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革命クーデター
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歴史に名を残したい、なんて思う悪人がいる。純粋に国を変えようと立ち上がる若者もいる。その中で、私の足は震えていた。
国のためと立ち上がることは出来ても、それを実行に移す勇気を持っておらずいつも足は震えるばかり。
この国を統べるのは愚王。しかし元は純粋な民を想う凛々しい剣士だった。気高く兵士に立ち向かう姿は、誰もがこの国が変わると信じた。しかし現実は無情なり。権力を持った瞬間に彼は愚王と成り果てた。当初は変えるという意識を持っていたものの、権力の大きさを知り変わっていった。腐り果てた王宮に、民を想う人影は消えた。薬を密売する者、高い獣を密漁し、売り捌く者をも牽制しなくなった。金を目当てに取り入った女共と、雌の匂いが入り混じって吐きそうな程にクラクラする。私はこの王宮が大嫌いだった。守れぬ王は、いらぬ。
けれど革命を望んでもまた、愚王が就いてしまうかもしれない。その不安があった。だから、私が革命を起こそう。私は絶対に愚王になんてならない。王という地位はいらない。この国が平和であれば王なんていらぬ。私はこの国の王を変えることが出来れば、絶対王政のこの国を変えることが出来たならば、私は王座になんて座らず、民と同じ立場で平等に暮らそう。それでもまた、新しい改革を望んだ人物が愚王として王座に君臨するのならば、私は其奴を切り捨てよう。自分の手を汚す事も厭わない。何故なら、私はこの国を愛しているからだ。
私はまず、情報収集から始めた。王の名から兵士の名、城を守るありとあらゆる人名を覚え、それに伴いその人物の得意とする技、癖などを記憶していった。元々、記憶している者もいた為、あまり苦労はしなかった。そして、そのような癖を持った者と戦うときにはどうすれば良いか、剣士に教えを乞い、身につけた。どうしてこんなことを身につけるのか、と講師に聞かれた。私は「王を叩き潰すのだ」と返すと講師は微笑んで教えてくれた。大方、そんなことを為し得ないか弱い子供の戯言だと流されたのだろう。私は本気だ。私は…本気なのだ。
次に模擬戦に沢山参加した。体の大きな男もいる中、「子供もやるのか」と大笑いされたが私は本気で挑んだ。模擬戦の為、本物の武器は用意されない。好都合。殺す気で行こう。どうせ私は手を汚す運命。死ぬ覚悟で、殺す覚悟で挑む。大男が私を一番に標的にした。
[山椒は小粒でもぴりりと辛い]という諺を知らないのか。
なんて思いながら、事前に記憶した相手の弱点を突き、癖を見つけ、技を繰り出される時には消えたように走り回り、相手を翻弄した。
「やぁぁあああ!!!」
声を張り上げ、振りかぶった刀を空振りしたことで崩した体勢に刀で弱点である脇腹を叩き斬る。模擬刀で血飛沫は上がらなかったが、今が戦国時代で戦の真っ最中だったなら、此奴は間違いなく死んでいただろう。しかも馬鹿にしていた小さな子供に殺されて。悔しさと無念に顔を歪め、倒れこんだ。
わぁぁああっと、観客席からは大きな歓声が上がった。何万もの人々が、不利な状況から勝利を手に入れた私のことを見ている。
私はここで気付く。城の者が私を見つけ警戒するのでないかと。私の癖を見つけ、弱点を探し、戦いに挑んだ瞬間倒されるのでは無いかと。震える瞳を開け、見渡す。どうやら、城の者はいない。良かった。それに私のような子供が革命を起こすなど考えないか、と考え直しほっと胸を撫で下ろした。
それから何度も模擬戦に出て人気を催した。そして私は、失踪した。どよめきが会場を支配し、ファンのような者達が泣き喚いた。私はそんなことを知る由もなく隣国で修行を積んだ。一年以上姿を消し、忘れ去られた頃もう一度我が故郷に帰ってきた。マントで顔を隠し体を隠し歩いてきた。林檎を齧り、賑わう城下町を歩いた。
暫く見ないと変わるものだな、と思う。ふっと唇を歪ませ笑う。
私は今日、あの王を討つ。
そう決意を固め、城へ向かって歩いた。
すぐに警鐘が鳴り響いた。兵士は私の姿を見ることも出来ず目を見開き倒れていった。兵士に罪は無い。峰打ちをして道を開ける。階段を登るときも焦らず、刀を鞘に収めたまま腰からぶら下げ、マントで私を隠す。襲い来る兵士を次々と眠らせ、私は進む。五階まで来たか。考える気も失せ、迫り来る敵を倒し続ける。貴方を失脚させるまで私は目的を果たせない。たとえ命乞いをされたとしても、その願いは聞き入れられない。私は貴方の夢を砕く。若き頃の貴方は格好良かった。どうして権力に屈してしまったの。それすら聞くことはもうない。貴方に会うのはこれで最期。私は、とうとう最上階まで辿り着いた。
「ここまで来たのか。久しいな」
「黙れ。お前と話すことはもう、何もない」
「おいおい、久しぶりに会ったというのに…お前の態度は昔から変わらぬな」
「黙れ」
目の前に正座する王は、瞳に穏やかな光を湛え私を見つめた。やがて、意を決したように、用意していたかのようにすらすらと台詞を吐いた。
「愚かな者だ。我を愚王と突き放し、こんな革命さえ起こさなければ、民は戦火に身を投じることもなく永遠に幸福を得られたというのに」
「馬鹿を言うな愚王。民というのは、兵士のことか。兵士すらも守れぬ貴様などに、この国を操る権利を渡せるものか。それで手に入れた幸福はまがいものだ。本物の平和なんて手に入らぬ」
一歩ずつ近付き、愚王の真後ろにある壁に刃物を突き立てる。その突き立てた刃物にぐぅと力を込めた。壁に入った亀裂が大きな音を立てて肥大していった。やがて、城を炎が囲んだ。私と目の前の王を囲み、様子を見るように近付き遠ざかりを繰り返していた。私の、愚王への憎悪と共に燃え盛る炎が揺れた。書院造の部屋で、障子の奥から眩いほどの光がこの国の影を照らし出した。家臣も士族も、金と酒に陶酔した女達も、先程峰打ちして倒れこんだ兵士達も、とっくに城から逃げ出して赤く光るこの城を見上げていた。兵も、軍隊も、もう誰も王を護るものはいなかった。誰もが息を飲んでこの国の革命を望んでいた。その事実に気付いているのか否か。目の前の者は不敵に笑みをこぼした。
「我は、権利に溺れたのか。」
ふと呟いた言葉は自責の念を含んでいた。多分、この王は薬を飲んでいた。「勝利を手に入れ、疲れを忘れることが出来る」と薬を摂取していたのだろう。哀れな王だ。なんてその事実を知る者は、売買した者とこの私だけになってしまった。民は、永遠に愚王と蔑むだろう。残される書物には、権力に溺れた愚かな王だと書かれるであろう。私は事実を知った今でも、薬や女、酒に溺れた目の前の者に同情する気なんてない。愚王に対する情なんて持ち合わせていない。愚王だとしか思えない。隙を突かれたのだ。癒しを求める心の隙を。だから私はあえて見下し蔑もう。許さずに「お前は愚かだ」と。「救われることはないのだ」と。せめてもの情けとして、革命を起こそう。貴方に突き刺さる視線を浴びる時を少しでも短くしよう。それが、私にできる唯一の同情だ。父上。
首に刃物を当て、呼吸を、一つ。貴方は「待て」と呟いた。聞くことはない、と首から一筋の紅が落ちた時、貴方は私から刀を奪い取った。マントの下に隠した苦無を自分の首元に持って行き、貫いた。
血飛沫が、舞う。
貴方は、私の手を汚さぬよう自害した。取り巻く炎が、私の足元を焼き、城を崩した。私はそのまま重力に引かれる膝を地面につき、倒れるように眠りについた。
…嗚呼、熱い。体よりも、何よりも目が熱い。水分をこぼし、目を覚ました。そこは真っ白な病室だった。看護師と医師が私を囲む。
「…脈拍、呼吸数異常なし」
精密検査を受け、虚ろな目を医師に向けた。
「記憶は?ある?名前とか、自分がどういう人で何をしたのかとか…わかる?」
刹那、溢れる涙が私から残りの水分を吸い取ってこぼれ落ちた。
「…わ、たし…っ…父、う…え、を…っ追い込んで…、おいっ…こんで…っ…、自害、させた…」
はっきりと、鮮明に残っていた一番新しい記憶。血飛沫が貴方の首を落とし、崩れた膝が震えていた。貴方を、追い込んだ。実の娘であったのに。実の娘だからこそ、貴方の堕落したその姿を見ていられなくて。
「…私、私は…生きているの…?」
「あぁ、生きているよ」
父上の記憶が私を蝕み、涙が溢れ続けた。それでも私は、この国を愛した者として。この国を元の姿に取り戻せた者として。
貴方の、実の娘であったことを忘れずに。
この国の行く末を見守っていく。
国のためと立ち上がることは出来ても、それを実行に移す勇気を持っておらずいつも足は震えるばかり。
この国を統べるのは愚王。しかし元は純粋な民を想う凛々しい剣士だった。気高く兵士に立ち向かう姿は、誰もがこの国が変わると信じた。しかし現実は無情なり。権力を持った瞬間に彼は愚王と成り果てた。当初は変えるという意識を持っていたものの、権力の大きさを知り変わっていった。腐り果てた王宮に、民を想う人影は消えた。薬を密売する者、高い獣を密漁し、売り捌く者をも牽制しなくなった。金を目当てに取り入った女共と、雌の匂いが入り混じって吐きそうな程にクラクラする。私はこの王宮が大嫌いだった。守れぬ王は、いらぬ。
けれど革命を望んでもまた、愚王が就いてしまうかもしれない。その不安があった。だから、私が革命を起こそう。私は絶対に愚王になんてならない。王という地位はいらない。この国が平和であれば王なんていらぬ。私はこの国の王を変えることが出来れば、絶対王政のこの国を変えることが出来たならば、私は王座になんて座らず、民と同じ立場で平等に暮らそう。それでもまた、新しい改革を望んだ人物が愚王として王座に君臨するのならば、私は其奴を切り捨てよう。自分の手を汚す事も厭わない。何故なら、私はこの国を愛しているからだ。
私はまず、情報収集から始めた。王の名から兵士の名、城を守るありとあらゆる人名を覚え、それに伴いその人物の得意とする技、癖などを記憶していった。元々、記憶している者もいた為、あまり苦労はしなかった。そして、そのような癖を持った者と戦うときにはどうすれば良いか、剣士に教えを乞い、身につけた。どうしてこんなことを身につけるのか、と講師に聞かれた。私は「王を叩き潰すのだ」と返すと講師は微笑んで教えてくれた。大方、そんなことを為し得ないか弱い子供の戯言だと流されたのだろう。私は本気だ。私は…本気なのだ。
次に模擬戦に沢山参加した。体の大きな男もいる中、「子供もやるのか」と大笑いされたが私は本気で挑んだ。模擬戦の為、本物の武器は用意されない。好都合。殺す気で行こう。どうせ私は手を汚す運命。死ぬ覚悟で、殺す覚悟で挑む。大男が私を一番に標的にした。
[山椒は小粒でもぴりりと辛い]という諺を知らないのか。
なんて思いながら、事前に記憶した相手の弱点を突き、癖を見つけ、技を繰り出される時には消えたように走り回り、相手を翻弄した。
「やぁぁあああ!!!」
声を張り上げ、振りかぶった刀を空振りしたことで崩した体勢に刀で弱点である脇腹を叩き斬る。模擬刀で血飛沫は上がらなかったが、今が戦国時代で戦の真っ最中だったなら、此奴は間違いなく死んでいただろう。しかも馬鹿にしていた小さな子供に殺されて。悔しさと無念に顔を歪め、倒れこんだ。
わぁぁああっと、観客席からは大きな歓声が上がった。何万もの人々が、不利な状況から勝利を手に入れた私のことを見ている。
私はここで気付く。城の者が私を見つけ警戒するのでないかと。私の癖を見つけ、弱点を探し、戦いに挑んだ瞬間倒されるのでは無いかと。震える瞳を開け、見渡す。どうやら、城の者はいない。良かった。それに私のような子供が革命を起こすなど考えないか、と考え直しほっと胸を撫で下ろした。
それから何度も模擬戦に出て人気を催した。そして私は、失踪した。どよめきが会場を支配し、ファンのような者達が泣き喚いた。私はそんなことを知る由もなく隣国で修行を積んだ。一年以上姿を消し、忘れ去られた頃もう一度我が故郷に帰ってきた。マントで顔を隠し体を隠し歩いてきた。林檎を齧り、賑わう城下町を歩いた。
暫く見ないと変わるものだな、と思う。ふっと唇を歪ませ笑う。
私は今日、あの王を討つ。
そう決意を固め、城へ向かって歩いた。
すぐに警鐘が鳴り響いた。兵士は私の姿を見ることも出来ず目を見開き倒れていった。兵士に罪は無い。峰打ちをして道を開ける。階段を登るときも焦らず、刀を鞘に収めたまま腰からぶら下げ、マントで私を隠す。襲い来る兵士を次々と眠らせ、私は進む。五階まで来たか。考える気も失せ、迫り来る敵を倒し続ける。貴方を失脚させるまで私は目的を果たせない。たとえ命乞いをされたとしても、その願いは聞き入れられない。私は貴方の夢を砕く。若き頃の貴方は格好良かった。どうして権力に屈してしまったの。それすら聞くことはもうない。貴方に会うのはこれで最期。私は、とうとう最上階まで辿り着いた。
「ここまで来たのか。久しいな」
「黙れ。お前と話すことはもう、何もない」
「おいおい、久しぶりに会ったというのに…お前の態度は昔から変わらぬな」
「黙れ」
目の前に正座する王は、瞳に穏やかな光を湛え私を見つめた。やがて、意を決したように、用意していたかのようにすらすらと台詞を吐いた。
「愚かな者だ。我を愚王と突き放し、こんな革命さえ起こさなければ、民は戦火に身を投じることもなく永遠に幸福を得られたというのに」
「馬鹿を言うな愚王。民というのは、兵士のことか。兵士すらも守れぬ貴様などに、この国を操る権利を渡せるものか。それで手に入れた幸福はまがいものだ。本物の平和なんて手に入らぬ」
一歩ずつ近付き、愚王の真後ろにある壁に刃物を突き立てる。その突き立てた刃物にぐぅと力を込めた。壁に入った亀裂が大きな音を立てて肥大していった。やがて、城を炎が囲んだ。私と目の前の王を囲み、様子を見るように近付き遠ざかりを繰り返していた。私の、愚王への憎悪と共に燃え盛る炎が揺れた。書院造の部屋で、障子の奥から眩いほどの光がこの国の影を照らし出した。家臣も士族も、金と酒に陶酔した女達も、先程峰打ちして倒れこんだ兵士達も、とっくに城から逃げ出して赤く光るこの城を見上げていた。兵も、軍隊も、もう誰も王を護るものはいなかった。誰もが息を飲んでこの国の革命を望んでいた。その事実に気付いているのか否か。目の前の者は不敵に笑みをこぼした。
「我は、権利に溺れたのか。」
ふと呟いた言葉は自責の念を含んでいた。多分、この王は薬を飲んでいた。「勝利を手に入れ、疲れを忘れることが出来る」と薬を摂取していたのだろう。哀れな王だ。なんてその事実を知る者は、売買した者とこの私だけになってしまった。民は、永遠に愚王と蔑むだろう。残される書物には、権力に溺れた愚かな王だと書かれるであろう。私は事実を知った今でも、薬や女、酒に溺れた目の前の者に同情する気なんてない。愚王に対する情なんて持ち合わせていない。愚王だとしか思えない。隙を突かれたのだ。癒しを求める心の隙を。だから私はあえて見下し蔑もう。許さずに「お前は愚かだ」と。「救われることはないのだ」と。せめてもの情けとして、革命を起こそう。貴方に突き刺さる視線を浴びる時を少しでも短くしよう。それが、私にできる唯一の同情だ。父上。
首に刃物を当て、呼吸を、一つ。貴方は「待て」と呟いた。聞くことはない、と首から一筋の紅が落ちた時、貴方は私から刀を奪い取った。マントの下に隠した苦無を自分の首元に持って行き、貫いた。
血飛沫が、舞う。
貴方は、私の手を汚さぬよう自害した。取り巻く炎が、私の足元を焼き、城を崩した。私はそのまま重力に引かれる膝を地面につき、倒れるように眠りについた。
…嗚呼、熱い。体よりも、何よりも目が熱い。水分をこぼし、目を覚ました。そこは真っ白な病室だった。看護師と医師が私を囲む。
「…脈拍、呼吸数異常なし」
精密検査を受け、虚ろな目を医師に向けた。
「記憶は?ある?名前とか、自分がどういう人で何をしたのかとか…わかる?」
刹那、溢れる涙が私から残りの水分を吸い取ってこぼれ落ちた。
「…わ、たし…っ…父、う…え、を…っ追い込んで…、おいっ…こんで…っ…、自害、させた…」
はっきりと、鮮明に残っていた一番新しい記憶。血飛沫が貴方の首を落とし、崩れた膝が震えていた。貴方を、追い込んだ。実の娘であったのに。実の娘だからこそ、貴方の堕落したその姿を見ていられなくて。
「…私、私は…生きているの…?」
「あぁ、生きているよ」
父上の記憶が私を蝕み、涙が溢れ続けた。それでも私は、この国を愛した者として。この国を元の姿に取り戻せた者として。
貴方の、実の娘であったことを忘れずに。
この国の行く末を見守っていく。
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