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月明かりの下 2
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満月の日にだけ行われる、秘密の逢瀬。それはもうすでに、12回目を迎えようとしていました。森には満月の日にだけ狼になる化け物がいるから気を付けなさい、と王妃様に言われた王子様は、セレネは大丈夫だろうか、と考えていました。そしていつも通り、木の下に立っていました。
その時でした。
隣国の兵士が、1人でいる王子様に向かって引き金を引いたのは。
王子様は気付くのが僅かに遅く、覚悟を決めました。しかしいつまで経っても、体に痛みが走ることはありませんでした。恐る恐る目を開けてみると、セレネが弾丸を手で止めていました。
「セレネっ!!!?」
王子様の叫びが、辺りに響き渡りました。
「静かに。撃ったのは、多分隣国の兵士。貴方はここにいて」
「そんな…僕も行く…!」
「…シュレン。今日で会うのはやめましょう」
突然そう告げるセレネに、王子様は驚いて何も言えませんでした。
「ずっと考えていたの。貴方はここにいると"王子"から解放されるって言ってた。でも貴方はもう16歳になるんでしょう?ここに来ることは出来なくなるはずだわ」
「…っそうだけど、でも…」
「貴方を危険な目に合わせたくないの。こうやって狙われてしまうでしょう?お願いだから、もう、ここに来ないで」
「…っでも…僕は…君が…」
王子様の言葉を、セレネはそっと遮りました。言わせてはいけない言葉だから。もうどうしようもなくて、セレネは最終手段に出ました。
「シュレン。私を見ていて」
そう言うと、セレネは淡い光に包まれて姿を変えました。狼の姿に。
「私は狼なの。満月の日にだけ人間の姿になれる、狼の一族なの」
セレネの言葉に、王子様は言葉を失いました。何も言えず、ただ呆然と彼女を眺めているだけでした。
「兵士は私がおさえるわ。だから、早く」
もう一度人の姿に戻ったら、きっとシュレンは私を引き止める。
そう考えて、狼の姿のままその場から走り去りました。
これが、最後の逢瀬。
狼と王子様の、逢瀬。
「兵士、覚悟」
隣国との境目にあった見張り台で、鉄砲を持ったボロボロの姿の兵士が、事情を聞かれて怯えながら自分たちがしたことを話したのは、また後日のこと。
それから、何年か時が経ちました。満月の日。
「今日、王子様が結婚するらしい」という噂は、セレネの住む狼の村にも届いていました。セレネは街へ出かけるときに、数年前と同じ人だかりを見かけました。違うのは、祝福の花びらが舞っていること。中心で笑っているのは、とても美しい女性と成長したシュレンであること。セレネは、数年前に無くしたはずの恋心で、胸を痛めました。目尻に涙を浮かべながら、そっと胸の前で祈るように手を合わせました。
セレネは、スカートをふわりと翻してその場から離れました。そして、森の近くで歌を歌いました。あの時と同じ、声で。
月よ 我らの一族に 其方は何を想う
満月の時しか生きれぬ 我らのことを
其方に問う 一族の行く末を
星よ 我らの見つめる其方らは 獣と化した
我を見て 其方はきっと 想うだろう
我らを哀れみ 泣くだろう
しかし 忘れないで欲しい 我らは
その時だけで 幸せを手にしたことを
「これが、私からの祝福」
そう呟いた声は、誰にも聞こえずに空に消えていきました。
歌声は、祝福をしている人々の耳に届いていました。きらきらと輝くような声。響くような、素敵な歌声。
「…どうされましたの?」
「…なんでもないよ」
女性に、妻に聞かれた王子様は、シュレンはそう答えました。瞳に浮かんだ涙を隠しながら。
その時でした。
隣国の兵士が、1人でいる王子様に向かって引き金を引いたのは。
王子様は気付くのが僅かに遅く、覚悟を決めました。しかしいつまで経っても、体に痛みが走ることはありませんでした。恐る恐る目を開けてみると、セレネが弾丸を手で止めていました。
「セレネっ!!!?」
王子様の叫びが、辺りに響き渡りました。
「静かに。撃ったのは、多分隣国の兵士。貴方はここにいて」
「そんな…僕も行く…!」
「…シュレン。今日で会うのはやめましょう」
突然そう告げるセレネに、王子様は驚いて何も言えませんでした。
「ずっと考えていたの。貴方はここにいると"王子"から解放されるって言ってた。でも貴方はもう16歳になるんでしょう?ここに来ることは出来なくなるはずだわ」
「…っそうだけど、でも…」
「貴方を危険な目に合わせたくないの。こうやって狙われてしまうでしょう?お願いだから、もう、ここに来ないで」
「…っでも…僕は…君が…」
王子様の言葉を、セレネはそっと遮りました。言わせてはいけない言葉だから。もうどうしようもなくて、セレネは最終手段に出ました。
「シュレン。私を見ていて」
そう言うと、セレネは淡い光に包まれて姿を変えました。狼の姿に。
「私は狼なの。満月の日にだけ人間の姿になれる、狼の一族なの」
セレネの言葉に、王子様は言葉を失いました。何も言えず、ただ呆然と彼女を眺めているだけでした。
「兵士は私がおさえるわ。だから、早く」
もう一度人の姿に戻ったら、きっとシュレンは私を引き止める。
そう考えて、狼の姿のままその場から走り去りました。
これが、最後の逢瀬。
狼と王子様の、逢瀬。
「兵士、覚悟」
隣国との境目にあった見張り台で、鉄砲を持ったボロボロの姿の兵士が、事情を聞かれて怯えながら自分たちがしたことを話したのは、また後日のこと。
それから、何年か時が経ちました。満月の日。
「今日、王子様が結婚するらしい」という噂は、セレネの住む狼の村にも届いていました。セレネは街へ出かけるときに、数年前と同じ人だかりを見かけました。違うのは、祝福の花びらが舞っていること。中心で笑っているのは、とても美しい女性と成長したシュレンであること。セレネは、数年前に無くしたはずの恋心で、胸を痛めました。目尻に涙を浮かべながら、そっと胸の前で祈るように手を合わせました。
セレネは、スカートをふわりと翻してその場から離れました。そして、森の近くで歌を歌いました。あの時と同じ、声で。
月よ 我らの一族に 其方は何を想う
満月の時しか生きれぬ 我らのことを
其方に問う 一族の行く末を
星よ 我らの見つめる其方らは 獣と化した
我を見て 其方はきっと 想うだろう
我らを哀れみ 泣くだろう
しかし 忘れないで欲しい 我らは
その時だけで 幸せを手にしたことを
「これが、私からの祝福」
そう呟いた声は、誰にも聞こえずに空に消えていきました。
歌声は、祝福をしている人々の耳に届いていました。きらきらと輝くような声。響くような、素敵な歌声。
「…どうされましたの?」
「…なんでもないよ」
女性に、妻に聞かれた王子様は、シュレンはそう答えました。瞳に浮かんだ涙を隠しながら。
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