う」
「じゃあ好きな人だったら?」
「…嫌、かな」
羅樹が他の女の子と楽しそうに話して、その後私に話しかける。それは結構嫌かもしれない。顔を見ると思い出して、目を逸らしたくなるかもしれない。
「あっ!」
そこまで思考を巡らせて、やっと理解した。私の表情を見て、霙は、分かったかな、と呟く。私は頷いた。
「どんなに好き同士の関係だって嫌なことはあるし、目を背けたくなることもあるよ。私だって、雪の全部が好きなわけじゃないし。だから少し距離を置いて、それでもやっぱり好きだって思ったら、私から説明しにいくよ。それで、仲直りだ」
霙の笑顔がいつものものに近付いてきた。私の心も晴れてきた。決心がついた。行動しなきゃいけない。
私の手元に、黄色い小さな花が咲いた。
「えっ…何で、花が…」
「メランポジウム。花言葉は元気、小さな親切。霙、ありがとう」
霙の手を握ると、花は香りだけを残してふわっと弾けた。霙は優しく微笑んで、こちらこそ、と言った。
「…霙は、仲直りしたくないの?」
「…どうだろう。いつかは元に戻りたいけど、今はちょっと離れていたいかな」
霙の心は伝わって来ない。多分、今言ったことがそのまま本心なのだろう。私はまた何も言えず、黙った。
「…夕音も、確か榊原と幼馴染だったよね。そういう時、無かった?」
「えっ、羅樹と?」
霙は体育座りに姿勢を変え、膝に顔を埋めながらこちらを見る。私は少し考えて、思い出したことをそのまま言った。
「榊原くんを独占しないで、って言われた時…かな」
「…そんなこと言われたの?」
「うん。小学生の時に、女の子から。誰に言われたか覚えてないけど、言われて怖くなって、羅樹と距離を置いたんだ。中学時代も、ほとんど話さなかった」
「榊原は、何か言った?」
霙の言葉に、色々と思い出が蘇る。自分勝手で馬鹿な私の、酷い態度。それに対して何も文句を言わない羅樹。本当に、私は馬鹿だ。
「…何も言わなかった。悲しそうな顔をしてるのをたまに見かけたけど、話しかけてくることも無かったな」
「意外だな。夕音と榊原って結構仲良いイメージだったから、口聞かないことなんて無いと思ってた」
本当は話したかった。恋心を自覚するのが遅すぎて、傷付けた後だったから言えなくて。そのまま時の流れに身を任せている。踏み出そうとして踏み出せないのは、私に罪の意識があるからだろうか。
「でも、やっぱりどこにでもあるよね。好きな人だったとしても、顔も見たくなくなること」
「え?」
好きな人なのに、顔も見たくなくなる?
どういうことだろう。
「ん?無い?好きだからこそ、許せなかったり、嫌だと思うこと。友達だったらそこまで気にしないことなのに」
「えっと…」
国語の問題みたいで難しい。眉間にしわを寄せて考えていると、霙がふっと笑った。
「例えば…竜夜でいいや。竜夜が他の女の子と楽しそうに話してた後に夕音を見つけて、話しかけてきたらどう思う?」
「別にどうも…何か用事があるのかな、って思う」
「じゃあ好きな人だったら?」
「…嫌、かな」
羅樹が他の女の子と楽しそうに話して、その後私に話しかける。それは結構嫌かもしれない。顔を見ると思い出して、目を逸らしたくなるかもしれない。
「あっ!」
そこまで思考を巡らせて、やっと理解した。私の表情を見て、霙は、分かったかな、と呟く。私は頷いた。
「どんなに好き同士の関係だって嫌なことはあるし、目を背けたくなることもあるよ。私だって、雪の全部が好きなわけじゃないし。だから少し距離を置いて、それでもやっぱり好きだって思ったら、私から説明しにいくよ。それで、仲直りだ」
霙の笑顔がいつものものに近付いてきた。私の心も晴れてきた。決心がついた。行動しなきゃいけない。
私の手元に、黄色い小さな花が咲いた。
「えっ…何で、花が…」
「メランポジウム。花言葉は元気、小さな親切。霙、ありがとう」
霙の手を握ると、花は香りだけを残してふわっと弾けた。霙は優しく微笑んで、こちらこそ、と言った。
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