夢のテンプレ幼女転生、はじめました。 憧れののんびり冒険者生活を送ります

ういの

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来訪者編

71 火の神獣。

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 私を包むミカンの九本の尻尾が、ユラユラと不快そうに揺れる。
 火の神獣に同情的だった眼差しも、いつの間にか、横目で軽く睨みつけるようなものに変わっていた。
 構われすぎるのは嫌だが、だからといって私がミカン以外の誰かに夢中になるのも思うところがあるらしい。

 そういえば、私がスライムに夢中になっていた時もなんだか、ジェラシー的なものを感じたもんな……。
 複雑な乙女心というやつだろうか。なんて可愛いんだ……!!
 『ミカンが一番だよっ!』という思いを込めて、フワッフワの尻尾をこっそりと撫で回しておいた。



 ミカンのなんとも言えない視線と、尻尾のユラユラが少し落ち着いたところで火の神獣が口を開いた。

「それで、お前たちが姫様の保護者ってやつか」

 火の神獣は、いままで空気のように存在感を消していたカイルさんたちに目を向けていた。

 唐突に自分たちのことが話題に上がったことと、神獣の視線がまっすぐ彼らを射抜いていることに、三人は硬直する。
 初めてミカンにあったときほどの戸惑いや緊張はなさそうだが、空気に徹していたところに突然声をかけられて驚いているらしい。

 三対一のにらみ合いは、ほんの数十秒の出来事だった。
 値踏みするように三人をじっとりと睨みつけていた神獣は、ふっと息を吐いてその場に漂っていた緊張感を霧散させた。

「なかなか見どころがありそうなやつらだ。王たちが認めたのも納得だな」

 その一言が呼び水となって、三人は火の神獣に跪く。ミカンや精霊王たちに初めて会った時のように。
 
 突然の神獣の登場や、その神獣の諸々の発言に、現実味がなかったのだろう。
 自分たちが神獣に認識されたことで、ようやくそこに、敬うべき存在がいることを実感したようだった。

「うむうむ。敬われるのも悪くない。だが、もういいぞ。堅苦しいのは好きじゃないからな」

 ほんの少しの間、優越感に浸っていた神獣だが、次の瞬間にはあっけらかんとしてそう言っていた。
 
 確かに火の神獣は、なんというか、親しみやすさを感じる。
 ミカンは常に敬語というのもあってか、高貴な存在のように感じることがあるのだが、火の神獣はそれとは真逆の、なんというか、近所のガキ大将のような、親戚のお兄ちゃんのような、そんな親しみやすさを感じるのだ。
 口調も態度も、私達に近いもののように感じられる。堅苦しいのが好きじゃないというのは、本当のことなのだろう。

 現に今も、私達のことなんて何も気にせず、くちばしで背中の羽をつついていた。
 私達に気を遣わせないようにするためというよりも、素で周りなんて気にせず自由に振る舞っているような様子だ。

 ちなみに彼の背中の羽は炎に包まれているので、端から見れば、炎の中に自ら顔を突っ込む奇妙な鳥にしか見えない。

 そんな様子に、カイルさんたちの緊張感も削がれたのか、三人とも立ち上がっていつもと変わらない様子に戻っていた。



「ところで……そこの二人が王の加護を得ているのは分かるんだが、茶髪のお前とミカンの間にある妙なつながりはなんだ?」

 そこの二人というのは、カイルさんとライくん。
 カイルさんは火の精霊王。ライくんは土の精霊王の加護を得ている。
 神獣には、それがひと目で分かるらしい。……何が見えているのだろう?

 そして、ライくんとミカンの間にある妙なつながりというのは……?

「それは、私とライが獣魔契約をしているからですわね」

 なんでもない、世間話のように言ったミカンの言葉に、火の神獣は目を見開いて固まった。

「じゅ、従魔契約……だとっ?!」

 ここまでわかりやすい驚愕の表情を浮かべる鳥を見たことはあるだろうか。
 鳥って表情筋あったのか……と錯覚してしまいそうになるほど、その顔は驚きに満ちていた。

 そんな神獣とは反対に『そうだよね、そうなるよね』と私は密かに安堵していた。
 ミカンがなんでもないことのように従魔契約を結ぶと言った時の困惑は忘れられない。
 神獣としてのプライドは無いのか!と叫びたくなったほどだ。
 まあ、あの時は驚きを通り越して逆に冷静になれていたのだが。……いや、あれを冷静と言って良いのだろうか。どちらかと言うと、思考を放棄していたように思う。
 
 後から戦慄したものだ。
 神獣が、人間を主として本当にいいのだろうか、と。
 神獣の主は、本来、精霊王なのだ。
 人間とは、比べ物にならないほどの存在なのだ。精霊王も、神獣自身も。
 それが、人間の下につくなど……。

 やはり、神獣が従魔契約など、普通は考えられないことなのだろう、と火の神獣の反応に安堵した。
 よかった、私の考えていたことは間違ってなかった、と。
 
 しかし、その考えは再び覆されることとなった。
 彼の驚愕の表情は、私が思っていたものとはどうやら違ったらしいのだ。

「そんな面白そうなこと、俺様もやるに決まっている!!」
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