夢のテンプレ幼女転生、はじめました。 憧れののんびり冒険者生活を送ります

ういの

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来訪者編

73 やって来たのは……。

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「うぉおおおーーー!!」

 突如鳴り響く、獣の咆哮のような音に、私は肩を震わせる。
 ズドドドドド、と地響きのようなものも聞こえてきた。

 顔を上げた私は、その音のした方に視線を向ける。
 どうやらその音は町の方から聞こえててきたもののようで、その方向から、土煙を上げて何かが向かってきているのが見えた。

「つぎはなに?!」

 思わず叫んでしまったのも致し方ないことだろう。眠気も一気に吹き飛んでしまった。

 正体不明の何かが、ものすごい勢いでこちらに向かってくる。
 それは、恐怖以外のなにものでもない。
 突然やって来たホムラのことがようやく落ち着いてきたばかりだというのに、こんな短時間で同じ恐怖を二度も味わうことになるとは思わなかった。
 そろそろ、ゆっくり休ませてほしい。

 今の状況で分かることは、こちらに向かってきている何かは地を走っているということ。
 そして、人間に近い姿をしているということ。
 薄っすらと見えるシルエットから、それだけはわかったが、その正体が何かまではわからない。

 最強の冒険者三人に神獣が二匹もついている今の私に敵うものはいないだろうが、正体のわからないものをただ待ち構えるだけというのも精神的に負担がかかる。
 震えそうになる体を押さえつけて、とりあえず、すぐに逃げれるようにだけしておこう。
 一番弱い私は、変に手を出さずに逃げるに限る。

 だんだんと近づいてくる謎の土煙の中の影は、近づけば近づくほどにはっきりと人の姿をとっていく。
 これ、本当に人だったりして……と思ったところで、再び、咆哮のような叫び声が聞こえてきた。

「おまえらぁ、無事かぁーーーー!!」

 その声を聞いて、私はドッと脱力する。
 あまりの安心感にへたり込みそうになったが、ミカンが支えてくれたおかげで、かろうじて立っていられた。
 カイルさんたちも、警戒を解いたようだ。

 何も分かっていないホムラだけは、爛々と目を輝かせて臨戦態勢を取ったままだ。
 ただ、私達が警戒を解いたことが分かったのか、殺意を帯びていた気配が、なんだかワクワクしたものに変わっていた。


 もうすぐそこまでやって来た土煙の正体は、わたしたちの眼の前でズザァーっと急ブレーキをかける。
 そのせいで余計に土煙が舞い上がって、視界が奪われた。

 手で顔を覆い、目を守りながらそれが収まるのをしばらく待つ。

「お?なんだなんだ?」

 視界が閉ざされた中、楽しそうなホムラの声だけが響く。
 その姿は一切見えていないというのに、そわそわと浮足立つホムラの様子がありありと脳裏に浮かんだ。

 手の隙間から土煙が収まったのを確認して、両手を下ろす。
 
 顔を上げるとそこには、目をまんまるにして見つめ合うホムラとダン爺の姿があった。

「……なんだこのでっけぇ鳥は!」

 驚きに目を見開くダン爺のその姿は、めったに見られるものではないだろう。
 少年のように目を輝かせて、ホムラの周囲をぐるぐる周り、観察を始めるダン爺。
 そのダン爺を目で追い、自らもその場でぐるぐる回りだすホムラ。
 二人してぐるぐるまわる姿は、なんだか滑稽だった。

 少しして満足したのか、二人はピタリと立ち止まる。
 そして、二人してグルンとカイルさんに視線を向けた。

「「カイル!なんだコイツは!」」

 怒鳴りつけるような大声で、しかし楽しそうな、嬉しそうな声色で叫ぶ二人は息ぴったりだ。

 二人の叫び声を真正面から受けたカイルさんは、顔をしかめ、耳を手で覆いながらもその質問に答える。

「こっちはダングルフ。この町のギルマス……あぁ~、そこそこ偉いやつだ」

 ギルマスという言葉にキョトン顔のホムラを見て言い直したはいいが、かなり大雑把な説明である。
 まぁ、偉い人なのは間違いないんだけど……ダン爺はそれでいいの?

「こっちはホムラ。火の神獣で、ついさっき俺と従魔契約を結んだ」

 そのままホムラの紹介を始めるカイルさん。
 こっちも大雑把な説明だ。……まぁ、他に言うこともないか?
 
 ダン爺とホムラは互いに手を取り合って――翼と手を取り合って?握手していた。

 ダン爺は、ホムラが神獣と聞いても変わらぬ態度だ。
 ミカンの時もそうだったけど、この大きな姿のホムラを見ても変わらないとは……。
 ダン爺は間違いなく大物である。


「それにしても、でかいなぁ……」

 何を思ったのか、突然ダン爺が私に視線を向けてきた。
 明らかに私とホムラを見比べているその様子に、若干イラッとする。
 あの様子だと、ホムラは私何人分か、とか考えていそうだ。
 どうせ私は小さいですよっ!

 ふと、私から視線を外して、私の上の方に視線を向けたダン爺が固まった。
 突然様子が変わったことに、私も困惑する。

 ダン爺の視線を追うとそこには、ぼんやりと遠くを見つめるミカンがいた。
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