夢のテンプレ幼女転生、はじめました。 憧れののんびり冒険者生活を送ります

ういの

文字の大きさ
上 下
31 / 39
来訪者編

83 アクアヴェール

しおりを挟む
「それにしても、また急だねぇ。そんなに水遊びがしたかったの?」

 私が収納から取り出したタオルで、自分にかかってしまった水を拭いながらアルトさんが尋ねる。
 私は腕を突き出し、そこにピッタリとはまっているアクアヴェールを二人に見せた。

「これ、魔道具やさんで見つけたの。水中呼吸と水中での服や肌の保護ができる魔道具なんだって。これを試してみたくて」

 へぇ……と、二人は興味深げにそれを見つめる。

「それ、別にお風呂でも……」

 ライくん、お口にチャックだよ。
 確かにそうだけど、これを見た瞬間にプールを思いついちゃったんだから仕方がない。
 どうせなら遊びたいじゃないか。

 それに……

「水中戦の訓練にも役立つと思うの!!」

 魔物は、海にもいる。
 私はまだ海を見たことはないけど、これからも旅を続けるなら、いつかは海に行くこともあるだろう。
 戦うまではいかなくても、足手まといにならないよう水中での動きを訓練しておくに越したことはない。

 なんて、たった今思いついた後付の理由を、さも初めからそのために作りました!とでも言うように説明する。
「チナちゃんっ……!」と、感激のアルトさんと、無言で頭を撫でてくるライくんに申し訳ない気持ちになり、視線をそらすと、ジト―っとした目のミカンとホムラがいた。
 二匹にはバレてるな、私がただ遊びたいだけだって……。



 そんなこんなで、無事アルトさんからの説教ルートを回避した私は本題に入ることにした。

 遊びたい気持ちを押し隠して、まずは魔道具の性能チェックだ。
 アルトさんとライくんは足を水につけながら見学するらしい。

 ひんやりした水に、再びつま先から入る。
 さっき慣らしたから、びっくりするほどの冷たさは感じなかった。
 そのまま水に浸かる範囲を増やしていき、膝まで入ったらドボンとプールに浸かる。

「うぅ~!きもちぃ~!!」

 まさに、暑い夏にピッタリの水温。
 ちょうどいい風が吹いて、爽快感が駆け抜ける。

 もちろん、プールの底に足がつくことは無いので縁に掴まりながらふよふよ浮いている。
 前世の感覚は抜けていないようで、このまま泳ぐこともできそうだ。
 試しに両手を放してみても、難なく浮き続けることはできた。
 
 次に、大きく息を吸って頭まで潜ってみる。
 アクアヴェールに水中呼吸の効果がついているとはいえ、いきなりそれを試すのはさすがに少し怖い。
 
 私は、息を止めたまま水中で目だけを開けてみた。
 水中で目を開けるのは少し苦手だ。
 目に水が触れている感覚や、ぼやける視界が怖く感じられて、すぐに目を閉じてしまうのだ。

 しかし、どういうわけか今の私は、水中でもはっきりものを見ることができていた。
 まるで、ゴーグルをつけているような感覚で、ここが水中だと一瞬忘れてしまいそうになるくらいだ。

 そのまましばらく水中をキョロキョロと見回してみたが、どこまでもクリアな視界に驚くばかりだ。
 
 息が苦しくなってきたところで水面に上がり、ぷはぁ、と大きく息を吸う。
 そして、すぐに気がついた。

 ――髪が、全く濡れていない。

 所々に水滴はついているものの、まるで私自身に撥水加工を施したように水が弾かれていくのだ。
 残っている水滴も、軽く撫でればポロポロと滑り落ちていく。

 水から上がったばかりだと言うのに、肌に張り付かず、サラサラを保っている髪の感覚がなんとも不思議である。

 髪や肌が濡れていないのであれば、服はどうだろう、と確認してみることにした。
 プールの縁に手をついて飛び上がり、そのまま体を反転させて縁に座る。
 
 やはり、思った通り。
 服も、肌や髪と同様に、まるで撥水加工されているようにポロポロと水滴が滑り落ちていった。
 思えば、水中でも服が肌に張り付くようなことはなく、水を吸って重くなるなんてこともなかったので、動きを阻害されている感じはしなかった。
 
 なるほど、これが『水中での服や肌の保護』の効果か。
 物理防御的な側面もあるのかとも思ったが、それに関しては今のところ感じられない。
 水が触れている感覚は確かにあるのだ。
 それは、完全に私自身と水が遮断されていないことを意味する。
 
 これでは、物理防御はあまり期待しないほうが良いだろう。
 実際になにか攻撃を受けて確認したというわけではないので、正確なところはわからないが、防御があるという前提で動くのも良くないので、これはないと思っておこう。


 ふと視線を感じ、振り返ってみると目をまんまるに開いたアルトさんと目があった。
 水から上がったばかりだと言うのに、全く濡れていない私を見て驚いているようだ。

 私はニッと笑って、もう一度水中に潜る。

 そのままソロ―っと泳いでアルトさんの前まで行った。
 透明な水の中じゃ、何をしているか丸見えだと思うが、私はそのまま「ばぁっ!」と飛び出す。

 分かっているのに驚いたふりをしてくれるアルトさんと笑い合って、近くで私の濡れていない髪を見せつける。
 隣で一瞬ビクッとしたライくんはうたた寝していたようだ。何事かとパチパチ瞬きをして、なにもないことを確認すれば、再びまぶたが降りていった。
 こんなところで寝ずとも、部屋に戻ればいいのに、と苦笑をこぼす。

「すごいね。全然濡れてない……」
 
 私の髪を一房取って撫でるように確認すれば、アルトさんの手からサラサラとこぼれる髪が再び水面についた。
 本当に、何度見ても不思議な光景だ。


 これだけでも、十分立派な魔道具として機能している。
 しかし、この魔道具はこれだけじゃない。

 『水中呼吸』

 息継ぎができないという、私の最大の弱点を補ってくれるであろうこの性能。
 これこそが、アクアヴェールのメインと言っていいだろう。
 
 これを試すのは、なかなかに心構えが必要だが、やらないわけにはいかない。
 心の準備なんて全然できていないままに、私は意を決してもう一度水中に潜った。

 相変わらずクリアな視界に視線を彷徨わせながら、私は息を吸うタイミングを探る。
 なかなか勇気が出ずに、時間だけがじわじわと過ぎていく中、とうとう私の限界が近づいてきた。

 このまま水面に上がってしまえば、この後何度挑戦しても同じ結果になるだろう。
 すでにアクアヴェールは魔道具としての優秀さを見せているんだ。
 大丈夫、大丈夫。

 そう、自分を落ち着かせ、限界を迎えたところで私は勢いよく呼吸した。

 ――空気が、吸える。息が、できる!

 それに気づいたのは、すぐだった。
 苦しさを一切感じない。違和感なく、呼吸ができている。

 それを感じた瞬間、私は一瞬空を飛んでいるんじゃないかと錯覚した。

 クリアな視界で、呼吸ができる。
 ふわふわと浮かぶように水中で漂う感覚は、未知のもので、どこまでも飛んでいけそうだと漠然と感じた。

 私は、心の思うままに体を動かす。
 壁を蹴ってまっすぐに伸びれば、スーッと前に進んでいく。
 足で波を立て、腕で水を押し出す。

 まだ、息を吸うタイミングに慣れないところはあるが、顔を上げずとも呼吸ができるために、私はいつまでも泳いでいられた。

 楽しい。気持ちいい。

 心が踊っているのを自覚しながら、まるで踊るように、自在に泳ぎ回る。
 まるでここが、自分だけの世界になったように。


 と、その世界は唐突に終わりを告げた。
 大きな圧力がかかり、私は引き上げられる。

 眼の前には、頭の天辺からぐっしょり濡れている、水も滴るいい男となったライくんがいた。

「……生きてる?」

 突然何を言い出すんだこのいい男は。
 私は頭にはてなを浮かべながら、ライくんを見つめかえす。

「チナちゃん、大丈夫?!」

 焦った声に振り返れば、立ち上がってこちらを凝視するアルトさんが。

「全然顔を出さないからびっくりしたよ!」

 なるほど。
 私が息継ぎもせずいつまでの泳ぎ回っているから流石に心配になったと。
 ライくんは焦ったアルトさんの声を聞いて反射的に飛び出してきたとかかな?あくびしてるし……。

 何はともあれ、私は無事です。
 ご心配をおかけしました。
しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

転生幼女は幸せを得る。

泡沫 呉羽
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!? 今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−

裏の林にダンジョンが出来ました。~異世界からの転生幼女、もふもふペットと共に~

あかる
ファンタジー
私、異世界から転生してきたみたい? とある田舎町にダンジョンが出来、そこに入った美優は、かつて魔法学校で教師をしていた自分を思い出した。 犬と猫、それと鶏のペットと一緒にダンジョンと、世界の謎に挑みます!

滅びる異世界に転生したけど、幼女は楽しく旅をする!

白夢
ファンタジー
 何もしないでいいから、世界の終わりを見届けてほしい。  そう言われて、異世界に転生することになった。  でも、どうせ転生したなら、この異世界が滅びる前に観光しよう。  どうせ滅びる世界なら、思いっきり楽しもう。  だからわたしは旅に出た。  これは一人の幼女と小さな幻獣の、  世界なんて救わないつもりの放浪記。 〜〜〜  ご訪問ありがとうございます。    可愛い女の子が頼れる相棒と美しい世界で旅をする、幸せなファンタジーを目指しました。    ファンタジー小説大賞エントリー作品です。気に入っていただけましたら、ぜひご投票をお願いします。  お気に入り、ご感想、応援などいただければ、とても喜びます。よろしくお願いします! 23/01/08 表紙画像を変更しました

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

追放された薬師は騎士と王子に溺愛される 薬を作るしか能がないのに、騎士団の皆さんが離してくれません!

沙寺絃
ファンタジー
唯一の肉親の母と死に別れ、田舎から王都にやってきて2年半。これまで薬師としてパーティーに尽くしてきた16歳の少女リゼットは、ある日突然追放を言い渡される。 「リゼット、お前はクビだ。お前がいるせいで俺たちはSランクパーティーになれないんだ。明日から俺たちに近付くんじゃないぞ、このお荷物が!」 Sランクパーティーを目指す仲間から、薬作りしかできないリゼットは疫病神扱いされ追放されてしまう。 さらにタイミングの悪いことに、下宿先の宿代が値上がりする。節約の為ダンジョンへ採取に出ると、魔物討伐任務中の王国騎士団と出くわした。 毒を受けた騎士団はリゼットの作る解毒薬に助けられる。そして最新の解析装置によると、リゼットは冒険者としてはFランクだが【調合師】としてはSSSランクだったと判明。騎士団はリゼットに感謝して、専属薬師として雇うことに決める。 騎士団で認められ、才能を開花させていくリゼット。一方でリゼットを追放したパーティーでは、クエストが失敗続き。連携も取りにくくなり、雲行きが怪しくなり始めていた――。

異世界に召喚されたけど間違いだからって棄てられました

ピコっぴ
ファンタジー
【異世界に召喚されましたが、間違いだったようです】 ノベルアッププラス小説大賞一次選考通過作品です ※自筆挿絵要注意⭐ 表紙はhake様に頂いたファンアートです (Twitter)https://mobile.twitter.com/hake_choco 異世界召喚などというファンタジーな経験しました。 でも、間違いだったようです。 それならさっさと帰してくれればいいのに、聖女じゃないから神殿に置いておけないって放り出されました。 誘拐同然に呼びつけておいてなんて言いぐさなの!? あまりのひどい仕打ち! 私はどうしたらいいの……!?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。