秘密の物語 番外編集

水田 みる

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椿の魔王時代

君は食糧!?

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「…お腹空いた…」


魔王になったばかりのこの時の私は、自分の力をまだよく分かっていなかった。

魔法といえば、攻撃魔法か防御や結界の補助魔法の2種類しか使えないと思っていた。

魔王城にはあの真っ黒玉座以外に何もなく、不老不死とはいえ餓死しそうだ。

城の外も鬱蒼とした森・森・森で探せば木の実ぐらいならあるだろうが、空腹で探す気力がない。

だからだろうか、肉が食べたくて仕方なかった。

しかも故郷で大好きだった…


「…豚の生姜焼き…」


私がそう呟いた瞬間だった。

ポンっと可愛い音と光と共に、私の目の前にマイクロ豚が現れた…


「えっ…豚!?

これ豚は豚でも家畜じゃなくてペット用の豚だよな!?」

「ブキッ!」


豚は返事をしてくれたが、生憎豚語は私には分からない。

それにいくらお腹が空いたとはいえ、生きている豚を捌く度胸とサバイバル技術は持ち合わせていない。

豚の隣を見ると白いお皿の上にキャベツが丸ごと載っている。

そしてチューブの生姜・醤油・料理酒・みりんまでお盆の上に揃っていた。


「…付け合わせのキャベツまで。

雑なミールキットかよ。」

「ブッ、ブッ、ブッ!」


自分が食糧として扱われている事に気付いていないのか、豚は楽しそうだ。

とりあえず丸ごとキャベツを剣で半分に切って、その半分を豚が食べやすいサイズに切って豚に与えた。


「ブッ、ブッ、ブキッ!」


豚は嬉しそうに食べている。

残りの半分は私が食べやすいサイズに切って、醤油をかけて食べた。

コイツどうしよう?

食べるわけにはいかないし、瘴気で魔物がウヨウヨしている城外に出したらすぐに死にそうだ。


「…仕方ない、ペットとして室内飼いするか。

名前はそうだなぁ…『ポーク』にするか。」


キャベツぐらいではまだまだ空腹だったので、ついその名前にしてしまった。


「ありがとうございますー、ご主人様ー!!」


なんと豚もといポークが喋った!!


「えっ、はいっ!?何で喋れんの?」

「ご主人様がワタクシに名を与えてくれたからですよー!

精一杯ご主人様にお仕えします!」


ポークは何と二本足で立って、自分の手(足?)で胸をドンと叩く。

こうまでされてしまうと、完全にこの豚を食糧にする事を諦めた。


ーーポークは私の魔力で私が死なない限り、不老不死になってしまった。

そして500年間、私の孤独を支えてくれる事をこの時の私はまだ知らない。


私の空腹問題はポークから


「しっかりと食べ物のイメージをしてから魔法を放つと、そのイメージのまま出てきますよ!」


教わり解決した。









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