神様自学

天ノ谷 霙

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11月14日 改めて気付く

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「こちらです!」
私はキースさんが階段を跳ねるように駆け降りていくのに、精一杯ついていった。私の脳裏に浮かぶのは、悲しそうな利羽の辛そうな出来事と、無理して頑張ってしまう花火のこと。その2人の記憶が混ざり合って、ぐちゃぐちゃになって、冷や汗が出る。もう2度と、友達に悲しい思いさせたくない。恋っていうのは、苦しくて痛いけど、きっと幸せもあるから。
「…あっ」
思わず立ち止まる。思い出した。知ってる。私は知ってる。恋の辛さも苦しみも、幸せも。辛いところばかり目を向けて、忘れていた。羅樹を見るとドキドキして、話すとふわふわして、胸の奥がぎゅって掴まれているのに、それが心地良い。そんな感覚を、忘れていた。
「…?どうしました?」
首を傾げて、こちらを向くキースさん。私は今改めて気付いた当たり前の感覚に、思わず笑う。馬鹿みたいだ。あんなに迷って、苦しんで、好きである幸せを忘れるなんて。勝手に傷ついて、怖がって。昔から素直になれない私にも素直に接してくれた羅樹に、私はお礼を言ったことがあっただろうか。好きだと、素直に伝えたことはあっただろうか。
「…あの」
「…ごめん、ちょっと、私が馬鹿すぎて笑えてきちゃって。大丈夫、花火は絶対に助ける」
「…はい!」
怪訝そうな顔をしていたキースさんが、私の言葉を聞いて真剣な表情で頷く。私も気合いを入れる。私が考えるべきなのは、花火のことだ。
赤いカーペットが敷かれた階段に、2つの人影。花火の背中を押そうとする、もう1人の手。
「…花火!!」
「えっ、ゆう、ね…」
階段を降りようとする花火が振り返った瞬間、もう1人の手が伸びて、押された花火は階段を踏み外した。振り返っていたせいで、背中から落ちていく。普段の彼女なら手すりにつかまることが出来ただろう。今の彼女の指先は傷だらけで、最近倒れたばかりでまだ本調子ではない彼女は、とっさにそんな行動は取れなかった。ゆっくりと時が流れる。花火を助けようと伸ばした手も空を掴んで届かない。恋使に変化するか、いや、間に合わない。
届け、届け、助けて、花火を、助けて。
花火が、落ちた。落ちた先には、片倉くんがいた。花火を綺麗に抱きとめているのが見えた。
「片倉さん!」
「作夜さん!」
「…っ片倉くん…」
花火を突き飛ばした女性は、驚きと動揺で動けなくなっていた。
「何、どうしたの!?」
私達の叫び声を聞いて、近くの部屋にいたらしい扇様が飛び出して来た。そして目の前に広がる光景に、慌てて口を噤んだ。
「…大丈夫ですか、花火さん」
「…えぇ、大丈夫…ありがとう…」
片倉さんは安堵の表情を浮かべた後、睨みつけるように階段上にいる私達を見た。
「…で、何があったんですか?」
その気迫に、私は飲み込まれそうだった。
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