神様自学

天ノ谷 霙

文字の大きさ
上 下
226 / 812

月明かりの下 2

しおりを挟む
満月の日にだけ行われる、秘密の逢瀬。それはもうすでに、12回目を迎えようとしていました。森には満月の日にだけ狼になる化け物がいるから気を付けなさい、と王妃様に言われた王子様は、セレネは大丈夫だろうか、と考えていました。そしていつも通り、木の下に立っていました。
その時でした。
隣国の兵士が、1人でいる王子様に向かって引き金を引いたのは。
王子様は気付くのが僅かに遅く、覚悟を決めました。しかしいつまで経っても、体に痛みが走ることはありませんでした。恐る恐る目を開けてみると、セレネが弾丸を手で止めていました。
「セレネっ!!!?」
王子様の叫びが、辺りに響き渡りました。
「静かに。撃ったのは、多分隣国の兵士。貴方はここにいて」
「そんな…僕も行く…!」
「…シュレン。今日で会うのはやめましょう」
突然そう告げるセレネに、王子様は驚いて何も言えませんでした。
「ずっと考えていたの。貴方はここにいると"王子"から解放されるって言ってた。でも貴方はもう16歳になるんでしょう?ここに来ることは出来なくなるはずだわ」
「…っそうだけど、でも…」
「貴方を危険な目に合わせたくないの。こうやって狙われてしまうでしょう?お願いだから、もう、ここに来ないで」
「…っでも…僕は…君が…」
王子様の言葉を、セレネはそっと遮りました。言わせてはいけない言葉だから。もうどうしようもなくて、セレネは最終手段に出ました。
「シュレン。私を見ていて」
そう言うと、セレネは淡い光に包まれて姿を変えました。狼の姿に。
「私は狼なの。満月の日にだけ人間の姿になれる、狼の一族なの」
セレネの言葉に、王子様は言葉を失いました。何も言えず、ただ呆然と彼女を眺めているだけでした。
「兵士は私がおさえるわ。だから、早く」
もう一度人の姿に戻ったら、きっとシュレンは私を引き止める。
そう考えて、狼の姿のままその場から走り去りました。
これが、最後の逢瀬。
狼と王子様の、逢瀬。

「兵士、覚悟」
隣国との境目にあった見張り台で、鉄砲を持ったボロボロの姿の兵士が、事情を聞かれて怯えながら自分たちがしたことを話したのは、また後日のこと。

それから、何年か時が経ちました。満月の日。
「今日、王子様が結婚するらしい」という噂は、セレネの住む狼の村にも届いていました。セレネは街へ出かけるときに、数年前と同じ人だかりを見かけました。違うのは、祝福の花びらが舞っていること。中心で笑っているのは、とても美しい女性と成長したシュレンであること。セレネは、数年前に無くしたはずの恋心で、胸を痛めました。目尻に涙を浮かべながら、そっと胸の前で祈るように手を合わせました。
セレネは、スカートをふわりと翻してその場から離れました。そして、森の近くで歌を歌いました。あの時と同じ、声で。

月よ  我らの一族に  其方は何を想う
満月の時しか生きれぬ  我らのことを
其方に問う  一族の行く末を  
星よ  我らの見つめる其方らは  獣と化した 
我を見て  其方はきっと  想うだろう
我らを哀れみ  泣くだろう
しかし  忘れないで欲しい  我らは
その時だけで  幸せを手にしたことを

「これが、私からの祝福」
そう呟いた声は、誰にも聞こえずに空に消えていきました。

歌声は、祝福をしている人々の耳に届いていました。きらきらと輝くような声。響くような、素敵な歌声。
「…どうされましたの?」
「…なんでもないよ」
女性に、妻に聞かれた王子様は、シュレンはそう答えました。瞳に浮かんだ涙を隠しながら。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

恋は虹色orドブ色?

黒辺あゆみ
青春
西田由紀はどこにでもいる、普通の地味な女子高生だ。ただし、人が色を纏って見えるという体質以外は。  この体質を利用して相性診断をしていたら、いつの間にか「お告げの西田」という異名持ちになっていた。  そんな由紀が猫と戯れる不良男子の近藤を目撃した日から、平穏だった生活がおかしな方向へ転換し始める。 「おめぇ、バイトしねぇ?」 「それは、夜のいかがわしいお店だったり、露出の激しい衣装で誰かを勧誘したりするバイトで?」 近藤にバイトに誘われて以来、毎日が慌ただしい。それでもマイペースに生きる由紀に、近藤が振り回されることとなる。  由紀の目の前に広がる世界は果たして虹色か、あるいは最低なドブ色?

勘違いから始まる・関係・ゆり?・ブラコン!

シャル
青春
こちらは昔書いてたデータが消えたので更新してません。すみません。 ゆり、とかブラコンと、書いてますが、基本は女子高生の日常の話です。 主人公は、途中から登場する、巫杜(みこと)になります、 外ではクール?キャラでも家では、ブラコンキャラになります。 そこまで、恐ろしいブラコンの予定はありません。予定ですが。 思い付いた話を書くので、話数関係なく曜日が戻ったりするかもしれませんが、 気にしないでください。 例えば、夏の話から冬の話になったりです。 まだわかりませんが、多分なります。 キャラの会話は、わかりやすい?ように「」の中に書いてます。 キャラの心の声は「()」にしてます。 キャラの会話や登場キャラが多い予定なので、 誰が話てるか、わかりやすくするため キャラ名作者 「よかったら読んでってください。 ちなみに、文才まったくないので。誤字脱字は、お許しください。」 こんな感じです・・・ また書きためれたら、まとめて公開します 1週間に1話程度は公開頑張ります。

御伽噺GIRLS!! ~赤ずきんちゃんが銃を撃ったり雪女が冷気で斬撃をしたり恩返しの鶴が魔法少女に変身をしたり~

八乃前陣(やのまえ じん)
青春
 超現実主義な男子高校生「御伽噺章太郎(おとぎばなし しょうたろう)」の前に、三人の転入生がやって来た。  三人とも、それぞれタイプの違う美人だけど、彼女たちの正体は、なんと有名童話の主人公たちだった!

厨二病と能力者

メイリス
青春
ある日 ある街の中で「人々が狂乱する」謎の事件が起きた まるで何かに憑かれたかの様に色々な人が暴れまわる だがソレは次の日 いきなり多くの人から忘れ去られてしまう だがおぼろげにも夢として 覚えていたり その事件自体を覚えている人もいる そしてその狂乱が発生した街には超常的な能力を持つ能力者や超常的な何かも居る そしてこの物語は色々な方向からその狂乱事件を調べていくモノである

豚姫

にしめ
青春
ブー子こと間宮栞乃は太っていることからいじめを受けていた そんな彼女の生きがいは歌うことだった! 深夜の河川敷で歌う彼女の元に現れた人物により彼女の人生は変化していく

いつか山の麓へ~ナースのたまごのつくりかた 看護学生物語~

清見こうじ
青春
看護学校は、めざせ! 未来のナイチンゲール! クエストだ!? 看護師を夢見て看護学校に進学した九重夢歌さん18歳を待ち受けていたのは?! ジャーン! モンスターが現れた! スライム……ではなく課題Lv1! コマンド>にげる ……にげみちをふさがれた! 課題lv1は仲間を呼んだ……何と課題が手に負えなくなった! このままではダンジョン【実習】をクリアできない! ※この小咄は本編にはあまり関係ありません ……みたいな気持ちで乗り越える様々なクエスト! ラスボス『看護師国家試験』の向こうの看護師を目指す、夢歌さんの汗と涙と笑い(と感動もあるはず)の看護学校ストーリーです。 ※「カクヨム」「小説家になろう」でも公開してます。

ピッチャーになりたい僕とピッチャーをやりたくない君のお話

樹原 光
青春
高校の野球部に所属している梅宮は少年野球時代からピッチャーをやりたいと思っているのだが、チーム事情からなかなかやらせてもらえず、他のポジションを守っている。高校入学後1年生ながら夏の大会前ですでに準レギュラーのような扱いを受けているのだから基本的に能力は高いのだ。しかし高校でも未だピッチャーをやらせてもらえる気配はない。 そんな梅宮は入学直後の1年生のメニューで外周をランニング中、たまたまソフト部のピッチャーの投球練習を見かけた。その瞬間にその子に見惚れてしまった。顔も見えてない。ただただその投げている姿に…

不審者が俺の姉を自称してきたと思ったら絶賛売れ出し中のアイドルらしい

春野 安芸
青春
【雨の日に出会った金髪アイドルとの、ノンストレスラブコメディ――――】  主人公――――慎也は無事高校にも入学することができ可もなく不可もなくな日常を送っていた。  取り立てて悪いこともなく良いこともないそんな当たり障りのない人生を―――――  しかしとある台風の日、豪雨から逃れるために雨宿りした地で歯車は動き出す。  そこに居たのは存在を悟られないようにコートやサングラスで身を隠した不審者……もとい小さな少女だった。  不審者は浮浪者に進化する所を慎也の手によって、出会って早々自宅デートすることに!?  そんな不審者ムーブしていた彼女もそれは仮の姿……彼女の本当の姿は現在大ブレイク中の3人組アイドル、『ストロベリーリキッド』のメンバーだった!!  そんな彼女から何故か弟認定されたり、他のメンバーに言い寄られたり――――慎也とアイドルを中心とした甘々・イチャイチャ・ノンストレス・ラブコメディ!!

処理中です...