26 / 28
来訪者編
78 可愛いお客さん。
しおりを挟む
つまらない。
鍛錬と薬草採取を繰り返す、代わり映えのない日々。
目に映るのは、緑の芝生、緑の森、緑の薬草。
いい加減、飽きてきた。
旅をしている間は楽しかった。
毎日が新鮮で、似ていてもどこか違う、毎日変わっていく景色にワクワクして。
大変なことも、疲れることもたくさんあったが、それでもやっぱり、楽しかったという気持ちが一番に来る。
刺激的な時間が過ぎ去ると、残ったのは楽しかった思い出と代わり映えのない日々。
何か、新たな刺激がほしい。
ワクワクして、ドキドキして、キラキラ輝くような時間が……。
裏庭の芝生に寝っ転がって、悠々と飛び回るホムラを見上げながら、そんなことを考えていた。
ぼーっとホムラの姿を目で追っているうちに、私はどうやら眠ってしまっていたらしい。
目を開けば、さっきよりほんの少しだけ上に昇った太陽が、サンサンと私を照らしていた。
太陽の眩しさにクラリとめまいがして、目を眇める。
腹筋の力で上半身を起こせば、丁度、清々しい爽やかな風が吹いた。
起き上がったことで、私のそばで寝ているホムラの姿が目に入る。
寝ている私につられたのか、単に飛びつかれて休憩していたのか。
ぐっすりと眠り込んで、起きる気配の無いホムラに、時間がまったり流れるような心地がした。
と、そこで、見慣れないものがホムラの下にあるのに気がつく。
「……ウォータークッション?」
丸くて、つるつるで、柔らかそうな水色のなにか。
まるでホムラのために作られたベッドのようなフィット感だ。
また何か、ライくんかアルトさんかに作ってもらったのだろうか?
ツンツンと指でつついてみると、それはぷにぷにで、少しひんやりとしていた。
なんだか癖になる感触に、ぷにぷにとつついたり、なでてみたりしていると、突然そのウォータークッションらしきものが、プルンと自ら震えたように感じた。
びっくりして手を離し、じっと観察してみたが、それはピクリともしない。
気の所為だったか?と思い直し再び触れると、再びプルプルと動きはじめるのを感じた。
――ぽふょん
水色の物体は突然、そんな効果音がつきそうな動きを始めた。ふにゃんと潰れてから、一気にもちっと伸び上がり、再び潰れる。
その反動で投げ出されたホムラは、芝生で何度かバウンドして、コロコロと転がっていった。しかしホムラは目を覚ますこと無く、そのままぐっすり寝ている……。
しかし一体、この謎の物体はなんだ?ともう一度よく観察してみる。
もちもちと伸び縮みを繰り返す水色の半透明の物体。
生き物には見えないが、しかしそれは生きているようだ。
そして、さっきはホムラに隠れていたため見えなかったが、その物体の中には、少し色が濃くなった丸い塊がひとつ。
まさかとは思ったが、やっぱりこれは……
「スライムだ!」
旅の中で幾度と出会った、可愛い魔物。
しかし、こんなところにスライムがいるとは思わず、全然気が付かなかった。
この、ルテール町には、スライムはいないはずだった。
なぜなら、この町に隣接する森――私が生まれ落ちた森は、凶暴な魔物の生息地なのだ。
こんな危険な場所では、スライムは生きていけない。戦うすべを持たない、か弱い魔物なのだから。
スライムは、少なくともリッテン町付近までいかないと出会えないはずなのに……。
いつものように持ち上げようと両手を差し出せば、スライムはコロコロとこちらに転がってくる。
今まで出会ったスライムたちは、逃げることさえなかったが、こんなふうに自ら近づいてくることもなかった。
スライムに意思は無いものだと思っていたが、そういうわけでも無いのか……?
珍しいスライムの反応に目を丸くしているうちに、すぐそばまでやってきたスライムが私の手にすり寄ってくる。
すべすべつるつるの肌触りが、私の手に押し付けるようにすり寄ってくる姿に私はもうメロメロだ。
直前まで考えていたことは頭の中から吹き飛んで、私はすっかりスライムを愛でることに夢中になってしまっていた。
「チナちゃーん、ごはんだよー!」
どのくらいの時間そうしていたのか、気づけばもう昼食の時間になっていたようだ。
時間を忘れてしまうほど、私にとってスライムは魅力的なのである。恐ろしい存在だ。
名残惜しく思いながらも、私はスライムをそっと地面に下ろしお別れをする。
スライムとはいえ、魔物を連れ帰ったらさすがに怒られそうだからな。みんなも私のスライム愛は知っているけど、完全に引かれてるし……。
「じゃあ、いくね。よかったらまた、あいにきてね」
最後によしよしとスライムを撫でて、私は昼食を摂りに戻った。
鍛錬と薬草採取を繰り返す、代わり映えのない日々。
目に映るのは、緑の芝生、緑の森、緑の薬草。
いい加減、飽きてきた。
旅をしている間は楽しかった。
毎日が新鮮で、似ていてもどこか違う、毎日変わっていく景色にワクワクして。
大変なことも、疲れることもたくさんあったが、それでもやっぱり、楽しかったという気持ちが一番に来る。
刺激的な時間が過ぎ去ると、残ったのは楽しかった思い出と代わり映えのない日々。
何か、新たな刺激がほしい。
ワクワクして、ドキドキして、キラキラ輝くような時間が……。
裏庭の芝生に寝っ転がって、悠々と飛び回るホムラを見上げながら、そんなことを考えていた。
ぼーっとホムラの姿を目で追っているうちに、私はどうやら眠ってしまっていたらしい。
目を開けば、さっきよりほんの少しだけ上に昇った太陽が、サンサンと私を照らしていた。
太陽の眩しさにクラリとめまいがして、目を眇める。
腹筋の力で上半身を起こせば、丁度、清々しい爽やかな風が吹いた。
起き上がったことで、私のそばで寝ているホムラの姿が目に入る。
寝ている私につられたのか、単に飛びつかれて休憩していたのか。
ぐっすりと眠り込んで、起きる気配の無いホムラに、時間がまったり流れるような心地がした。
と、そこで、見慣れないものがホムラの下にあるのに気がつく。
「……ウォータークッション?」
丸くて、つるつるで、柔らかそうな水色のなにか。
まるでホムラのために作られたベッドのようなフィット感だ。
また何か、ライくんかアルトさんかに作ってもらったのだろうか?
ツンツンと指でつついてみると、それはぷにぷにで、少しひんやりとしていた。
なんだか癖になる感触に、ぷにぷにとつついたり、なでてみたりしていると、突然そのウォータークッションらしきものが、プルンと自ら震えたように感じた。
びっくりして手を離し、じっと観察してみたが、それはピクリともしない。
気の所為だったか?と思い直し再び触れると、再びプルプルと動きはじめるのを感じた。
――ぽふょん
水色の物体は突然、そんな効果音がつきそうな動きを始めた。ふにゃんと潰れてから、一気にもちっと伸び上がり、再び潰れる。
その反動で投げ出されたホムラは、芝生で何度かバウンドして、コロコロと転がっていった。しかしホムラは目を覚ますこと無く、そのままぐっすり寝ている……。
しかし一体、この謎の物体はなんだ?ともう一度よく観察してみる。
もちもちと伸び縮みを繰り返す水色の半透明の物体。
生き物には見えないが、しかしそれは生きているようだ。
そして、さっきはホムラに隠れていたため見えなかったが、その物体の中には、少し色が濃くなった丸い塊がひとつ。
まさかとは思ったが、やっぱりこれは……
「スライムだ!」
旅の中で幾度と出会った、可愛い魔物。
しかし、こんなところにスライムがいるとは思わず、全然気が付かなかった。
この、ルテール町には、スライムはいないはずだった。
なぜなら、この町に隣接する森――私が生まれ落ちた森は、凶暴な魔物の生息地なのだ。
こんな危険な場所では、スライムは生きていけない。戦うすべを持たない、か弱い魔物なのだから。
スライムは、少なくともリッテン町付近までいかないと出会えないはずなのに……。
いつものように持ち上げようと両手を差し出せば、スライムはコロコロとこちらに転がってくる。
今まで出会ったスライムたちは、逃げることさえなかったが、こんなふうに自ら近づいてくることもなかった。
スライムに意思は無いものだと思っていたが、そういうわけでも無いのか……?
珍しいスライムの反応に目を丸くしているうちに、すぐそばまでやってきたスライムが私の手にすり寄ってくる。
すべすべつるつるの肌触りが、私の手に押し付けるようにすり寄ってくる姿に私はもうメロメロだ。
直前まで考えていたことは頭の中から吹き飛んで、私はすっかりスライムを愛でることに夢中になってしまっていた。
「チナちゃーん、ごはんだよー!」
どのくらいの時間そうしていたのか、気づけばもう昼食の時間になっていたようだ。
時間を忘れてしまうほど、私にとってスライムは魅力的なのである。恐ろしい存在だ。
名残惜しく思いながらも、私はスライムをそっと地面に下ろしお別れをする。
スライムとはいえ、魔物を連れ帰ったらさすがに怒られそうだからな。みんなも私のスライム愛は知っているけど、完全に引かれてるし……。
「じゃあ、いくね。よかったらまた、あいにきてね」
最後によしよしとスライムを撫でて、私は昼食を摂りに戻った。
678
お気に入りに追加
5,346
あなたにおすすめの小説
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
裏の林にダンジョンが出来ました。~異世界からの転生幼女、もふもふペットと共に~
あかる
ファンタジー
私、異世界から転生してきたみたい?
とある田舎町にダンジョンが出来、そこに入った美優は、かつて魔法学校で教師をしていた自分を思い出した。
犬と猫、それと鶏のペットと一緒にダンジョンと、世界の謎に挑みます!
転生幼女は幸せを得る。
泡沫 ウィルベル
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!?
今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−
スキルが農業と豊穣だったので追放されました~辺境伯令嬢はおひとり様を満喫しています~
白雪の雫
ファンタジー
「アールマティ、当主の名において穀潰しのお前を追放する!」
マッスル王国のストロング辺境伯家は【軍神】【武神】【戦神】【剣聖】【剣豪】といった戦闘に関するスキルを神より授かるからなのか、代々優れた軍人・武人を輩出してきた家柄だ。
そんな家に産まれたからなのか、ストロング家の者は【力こそ正義】と言わんばかりに見事なまでに脳筋思考の持ち主だった。
だが、この世には例外というものがある。
ストロング家の次女であるアールマティだ。
実はアールマティ、日本人として生きていた前世の記憶を持っているのだが、その事を話せば病院に送られてしまうという恐怖があるからなのか誰にも打ち明けていない。
そんなアールマティが授かったスキルは【農業】と【豊穣】
戦いに役に立たないスキルという事で、アールマティは父からストロング家追放を宣告されたのだ。
「仰せのままに」
父の言葉に頭を下げた後、屋敷を出て行こうとしているアールマティを母と兄弟姉妹、そして家令と使用人達までもが嘲笑いながら罵っている。
「食糧と食料って人間の生命活動に置いて一番大事なことなのに・・・」
脳筋に何を言っても無駄だと子供の頃から悟っていたアールマティは他国へと亡命する。
アールマティが森の奥でおひとり様を満喫している頃
ストロング領は大飢饉となっていた。
農業系のゲームをやっていた時に思い付いた話です。
主人公のスキルはゲームがベースになっているので、作物が実るのに時間を要しないし、追放された後は現代的な暮らしをしているという実にご都合主義です。
短い話という理由で色々深く考えた話ではないからツッコミどころ満載です。
ハイエルフの幼女に転生しました。
レイ♪♪
ファンタジー
ネグレクトで、死んでしまったレイカは
神様に転生させてもらって新しい世界で
たくさんの人や植物や精霊や獣に愛されていく
死んで、ハイエルフに転生した幼女の話し。
ゆっくり書いて行きます。
感想も待っています。
はげみになります。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!
八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。
『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。
魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。
しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も…
そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。
しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。
…はたして主人公の運命やいかに…
異世界に召喚されたけど間違いだからって棄てられました
ピコっぴ
ファンタジー
【異世界に召喚されましたが、間違いだったようです】
ノベルアッププラス小説大賞一次選考通過作品です
※自筆挿絵要注意⭐
表紙はhake様に頂いたファンアートです
(Twitter)https://mobile.twitter.com/hake_choco
異世界召喚などというファンタジーな経験しました。
でも、間違いだったようです。
それならさっさと帰してくれればいいのに、聖女じゃないから神殿に置いておけないって放り出されました。
誘拐同然に呼びつけておいてなんて言いぐさなの!?
あまりのひどい仕打ち!
私はどうしたらいいの……!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。