神様自学

天ノ谷 霙

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9月19日 中夜祭の残映

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演劇が終わり、セレネ役の由芽やシュレン役の霙がステージの上で一斉にお辞儀をする。3年生から言葉を貰い、完全に演劇部の公演は終了を迎えた。
その後女装男装コンテストがあったり、任意参加の中夜祭は騒がしいまま幕を閉じた。すっかり暗くなった窓の外。まだ名残惜しいと帰らない生徒が灯す光。私は暗い教室の中、窓際の椅子に座って外を眺めていた。
「今日のさー」
「えー?マジかー」
廊下から少し騒がしい女の子達の声がする。思い出を語っているのか、楽しそうな声。幻みたいに一瞬だけ聞こえ、いつの間にか消えていた。
準備のためだけに使われていた教室は、衣装や小物があちらこちらに置いてあった。その様子をぼーっと眺めていると、ドアのガラス越しに人影が見えた。
「夕音まだいたの?」
そこにいたのな羅樹だった。廊下には電気がついているのか、羅樹が光の下に立っているのがやけに眩しかった。
「うん。でももう帰るよ」
「そっか。誰か待ってたんじゃないの?」
「ううん、ただぼーっとしてただけ」
本当は、羅樹に会えたら、と期待して待っていたなんて言えるわけない。自分の行動が恥ずかしくて自己嫌悪に陥りかけていた時だった。
「じゃあ一緒に帰ろう!」
笑顔でこちらに向かってくる羅樹。私はその行動に少し驚いた。
「誰かに用事があったんじゃないの?羅樹のクラスは隣でしょ?」
「いや、特には無いよ?後ろのドアから人影が見えたから、夕音かなーって思って。当たって良かったよ」
にこにこしながら話す羅樹にどぎまぎしながら、私は苦笑いを返す。暗闇のおかげで赤くなった頬はバレなさそうだ。
「じゃあ早く帰る準備して来なさいよ。私も4組に行くから」
バッグを持って立ち上がる。羅樹は、はーい、と返事をして教室を出て行った。私もゆっくりとその後をついていく。

羅樹が好き。

この言葉は、いつになったら伝えられるのだろうか。いつの間にか素直に好きと言えなくなって、昔の好きに別の意味が混ざって、溶けて。それに気付かれないように気を付けて、距離をおいて。またそばにいたくて、戻ってきて。自分勝手に羅樹を振り回しておいて、今更好きだと伝えるのか。勝手に不安になって話しかけなくなった時期もあったのに、少しでも話してないと怖いなんて。
「…ほんと…酷すぎる…」
暗闇の中でぽつりと呟いた言葉は、誰にも拾われることなく溶けていった。
「お待たせ!帰ろう!!」
元気いっぱい笑顔満点で教室から飛び出して来た羅樹に、私もつられて笑う。
さっきまでの不安、どこ行っちゃったんだろう。
自嘲の意味も込めた笑いが、だんだんといつものものに戻ってくる。
「うん、帰ろうか」
そう言って私は、羅樹の隣に肩を並べた。
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