夢のテンプレ幼女転生、はじめました。 憧れののんびり冒険者生活を送ります

ういの

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来訪者編

82 改造は許可を取ってから!

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 カイルさんに声をかけてからダッシュで帰宅した私は、とあるものを作るために裏庭へやってきた。

「このへんがいいかな……」

 ウッドデッキで日向ぼっこしていたすらくんを引き連れて、裏庭の隅の方を陣取る。
 森の近くに落ちていた太めの木の枝をいくつか拾い、地面に大きな長方形ができるよう、四角に木の枝を置いて印をつけた。
 大きさにしてだいたい5m×10m。
 あとは、ここからどうかたちにしていくかだが……。

「チナ、おかえりなさい」

 そこへやってきたのは、ミカンだ。
 しっかり寝たからか、なんだかスッキリとした顔をしている。
 その後ろには、ホムラもいた。

「なにしてるんだ?」
「ここにね、プールを作ろうと思って」

 せっかく面白そうな魔道具を手に入れたのだ。早速試してみたいに決まっている。
 日に日に暑くなっていく今日このごろ。プールで水遊びというのもちょうどいいだろう。

 私は二匹にプールづくり計画を話した。
 いまつけた印に沿って、1m~2mくらい下に掘り、土が崩れないように固める。
 その外側に、水が流れるよう水路を作って、あとは水を入れれば完成だ。

「ただ、地面を掘っちゃうことになるからカイルさんたちに相談してから……」

「っ……」
「あっ……」

 プール予定地に背を向け話していた私は、その瞬間、二匹の動きがぎこちなく止まったことに違和感を覚えた。
 そういえば、話している最中に変な音と熱気を感じた気が……。

 恐る恐る後ろを振り向く。
 そこには、私の想像通りのものが、すでに完成していた。

「ミカン……?ホムラ……?」

 許可なく裏庭を改造してしまった。
 怒られたらどうしてくれるんだ、という気持ちで二人に視線を戻す。

「だ、大丈夫だ!もとに戻すのなんて簡単だぞ!なぁ、ミカン!」
「え、ええ!そうですわ!私にかかれば、こんなもの、すぐに元通りにして差し上げます!」

 翼をパタパタと上下させ、目に見えて慌てているホムラ。
 珍しく協力体制の二匹の慌てっぷりは、見ていて少しおもしろい、が……

「……芝生も、戻る?」
「そ、それは、チナにお願いすることになりますわね……」

 ここでよく鍛錬する私が、怪我しにくいようにとみんなで植えてくれた芝生。
 プール作りの許可を取った後は、こうなることはわかっていたのだが、無許可でやるのは違うだろう。
 
 しかし、やってしまったものは仕方がない。
 二度と勝手なことをしないと二匹に誓わせ、どうせ完成してしまったんだから、とプールを試してみることにした。

 ここに水を張るのは私の仕事だ。
 これだけの水量を出すのは初めてなので、気合が入る。
 両手を前に突き出し、蛇口を全開にするようなイメージで水を大量噴出させた。
 
 さすが神獣の仕事と言うべきか、土の壁はしっかり固まっており、濁ることなく水が溜まっていく。
 土色のままのプールというのも、少し違和感があるが、些細なことだ。

 しばらく水を出し続け、ほぼ満杯になったところで水の放出を止めた。

「かーんせーい!!」

 完璧に完成したプールを見れば、私のテンションもうなぎのぼりに上がっていくというもの。
 私は早速、上着としてきていた半袖パーカーとサンダルを脱ぎ、動きやすい服装になる。
 下に来ていたのはキャミソールに短パン。この程度であれば、水がまとわりついて動きを妨げることは無いだろう。

「これが、ぷーるですか……」
「これをどうするんだ?」

 プールを知らないのに私の説明だけであっという間に作り上げてしまった二匹は、興味を惹かれながらも若干引きぎみである。
 確かに、ミカンはあまり濡れるのを好まなそうだし、ホムラは火の鳥だからな……。
 一緒に楽しめる見込みは少なそうだ。

 ワクワクしているのはすらくんだけか。体を上下に伸び縮みさせ、今にも飛び込みそうである。

「プールはね、泳いで遊ぶところだよ。私は海や川よりもプールのほうが好きかな」

 ミカンとホムラにそう説明すれば、二匹はやはり泳ぐことには興味が無いようで、後ろに下がって傍観の姿勢に入った。

 まあいい。今日は魔道具のテストをするためにプールを作ったのだ。
 私は、買ったばかりの魔道具『アクアヴェール』を左手首にはめる。

 が、腕をおろした瞬間、するりとそれは抜け降りてしまう。
 やはり、子どもの私には少し大きすぎるらしい。

 落ちたそれを拾い上げ、再び腕につけた私は魔力を込めて念じた。

(縮まれ~縮まれ~)

 ものは試しに、とやってみたことだが、それは見事に成功。
 アクアヴェールは、形はそのままにググッと縮まり、ピッタリと私の腕にフィットするサイズまで小さくなった。

 軽く腕を振ってそれが落ちないことを確認する。

 後は準備運動だ。
 さっき町から走ってきたことを考えると、準備運動は軽くでいいか、とも思ったが、この世界で水泳をするのは初めてだったことを思い出す。
 しっかりするに越したことはないだろう、と思い直し、ラジオ体操風の運動と、ストレッチまで念入りに行った。

 これでようやく準備完了だ。
 ここは思いっきり飛び込みたいところだが、いきなり水に入って体がびっくりすれば、それが事故につながることもある。
 もしものときはミカンやホムラがなんとかしてくれるのはわかりきっているが、冒険者たるもの自ら危険に飛び込むわけにはいかない。

 プールの縁まで近づいた私は、その場に座りゆっくりとつま先から水につけていった。

「つめたっ」

 やはり思った通り。
 水を出すときに冷たいプールの水を想像してしまったためか、そのとおりになってしまっていたようだ。
 
 飛び込まなくてよかった。これは心臓が止まってもおかしくない。

 うんうん、と心のなかで頷きながら少しずつ水に体を慣らしていった。

「チナちゃん、何しているの?」

「うわぁあああっ!!」

 突然、耳元から聞こえてきた声に、私は驚き飛び上がる。
 その時跳ねた水が、その声の持ち主にかかってしまった気がしたが、私はバクバクする心臓を抑え込むのに必死だった。

「びっくりした……!」
「ご、ごめんね。そんなに驚くとは思わなかった」

 振り返れば、そこにいたのはアルトさん。その後ろにはライくんもいた。

 そういえば、ふたりとも今日は家にいたんだった。
 私たちがここで騒いでたら、そりゃあ気になって見に来るか。

「……これ、なに?」
「プールだよ。泳いで遊ぶところ」

 そういえば、まだ許可取りしてないんだった。
 いまの反応からして、勝手に庭を改造したことを怒ってはいなさそうだけど、けじめは大切だ。
 私は姿勢を正して、謝罪の言葉を口にする。
 
「あの、勝手に庭を作り変えちゃってごめんなさい……」

 突然しょぼんとして謝る私を見て、アルトさんはきょとんとし、ライくんは首をかしげる。

「別に構わないよ?これからも、いくらでも好きにしていいから」

 ニコッと笑ってそういうアルトさんに、私はホッと息をつく。
 後ろではライくんもうんうんと頷いていた。

 それにしてもこの人たち、私に甘すぎるのではないだろうか……?
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