夢のテンプレ幼女転生、はじめました。 憧れののんびり冒険者生活を送ります

ういの

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来訪者編

74 大きなミカンと小さなホムラ。

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 ミカンはふわっと尻尾を揺らしてダン爺にチラリと視線を送る。

 呆然としたダン爺の姿を見てコテンと首をかしげたミカンは、パチクリと目を瞬いて口を開いた。

「そういえば、この姿でお会いするのは初めてでしたわね。ミカンですわ」

 ああ、そういうことか。
 小さな姿のミカンしか知らないダン爺にとって、この元の姿のミカンは誰かわからなかったのだろう。
 それも、ホムラと変わらない大きさなうえ、私の真後ろにいたのに、いままで一切気が付かなかったのだ。

 なにげにミカンは、気配を消すのがうまいらしい。知らなかった。

 ダン爺は驚いた表情のまま固まってしまった。
 ここまで動揺しているダン爺はめったに見られるものではない。
 
 ダン爺はいつも堂々としていて、何が起きても冷静でいられる精神力を持っている。
 おそらく、ギルマスという冒険者を束ねる立場にいるというのもあるだろう。
 トップが動揺した姿を見せれば、その下につくものまで不安が広がる。
 だから、ダン爺のこんな姿を見られるのは、レア中のレアなのだ。

 驚きの表情のまま、視線をほんの少し下に下げたダン爺はようやく口を開いた。

「お、お前、その首輪どうなってるんだっ?!」

 ――あたりは静まり返る。

 誰もが冷めた視線でダン爺を見つめていた。

「い、いや、気になるだろ?!」

 確かに、大きな姿のミカンの首にも、デザインはそのままの首輪が違和感なく嵌っている。
 ミカンの大きさに比例するように首輪の大きさも変わっていたらしいが、あまりに馴染みすぎて特に気にならなかった。

 正直、ミカンが自分の大きさを変えられることを知っている私からすれば、首輪の大きさを変えるのも造作もないことだろうとしか思わないが……。

 ただ、少し気になるのは、大きくなった首輪は、そこについていた宝石もそのまま大きくなっているのだ。
 小粒宝石がキラキラ輝いて可愛らしい首輪は、大粒の宝石がゴージャスな美しい首輪に様変わりしていた。
 
 あれ、売ったらいくらになるんだろう?
 考えるだけで恐ろしい……。

 密かに身震いする私を横目に、ミカンはポンっと一回転して小さな姿に戻った。
 さっきまでダン爺を見下ろす位置にいたミカンは、今は首をほぼ真上に向けてダン爺を見上げている。

「このくらい、造作もないことですわ」

 ツンとお澄まし顔で行儀よく座るミカン。かわいい……。

 ダン爺をは「ほほぉ」と目を見開いて感心していた。

 

「……な、なんだそのちんまい姿は!!」

 あたりに響き渡った叫び声は、ホムラのものだ。

 さっき出会ったばかりのホムラは当然大きな姿のミカンしか知らない。
 歴代の神獣たちはみんなミカンに似た姿だったのだろうか。
 この小さな姿に変わってしまうのは、やっぱり神獣のなかでも珍しいことらしい。

「元の姿のままだと人間社会に溶け込めませんからね。あなたも、チナたちに迷惑をかけないよう、小さく目立たぬようにするのをおすすめしますわ」

 なるほど、と頷いたホムラは、次の瞬間には姿を消していた。

 キョロキョロとあたりを見回してみても、ホムラの姿はどこにも見えない。
 成人男性より大きなホムラが一瞬にしてどこに消えたのか。
 空を見ても、影すら見えないことに困惑する。

「おーい、姫様。ここだぞ」

 笑いを含んだホムラの声が、驚くことに近いところから聞こえてくる。
 声がする方――私の足元に視線を下げるとそこには、雀ほどの大きさのまんまるとした赤い小鳥の姿があった。
 
 私の手のひらに収まりそうなほどの小さなその姿に、私はすぐに手を差し出す。

 ぴょんと飛び跳ねて私の手のひらに収まったホムラは、こころなしかドヤ顔をしているように見えた。

「俺様にかかれば、ここまで小さくなることもできるのだぞ。どうだ、姫様。この姿は気に入ったか?」

 流し目でこちらを見ながらキザなポーズを取るホムラ。
 本人としてはカッコつけているつもりだろうが、正直かわいいしかない。

「うん、すごい!これでいつでもいっしょにいられるね!」

 フフンと鼻を鳴らしたホムラは、パタパタと翼をはためかせて飛び上がった。
 ホムラの向かった先は、カイルさんの頭の上。
 ちょこんとそこに収まったホムラは、ツンツンと小さなくちばしでカイルさんの髪をついばみだした。

「うむ。今日からここが俺様の定位置だ」

 満足げな顔をホムラ。
 さっきのツンツンは巣作りをしていたらしい。
 若干カイルさんの頭がもさっとしている。

 ものすごく嫌そうな顔をしているカイルさんから目をそらせば、かなりファンタジー色強めな光景だ。

 それがあまりにもカイルさんに似合わな過ぎて、私は思わず吹き出してしまった。
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