9 / 20
ティータイム
3杯目
しおりを挟むツボーネ様が遊びに来た日から3日。
椿の様子が明らかにおかしい。
普段はしないような些細なミスを仕事でするし、今日に至っては
「…何か焦げ臭い?」
「…あっ、しまった!魚を焼いてたんだった!!」
…この部屋が火事になる事はないが、魚は炭化して食べられなくなっていた。
「…ゴメン、ルールー。」
こんなにしおらしい椿は200年間の暮らしでも、今の暮らしでも初めてだ。
「…何があったのさ、椿?」
流石に心配になる。
椿は僕に話すかしばらく悩んで、ようやく重い口を開けた。
ーー彼女が言うには、彼女のひ孫が事故に遭い意識不明の重体らしい。
あちらの世界の椿が条件付きで手助けして、何とかこの世に繋ぎ止めているそうな。
僕は神だから家族なんていないけれど、大切な人がそんな状態だったら居ても立っても居られない気持ちは分かる。
「…椿に上司として命令。
しばらくの間ツボーネ様の管轄する世界に出張に行ってきて。」
「ルールー、それは公私混同だろう!?」
彼女に僕の意図が伝わったようだ。
「今の椿じゃ使い物にならないから言ってんの。
ほら、早く行った行った!」
僕は手でシッシッとする。
「…ありがとう、ルールー!
必ず戻ってくるから、行ってきます!」
そうして椿はツボーネ様の世界に旅立った。
ー僕はまたしばらくの間、一人暮らしに戻った。
戻ったはずなのに…
「…ツボーネ様。」
ツボーネ様が毎日、僕の元に来ては1時間程過ごすようになった。
「ん、なぁにルールー?」
「何じゃありませんよ、毎日毎日。」
僕はあからさまにハァと溜め息を吐く。
「いや、椿ちゃんがいなくてルールーが寂しがってないかなって。」
「椿の方が大変なのに落ち込んでられませんよ。
ひ孫の容態はどうなんですか?」
ツボーネ様は真面目な顔になって
「椿ちゃんもできる限りはしてるんだけど、なかなか上手くいかないんだよ。」
椿があちらに行って今日で1週間だ。
椿のお葬式で一度会った、ひ孫を思い出す。
雰囲気は椿そっくりの彼女の無事を祈った。
その瞬間だった。
「ルールー、ただいまーっ!
あっ、ツボーネ様もこちらでしたか!
その節はありがとうございました、お陰様でひ孫は意識を取り戻しました。
本当にありがとうございます!!」
椿は僕達に深くお辞儀をして明るく礼を告げる。
「…そっか、良かっ…」
「良かったねー、椿ちゃん!!」
僕の言葉にツボーネ様は被せて、彼女に抱きついた。
「本当にお世話になりました!
…ルールーも快く送り出してくれて、ありがとな!」
久しぶりの椿の心からの笑顔だ。
「ちょうど良かった、お土産があるんです。
ツボーネ様もぜひご一緒に!」
そう言って彼女は僕達の大好きな抹茶スイーツを山程テーブルにセットした。
「みんなでティータイムにしましょう!」
ーこうして、10日振りに和やかで楽しいティータイムが始まった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
完 あの、なんのことでしょうか。
水鳥楓椛
恋愛
私、シェリル・ラ・マルゴットはとっても胃が弱わく、前世共々ストレスに対する耐性が壊滅的。
よって、三大公爵家唯一の息女でありながら、王太子の婚約者から外されていた。
それなのに………、
「シェリル・ラ・マルゴット!卑しく僕に噛み付く悪女め!!今この瞬間を以て、貴様との婚約を破棄しゅるっ!!」
王立学園の卒業パーティー、赤の他人、否、仕えるべき未来の主君、王太子アルゴノート・フォン・メッテルリヒは壁際で従者と共にお花になっていた私を舞台の中央に無理矢理連れてた挙句、誤り満載の言葉遣いかつ最後の最後で舌を噛むというなんとも残念な婚約破棄を叩きつけてきた。
「あの………、なんのことでしょうか?」
あまりにも素っ頓狂なことを叫ぶ幼馴染に素直にびっくりしながら、私は斜め後ろに控える従者に声をかける。
「私、彼と婚約していたの?」
私の疑問に、従者は首を横に振った。
(うぅー、胃がいたい)
前世から胃が弱い私は、精神年齢3歳の幼馴染を必死に諭す。
(だって私、王妃にはゼッタイになりたくないもの)
夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる