夢のテンプレ幼女転生、はじめました。 憧れののんびり冒険者生活を送ります

ういの

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来訪者編

72 従魔契約。

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「そんな面白そうなこと、俺様もやるに決まっている!!」

 ――なにをいっているんだろうこのしんじゅうさまは。

 神獣が獣魔契約を結ぶなんてありえない、という理由で驚いていたのかと思ったのに。
 面白そうだと思っていただけだなんて……。
 正直、理解不能である。

 火の神獣のこの発言を聞いてからだと、ミカンの考えがかなりまともに感じる。
 私についてくるために従魔になった。
 実際それは必要なことだったし、ミカンからしたら何もためらうことはなかったのだろう。

 プライドがどうとか考えてた私が馬鹿らしくなってきた。

 火の神獣はウキウキとした様子でミカンの話を聞いていた。
 私の従魔にはなれない理由や、ミカンがライを選んだ理由についてだ。

 それを聞けば、この神獣の主人となるのが誰か、考えなくても分かる。

 その本人も自覚しているようで、若干顔が引き攣っていたが、私は見ないふりをした。
 ごめん!私にはどうすることもできない……!!

 したり顔の神獣が、いそいそとカイルさんの前に行く。
 そして、胸をそらし、両方の翼を広げてこう言った。

「王の加護を得たお前は、俺様の主人にふさわしい。光栄に思うが良いぞ」

 フンッと鼻を鳴らして得意げな様子だ。
 契約上、従う側になるはずの存在がここまで尊大な態度を取るなんて前代未聞だ……。

 思わず遠い目になってしまったのは、私だけではなかった。

 大きく息を吐いたカイルさんは、覚悟を決めた目で手を差し出す。

「……わかった。よろしく頼む」

 カイルさんが差し出した手に、翼を折りたたんだ神獣がちょこんとくちばしを乗せた。

 握手をしているようなその様子に、思わずほっこりしてしまった。


「じゃあ姫様、俺様に名前を付けてくれ!カッコいいやつで頼むぞ!」

 期待で目を爛々と輝かさせた神獣がこちらをまっすぐに見つめる。

 ――そうか、そういえばあったな、そんなこと。
 一番の難関、名付けイベントの再来だ。

 私は内心、頭を抱える。
 ほっこりしてる場合じゃなかったよ!
 どうするんだよ!考えてなかったよ!

 ほんと、ネーミングセンスだけは努力でどうにかなるものじゃないと思う。
 どうして私にこんな難題を課すのか。
 いや、理由はわかってるんだけど。
 
 神獣の主である精霊王が姫と定めた散在だもんね、私。
 そりゃ、特別視するよね。
 だからって名付け親にするのは勘弁してほしいけどね! 

 まあ、言われてしまったものは仕方がない。
 無い語彙力を必死に絞り出して、火の神獣らしく、そしてカッコいい名を考えなければ……。

 火の鳥、フェニックス……。
 燃え上がる炎、真っ赤な炎、情熱的……。

 シンプルに「ホムラ」とかどうだろうか。
 真っ赤に燃え上がる炎を纏った、火の鳥にピッタリだと思う。……多分。

 ドキドキと緊張で高鳴る心臓を抑えて、口を開いた。

「ホムラ……って、どうかな?」

 ミカンの時は、思わず口に出してしまった言葉がそのまま採用されたから、こんな緊張感はなかった。
 気に入ってもらえるか不安で、少し怖い。

 「ホムラ、ホムラ」と口の中で何度か呟いた火の神獣が顔を上げ、まっすぐにこちらを見つめる。

「良い名だ。ありがとう、姫様!」

 火の神獣は、満面の笑みを浮かべていた。……鳥だけど。
 なんでこんなわかりやすい表情を浮かべられるのだろう?本当に不思議だ。

 なにはともあれ、ホムラという名は気に入ってもらえたようだ。よかった。

 ホムラはカイルさんと向かい合って宣言する。

「さあ、俺の名は決まった。契約を始めるぞ」
 
 カイルさんもまっすぐにホムラを見つめ返す。

「ホムラ。……俺は、カイルだ。これからよろしくな」
「あぁ!カイル、よろしく頼む!」

 ヌルっと契約が完了してしまった。
 怒涛の展開だったな。

 ひとまずこれで一件落着か?
 ホムラのペースに乗せられて、そのまま従魔契約まで結んでしまったけど、本人たちが納得しているなら私が言うことは無い。

 ホムラは、カイルさんたちと交流を始めたようだ。アルトさんとライくんもようやく挨拶できたようだし、もぷ私の役目はなにもないだろう。

 一息ついたら安心して眠くなってきた。
 起こされたの、日が出る前だったもんな。
 もうすっかり日も昇りきっている。

 私は大きなあくびをして、ぽすんとミカンの毛皮に埋もれた。

 ……その直後、遠くの方から雄叫びのようなものが聞こえた気がした。
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