22 / 39
来訪者編
74 大きなミカンと小さなホムラ。
しおりを挟む
ミカンはふわっと尻尾を揺らしてダン爺にチラリと視線を送る。
呆然としたダン爺の姿を見てコテンと首をかしげたミカンは、パチクリと目を瞬いて口を開いた。
「そういえば、この姿でお会いするのは初めてでしたわね。ミカンですわ」
ああ、そういうことか。
小さな姿のミカンしか知らないダン爺にとって、この元の姿のミカンは誰かわからなかったのだろう。
それも、ホムラと変わらない大きさなうえ、私の真後ろにいたのに、いままで一切気が付かなかったのだ。
なにげにミカンは、気配を消すのがうまいらしい。知らなかった。
ダン爺は驚いた表情のまま固まってしまった。
ここまで動揺しているダン爺はめったに見られるものではない。
ダン爺はいつも堂々としていて、何が起きても冷静でいられる精神力を持っている。
おそらく、ギルマスという冒険者を束ねる立場にいるというのもあるだろう。
トップが動揺した姿を見せれば、その下につくものまで不安が広がる。
だから、ダン爺のこんな姿を見られるのは、レア中のレアなのだ。
驚きの表情のまま、視線をほんの少し下に下げたダン爺はようやく口を開いた。
「お、お前、その首輪どうなってるんだっ?!」
――あたりは静まり返る。
誰もが冷めた視線でダン爺を見つめていた。
「い、いや、気になるだろ?!」
確かに、大きな姿のミカンの首にも、デザインはそのままの首輪が違和感なく嵌っている。
ミカンの大きさに比例するように首輪の大きさも変わっていたらしいが、あまりに馴染みすぎて特に気にならなかった。
正直、ミカンが自分の大きさを変えられることを知っている私からすれば、首輪の大きさを変えるのも造作もないことだろうとしか思わないが……。
ただ、少し気になるのは、大きくなった首輪は、そこについていた宝石もそのまま大きくなっているのだ。
小粒宝石がキラキラ輝いて可愛らしい首輪は、大粒の宝石がゴージャスな美しい首輪に様変わりしていた。
あれ、売ったらいくらになるんだろう?
考えるだけで恐ろしい……。
密かに身震いする私を横目に、ミカンはポンっと一回転して小さな姿に戻った。
さっきまでダン爺を見下ろす位置にいたミカンは、今は首をほぼ真上に向けてダン爺を見上げている。
「このくらい、造作もないことですわ」
ツンとお澄まし顔で行儀よく座るミカン。かわいい……。
ダン爺をは「ほほぉ」と目を見開いて感心していた。
「……な、なんだそのちんまい姿は!!」
あたりに響き渡った叫び声は、ホムラのものだ。
さっき出会ったばかりのホムラは当然大きな姿のミカンしか知らない。
歴代の神獣たちはみんなミカンに似た姿だったのだろうか。
この小さな姿に変わってしまうのは、やっぱり神獣のなかでも珍しいことらしい。
「元の姿のままだと人間社会に溶け込めませんからね。あなたも、チナたちに迷惑をかけないよう、小さく目立たぬようにするのをおすすめしますわ」
なるほど、と頷いたホムラは、次の瞬間には姿を消していた。
キョロキョロとあたりを見回してみても、ホムラの姿はどこにも見えない。
成人男性より大きなホムラが一瞬にしてどこに消えたのか。
空を見ても、影すら見えないことに困惑する。
「おーい、姫様。ここだぞ」
笑いを含んだホムラの声が、驚くことに近いところから聞こえてくる。
声がする方――私の足元に視線を下げるとそこには、雀ほどの大きさのまんまるとした赤い小鳥の姿があった。
私の手のひらに収まりそうなほどの小さなその姿に、私はすぐに手を差し出す。
ぴょんと飛び跳ねて私の手のひらに収まったホムラは、こころなしかドヤ顔をしているように見えた。
「俺様にかかれば、ここまで小さくなることもできるのだぞ。どうだ、姫様。この姿は気に入ったか?」
流し目でこちらを見ながらキザなポーズを取るホムラ。
本人としてはカッコつけているつもりだろうが、正直かわいいしかない。
「うん、すごい!これでいつでもいっしょにいられるね!」
フフンと鼻を鳴らしたホムラは、パタパタと翼をはためかせて飛び上がった。
ホムラの向かった先は、カイルさんの頭の上。
ちょこんとそこに収まったホムラは、ツンツンと小さなくちばしでカイルさんの髪をついばみだした。
「うむ。今日からここが俺様の定位置だ」
満足げな顔をホムラ。
さっきのツンツンは巣作りをしていたらしい。
若干カイルさんの頭がもさっとしている。
ものすごく嫌そうな顔をしているカイルさんから目をそらせば、かなりファンタジー色強めな光景だ。
それがあまりにもカイルさんに似合わな過ぎて、私は思わず吹き出してしまった。
呆然としたダン爺の姿を見てコテンと首をかしげたミカンは、パチクリと目を瞬いて口を開いた。
「そういえば、この姿でお会いするのは初めてでしたわね。ミカンですわ」
ああ、そういうことか。
小さな姿のミカンしか知らないダン爺にとって、この元の姿のミカンは誰かわからなかったのだろう。
それも、ホムラと変わらない大きさなうえ、私の真後ろにいたのに、いままで一切気が付かなかったのだ。
なにげにミカンは、気配を消すのがうまいらしい。知らなかった。
ダン爺は驚いた表情のまま固まってしまった。
ここまで動揺しているダン爺はめったに見られるものではない。
ダン爺はいつも堂々としていて、何が起きても冷静でいられる精神力を持っている。
おそらく、ギルマスという冒険者を束ねる立場にいるというのもあるだろう。
トップが動揺した姿を見せれば、その下につくものまで不安が広がる。
だから、ダン爺のこんな姿を見られるのは、レア中のレアなのだ。
驚きの表情のまま、視線をほんの少し下に下げたダン爺はようやく口を開いた。
「お、お前、その首輪どうなってるんだっ?!」
――あたりは静まり返る。
誰もが冷めた視線でダン爺を見つめていた。
「い、いや、気になるだろ?!」
確かに、大きな姿のミカンの首にも、デザインはそのままの首輪が違和感なく嵌っている。
ミカンの大きさに比例するように首輪の大きさも変わっていたらしいが、あまりに馴染みすぎて特に気にならなかった。
正直、ミカンが自分の大きさを変えられることを知っている私からすれば、首輪の大きさを変えるのも造作もないことだろうとしか思わないが……。
ただ、少し気になるのは、大きくなった首輪は、そこについていた宝石もそのまま大きくなっているのだ。
小粒宝石がキラキラ輝いて可愛らしい首輪は、大粒の宝石がゴージャスな美しい首輪に様変わりしていた。
あれ、売ったらいくらになるんだろう?
考えるだけで恐ろしい……。
密かに身震いする私を横目に、ミカンはポンっと一回転して小さな姿に戻った。
さっきまでダン爺を見下ろす位置にいたミカンは、今は首をほぼ真上に向けてダン爺を見上げている。
「このくらい、造作もないことですわ」
ツンとお澄まし顔で行儀よく座るミカン。かわいい……。
ダン爺をは「ほほぉ」と目を見開いて感心していた。
「……な、なんだそのちんまい姿は!!」
あたりに響き渡った叫び声は、ホムラのものだ。
さっき出会ったばかりのホムラは当然大きな姿のミカンしか知らない。
歴代の神獣たちはみんなミカンに似た姿だったのだろうか。
この小さな姿に変わってしまうのは、やっぱり神獣のなかでも珍しいことらしい。
「元の姿のままだと人間社会に溶け込めませんからね。あなたも、チナたちに迷惑をかけないよう、小さく目立たぬようにするのをおすすめしますわ」
なるほど、と頷いたホムラは、次の瞬間には姿を消していた。
キョロキョロとあたりを見回してみても、ホムラの姿はどこにも見えない。
成人男性より大きなホムラが一瞬にしてどこに消えたのか。
空を見ても、影すら見えないことに困惑する。
「おーい、姫様。ここだぞ」
笑いを含んだホムラの声が、驚くことに近いところから聞こえてくる。
声がする方――私の足元に視線を下げるとそこには、雀ほどの大きさのまんまるとした赤い小鳥の姿があった。
私の手のひらに収まりそうなほどの小さなその姿に、私はすぐに手を差し出す。
ぴょんと飛び跳ねて私の手のひらに収まったホムラは、こころなしかドヤ顔をしているように見えた。
「俺様にかかれば、ここまで小さくなることもできるのだぞ。どうだ、姫様。この姿は気に入ったか?」
流し目でこちらを見ながらキザなポーズを取るホムラ。
本人としてはカッコつけているつもりだろうが、正直かわいいしかない。
「うん、すごい!これでいつでもいっしょにいられるね!」
フフンと鼻を鳴らしたホムラは、パタパタと翼をはためかせて飛び上がった。
ホムラの向かった先は、カイルさんの頭の上。
ちょこんとそこに収まったホムラは、ツンツンと小さなくちばしでカイルさんの髪をついばみだした。
「うむ。今日からここが俺様の定位置だ」
満足げな顔をホムラ。
さっきのツンツンは巣作りをしていたらしい。
若干カイルさんの頭がもさっとしている。
ものすごく嫌そうな顔をしているカイルさんから目をそらせば、かなりファンタジー色強めな光景だ。
それがあまりにもカイルさんに似合わな過ぎて、私は思わず吹き出してしまった。
1,367
お気に入りに追加
5,361
あなたにおすすめの小説

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

転生幼女は幸せを得る。
泡沫 呉羽
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!?
今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−

裏の林にダンジョンが出来ました。~異世界からの転生幼女、もふもふペットと共に~
あかる
ファンタジー
私、異世界から転生してきたみたい?
とある田舎町にダンジョンが出来、そこに入った美優は、かつて魔法学校で教師をしていた自分を思い出した。
犬と猫、それと鶏のペットと一緒にダンジョンと、世界の謎に挑みます!
滅びる異世界に転生したけど、幼女は楽しく旅をする!
白夢
ファンタジー
何もしないでいいから、世界の終わりを見届けてほしい。
そう言われて、異世界に転生することになった。
でも、どうせ転生したなら、この異世界が滅びる前に観光しよう。
どうせ滅びる世界なら、思いっきり楽しもう。
だからわたしは旅に出た。
これは一人の幼女と小さな幻獣の、
世界なんて救わないつもりの放浪記。
〜〜〜
ご訪問ありがとうございます。
可愛い女の子が頼れる相棒と美しい世界で旅をする、幸せなファンタジーを目指しました。
ファンタジー小説大賞エントリー作品です。気に入っていただけましたら、ぜひご投票をお願いします。
お気に入り、ご感想、応援などいただければ、とても喜びます。よろしくお願いします!
23/01/08 表紙画像を変更しました
転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~
丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。
一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。
それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。
ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。
ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。
もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは……
これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
追放された薬師は騎士と王子に溺愛される 薬を作るしか能がないのに、騎士団の皆さんが離してくれません!
沙寺絃
ファンタジー
唯一の肉親の母と死に別れ、田舎から王都にやってきて2年半。これまで薬師としてパーティーに尽くしてきた16歳の少女リゼットは、ある日突然追放を言い渡される。
「リゼット、お前はクビだ。お前がいるせいで俺たちはSランクパーティーになれないんだ。明日から俺たちに近付くんじゃないぞ、このお荷物が!」
Sランクパーティーを目指す仲間から、薬作りしかできないリゼットは疫病神扱いされ追放されてしまう。
さらにタイミングの悪いことに、下宿先の宿代が値上がりする。節約の為ダンジョンへ採取に出ると、魔物討伐任務中の王国騎士団と出くわした。
毒を受けた騎士団はリゼットの作る解毒薬に助けられる。そして最新の解析装置によると、リゼットは冒険者としてはFランクだが【調合師】としてはSSSランクだったと判明。騎士団はリゼットに感謝して、専属薬師として雇うことに決める。
騎士団で認められ、才能を開花させていくリゼット。一方でリゼットを追放したパーティーでは、クエストが失敗続き。連携も取りにくくなり、雲行きが怪しくなり始めていた――。
異世界に召喚されたけど間違いだからって棄てられました
ピコっぴ
ファンタジー
【異世界に召喚されましたが、間違いだったようです】
ノベルアッププラス小説大賞一次選考通過作品です
※自筆挿絵要注意⭐
表紙はhake様に頂いたファンアートです
(Twitter)https://mobile.twitter.com/hake_choco
異世界召喚などというファンタジーな経験しました。
でも、間違いだったようです。
それならさっさと帰してくれればいいのに、聖女じゃないから神殿に置いておけないって放り出されました。
誘拐同然に呼びつけておいてなんて言いぐさなの!?
あまりのひどい仕打ち!
私はどうしたらいいの……!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。