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11月23日 酸欠
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霙が何か言おうと唇を開いて、何も言わずに目を逸らす。もう一度話しかけようとしたが、霙は目の前で苦しそうに嗚咽を漏らした。口を手で押さえ、その手にはじわりと汗が滲んでいる。素早い動きでハンカチを取り出し、口を押さえたまま動かない。私は黙って、霙の横に座った。
「…ごめん。嫌なもの見せた」
「全然大丈夫だよ。それより、体調悪いの?保健室とか行く…?」
「…いい。大丈夫」
先程よりは落ち着いたようだが、息は荒くなっている。顔色も青く、肩を上下させて呼吸している。
「…何で、ここが分かったの…?」
「教室から出て行くのが見えて、着いてきた」
「…着いて…ああ。確認、後ろが怖くてしなかったか…」
霙は独り言として呟いた後、聞かないの、と問いかけてきた。
「何を?」
「聞きに来たんじゃないの?着いてきたのは、そのためじゃないの?」
「聞いていいの?」
霙は黙ってしまった。私はそれを否定か肯定か掴むことが出来ずに、否定だろうなと思う。しかし私は表面上、肯定と捉えたふりをした。
「じゃあ質問。どうして体調が悪いの?」
霙は私の質問が意外だったようで、私の方を向いて目を見開いた。
「…酸欠。冬は皆寒くて窓を閉めっぱなしにするでしょう。私はその状態が長く続くとすぐに気持ち悪くなるの。寒さより、吐き気が勝つの」
気持ち悪そうに胸元を押さえる霙。握りしめたリボンがよれよれになっている。開けたボタンからシャツが覗いているのも気にすることが出来ないくらいに気持ちが悪いらしい。痛々しい姿。私は見ていられなくて目を逸らした。
「窓開ければ良いのに。そんな体調悪いなら、皆きっと…」
「…駄目だよ。何度も開けようとした。でも皆寒いからって閉めた。体調が悪いって訴えても、私と同じ体質の人がいないから聞いてくれなかった。笑って流された。良い説明の仕方が思い浮かばなくて、諦めた。面倒だし、休み時間の度に空気を吸いに行った方が楽だから」
霙は悲しそうに微笑んだ。自分の体質を否定されて、冗談だと笑われて、体調が悪いのを隠す癖がついたらしい。
「…そっか、ごめん」
「謝らなくていいよ。こんなところ見られたくなくて、隠したのは私だし」
霙は震える手でボタンを閉めようとして、口を押さえて諦めた。
「冬は苦手なんだ。雪遊びとか好きなんだけど…」
雪、と言った瞬間、霙の表情が曇った。思い出したらしい。私は何があったのか聞く代わりに、そっと問いかけた。
「ねぇ、霙は雪くんのどこが好きなの?」
私の質問にまたびっくりしたらしい霙は、苦笑いした後、そうだなあ、と呟いた。
「…ごめん。嫌なもの見せた」
「全然大丈夫だよ。それより、体調悪いの?保健室とか行く…?」
「…いい。大丈夫」
先程よりは落ち着いたようだが、息は荒くなっている。顔色も青く、肩を上下させて呼吸している。
「…何で、ここが分かったの…?」
「教室から出て行くのが見えて、着いてきた」
「…着いて…ああ。確認、後ろが怖くてしなかったか…」
霙は独り言として呟いた後、聞かないの、と問いかけてきた。
「何を?」
「聞きに来たんじゃないの?着いてきたのは、そのためじゃないの?」
「聞いていいの?」
霙は黙ってしまった。私はそれを否定か肯定か掴むことが出来ずに、否定だろうなと思う。しかし私は表面上、肯定と捉えたふりをした。
「じゃあ質問。どうして体調が悪いの?」
霙は私の質問が意外だったようで、私の方を向いて目を見開いた。
「…酸欠。冬は皆寒くて窓を閉めっぱなしにするでしょう。私はその状態が長く続くとすぐに気持ち悪くなるの。寒さより、吐き気が勝つの」
気持ち悪そうに胸元を押さえる霙。握りしめたリボンがよれよれになっている。開けたボタンからシャツが覗いているのも気にすることが出来ないくらいに気持ちが悪いらしい。痛々しい姿。私は見ていられなくて目を逸らした。
「窓開ければ良いのに。そんな体調悪いなら、皆きっと…」
「…駄目だよ。何度も開けようとした。でも皆寒いからって閉めた。体調が悪いって訴えても、私と同じ体質の人がいないから聞いてくれなかった。笑って流された。良い説明の仕方が思い浮かばなくて、諦めた。面倒だし、休み時間の度に空気を吸いに行った方が楽だから」
霙は悲しそうに微笑んだ。自分の体質を否定されて、冗談だと笑われて、体調が悪いのを隠す癖がついたらしい。
「…そっか、ごめん」
「謝らなくていいよ。こんなところ見られたくなくて、隠したのは私だし」
霙は震える手でボタンを閉めようとして、口を押さえて諦めた。
「冬は苦手なんだ。雪遊びとか好きなんだけど…」
雪、と言った瞬間、霙の表情が曇った。思い出したらしい。私は何があったのか聞く代わりに、そっと問いかけた。
「ねぇ、霙は雪くんのどこが好きなの?」
私の質問にまたびっくりしたらしい霙は、苦笑いした後、そうだなあ、と呟いた。
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