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皐月の溜め息
一目惚れ
しおりを挟む俺、加藤 皐月は自分の事をそんなに惚れっぽい人間だとは思っていなかった。
友達や部活仲間達が、あの娘可愛いだの、あっちの娘の方が好みだの言っていても、いまいちピンと来なかった。
なのに、あの日。
ー未だに夢みたいで自分自身もあまり実感がないが、俺は高校3年生の春、練習試合に向かう途中で勇者として異世界に召喚された。
そこで、俺は一目惚れをする。
俺が勇者として倒さなければならない『魔王』に。
魔王ー真田 椿さんは俺が今まで見てきたどの女性よりも美しい女性だった。
なのに俺は椿さんを殺してしまった、いや正確に言うなら死なせてしまった。
その時は分からなかったけれど、椿さんは異世界から解放されることを選んだのだ。
俺も結局、自分を召喚した奴と揉めて魔王になってしまった。
ーそして同時に失恋した。
魔王の玉座に触れた瞬間、椿さんの記憶が頭に流れ込んできて、彼女は大好きな幼馴染の元に帰る為に頑張っていた事を知った。
知らず大きな溜め息を吐く。
時が流れて俺は元の世界に帰れたけれど、同じく戻った椿さんに会う事はなかった。
けれど向こうの世界で勇者と魔王をやっていたせいか、身体能力が驚異的に上がっていた。
おかげで甲子園で優勝できて、夢だったプロ野球選手にもなれた。
椿さんの事も異世界召喚の事も思い出す事は少なくなってきている。
ーそれは突然だった。
年の離れた8才の弟が交通事故に遭ったのだ。
いや違う。
弟が道路に飛び出して車に撥ねられかけた所を、通りすがりの女子高生に助けてもらったのだ。
おかげで弟は軽傷で済んだが、女子高生は意識不明の重体だ。
あまりの申し訳なさに母親と弟を連れて急いで謝罪に病院に向かったが
「…今はとても謝罪を受けられる心境じゃありませんので…」
彼女の父親が拳を震わせて、そう言葉を絞り出した。
隣で彼女の母親は何も言えずに泣き腫らしている。
…俺も母親も弟も何も言えずに深くお辞儀をする以外にできなかった。
俺はそれから練習の合間に、試合の合間に休日に毎日病院に向かい、家族以外は面会謝絶の彼女の容態を確認する。
彼女がようやく意識を取り戻したのは、事故から10日経ってからだった。
そして、お見舞いに行けたのは更に3日経ってからだった。
謝罪をして彼女の顔を見て息を呑む。
凛とした雰囲気と意志の強い瞳は、俺の初恋の人を嫌でも思い出させた。
顔立ちだけなら彼女の従姉の方が良く似ている。
けれど俺が強烈に惹かれてしまったのは、被害者である宇佐木 楓さんの方だった。
…俺は加害者側の家族で彼女は被害者だ。
前途多難になるであろう2度目の恋に、大きく溜め息を吐いた。
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