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11月9日 笑顔
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「それが、俺と花凛姉ちゃんが会った最後だった。あんまり歳とか考えてなかったけど、花凛姉ちゃんは小2くらいで外国に行ったんだな…久しぶりに帰って来たの、俺、全然知らなくて。凄くびっくりした…」
遠い目をしたまま、小野くんはそう言った。私が何と言おうか迷っているうちに、小野くんは言葉を続ける。
「多分華陸も知らないんじゃないか。花凛姉ちゃん、家には帰って来てないから」
寂しそうに呟く小野くん。私は口を開いて、迫ってくる足音に気付いた。
「海斗ー!」
がばっと小野くんに抱きつくのは花凛さん。小野くんと私はびっくりして、同じような表情で顔を見合わせた。やがて私が耐えきれず、ふふっと笑う。小野くんが真っ赤になる。
「な、ななっ何すんだよ姉ちゃん!」
「久しぶり、に、会った、お姉ちゃんに、優しくしてよー!」
まだ抜けないらしい片言の喋り。でも弟のことが大切で大好きというのが伝わってくる、優しい言葉だった。
「あ、えーと、 evening…ちゃん、ね!」
「あ、はい…?」
eveningは夕という意味なので、多分私のことたろう。小野くんから手を離して、私のことを紫がかった青い瞳で真っ直ぐ見つめる。
「海斗の本音、聞いてくれて、thank you!ありがと、ね」
花のように笑いながら、花凛さんは言う。同性だって分かってても脈が早くなるのが分かった。そのくらい綺麗な笑顔だった。
「dreamちゃんから、ここの場所、聞いた。海斗、今日から、しばらくは、家にいるよ」
小野くんの瞳が驚きから一転、嬉しそうに瞬いた。dreamちゃんというのは、直訳すると夢なので、由芽のことだろう。私が小野くんと話してるのをどこかで聞いているのかもしれない。
「帰って来たの、本当に、最近なんだ。海斗を、驚かせたくて、家に帰らなかった、だけなんだ」
「ふ、ふーん…」
「華陸にも、連絡してないし、いきなり行って、驚かせるよ!お母さんは、知ってるから、大丈夫」
嬉しそうに、楽しそうにニコニコと笑う花凛さん。
「家まで、道、分かるの」
ぶっきらぼうに言う小野くん。花凛さんは首を横に振る。小野くんは顔を背けながら、小さな声で呟く。
「じゃあ今日は一緒に帰るから…部活終わるまで、待っててよ」
だんだんと消えそうなくらい小さくなる声。私は花凛さんの方を見て、思わず微笑んだ。花凛さんが、本当に幸せそうに笑ったからだ。
「な、何がおかしいんだよ稲森!」
私が笑ってるのに気付いて、小野くんは顔を赤くする。
「ううん、なんでもない」
風に乗って、優しい花の香りがした。
遠い目をしたまま、小野くんはそう言った。私が何と言おうか迷っているうちに、小野くんは言葉を続ける。
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「海斗ー!」
がばっと小野くんに抱きつくのは花凛さん。小野くんと私はびっくりして、同じような表情で顔を見合わせた。やがて私が耐えきれず、ふふっと笑う。小野くんが真っ赤になる。
「な、ななっ何すんだよ姉ちゃん!」
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「海斗の本音、聞いてくれて、thank you!ありがと、ね」
花のように笑いながら、花凛さんは言う。同性だって分かってても脈が早くなるのが分かった。そのくらい綺麗な笑顔だった。
「dreamちゃんから、ここの場所、聞いた。海斗、今日から、しばらくは、家にいるよ」
小野くんの瞳が驚きから一転、嬉しそうに瞬いた。dreamちゃんというのは、直訳すると夢なので、由芽のことだろう。私が小野くんと話してるのをどこかで聞いているのかもしれない。
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「ふ、ふーん…」
「華陸にも、連絡してないし、いきなり行って、驚かせるよ!お母さんは、知ってるから、大丈夫」
嬉しそうに、楽しそうにニコニコと笑う花凛さん。
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ぶっきらぼうに言う小野くん。花凛さんは首を横に振る。小野くんは顔を背けながら、小さな声で呟く。
「じゃあ今日は一緒に帰るから…部活終わるまで、待っててよ」
だんだんと消えそうなくらい小さくなる声。私は花凛さんの方を見て、思わず微笑んだ。花凛さんが、本当に幸せそうに笑ったからだ。
「な、何がおかしいんだよ稲森!」
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「ううん、なんでもない」
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