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11月2日 頑張りすぎFlower
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シャーっとカーテンレールを滑る音が保健室に響く。私は竜夜くんが気を遣ってくれているので、あまり花火が見えないように端の方だけ開けて、花火の元へ行った。
「おはよう花火。まだだめそう?」
「夕音…?うぅん、結構平気、になってきたかな…」
花火はゆっくりと体を起こし、ぼんやりとした目で遠くを見ていた。
「稲峰さん、もう動けそう?家で休んだ方が良いかもしれないわね。家に誰かいる?」
「…はい…母が…多分…」
花火はまだ眠そうな目をこすりながら、ゆっくりとそう答えた。先生はその様子を見て少し安心したように話を続けた。
「そう、良かった。迎えにきてもらうことは出来そう?」
「はい…連絡すれば」
「じゃあ連絡してくるわね。さっきから何度も留守にしてごめんね。もう少しだけここで休んで、帰る支度をしていて」
先生はそう言って保健室を出て行った。私は花火に話しかける。
「花火、竜夜くんが来てるけど、どうする?」
「りゅ…梶栗くん?あ、えっとお礼言いたいけど…ちょ、ちょっと待って」
花火は手櫛で髪をとかし、落ち着いたところで竜夜くんを呼んだ。竜夜くんは遠慮がちにカーテンを開けた。
「ありがとう、梶栗くん。運んでくれたのよね?放課後なのに保健室まで来てくれて。夕音もありがとう」
いきなり私もお礼を言われてびっくりした。目を丸くしていると、花火はくすっと笑った。
「梶栗くんも夕音も、本当優しいわね。素直で、正直で、羨ましいわ」
皮肉とかではなく、純粋に心からそう思っている、というニュアンスだった。心底羨ましそうに目を細める花火。私は竜夜くんと顔を見合わせて、笑った。
「それを言うなら、私だって花火が羨ましいよ?」
「えっ?」
「どんなに忙しくて大変でも一生懸命真剣に仕事をするところとか」
「あと、花火を助けたのは、花火がそうさせたんだよ」
「…私が…?」
「いつも助けて貰ってるし、こういう時ぐらいしかお返し出来ないからね。こんなに人に優しくしてる上に更に頑張れる花火が、羨ましいし尊敬してるよ」
にこっと笑うと、花火は恥ずかしそうに毛布に顔を埋めた。その様子が微笑ましくて、私はまた笑顔になる。
その時、普通ならこの時期に咲かない筈の赤い花が、ふわっと空中に舞った。
「ポピーの花言葉は、感謝、思いやり、休息。頑張るのは良いけど、頑張りすぎは駄目よ、花火。私たちは花火に感謝してる。お礼がしたいの。だから、もっと頼って?私も頼ってもらえるように頑張るから」
そう言って私が花火の手を握った瞬間、もう一つ花言葉が私の中に浮かんだ。
それは"恋の予感"だった。
「おはよう花火。まだだめそう?」
「夕音…?うぅん、結構平気、になってきたかな…」
花火はゆっくりと体を起こし、ぼんやりとした目で遠くを見ていた。
「稲峰さん、もう動けそう?家で休んだ方が良いかもしれないわね。家に誰かいる?」
「…はい…母が…多分…」
花火はまだ眠そうな目をこすりながら、ゆっくりとそう答えた。先生はその様子を見て少し安心したように話を続けた。
「そう、良かった。迎えにきてもらうことは出来そう?」
「はい…連絡すれば」
「じゃあ連絡してくるわね。さっきから何度も留守にしてごめんね。もう少しだけここで休んで、帰る支度をしていて」
先生はそう言って保健室を出て行った。私は花火に話しかける。
「花火、竜夜くんが来てるけど、どうする?」
「りゅ…梶栗くん?あ、えっとお礼言いたいけど…ちょ、ちょっと待って」
花火は手櫛で髪をとかし、落ち着いたところで竜夜くんを呼んだ。竜夜くんは遠慮がちにカーテンを開けた。
「ありがとう、梶栗くん。運んでくれたのよね?放課後なのに保健室まで来てくれて。夕音もありがとう」
いきなり私もお礼を言われてびっくりした。目を丸くしていると、花火はくすっと笑った。
「梶栗くんも夕音も、本当優しいわね。素直で、正直で、羨ましいわ」
皮肉とかではなく、純粋に心からそう思っている、というニュアンスだった。心底羨ましそうに目を細める花火。私は竜夜くんと顔を見合わせて、笑った。
「それを言うなら、私だって花火が羨ましいよ?」
「えっ?」
「どんなに忙しくて大変でも一生懸命真剣に仕事をするところとか」
「あと、花火を助けたのは、花火がそうさせたんだよ」
「…私が…?」
「いつも助けて貰ってるし、こういう時ぐらいしかお返し出来ないからね。こんなに人に優しくしてる上に更に頑張れる花火が、羨ましいし尊敬してるよ」
にこっと笑うと、花火は恥ずかしそうに毛布に顔を埋めた。その様子が微笑ましくて、私はまた笑顔になる。
その時、普通ならこの時期に咲かない筈の赤い花が、ふわっと空中に舞った。
「ポピーの花言葉は、感謝、思いやり、休息。頑張るのは良いけど、頑張りすぎは駄目よ、花火。私たちは花火に感謝してる。お礼がしたいの。だから、もっと頼って?私も頼ってもらえるように頑張るから」
そう言って私が花火の手を握った瞬間、もう一つ花言葉が私の中に浮かんだ。
それは"恋の予感"だった。
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