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パールの章
日記帳②
しおりを挟むアレキサンダーの事情とは『皇位継承権』である。
ジュエリーラ帝国では兄弟間の争いを避ける為に、男でも女でも関係なく長子が皇帝・女帝になる。
そして皇太子に子が2人以上生まれるまで、他の兄弟は結婚はできても子を成す事は許されないのだ。
現・皇太子はパールと年が近いので、当時は生まれてさえいなかった。
その状況で皇弟のアレキサンダーがメイドとはいえ孕ませた事がバレたら、皇帝から謀反と見なされる可能性は大だ。
実際は下半身がだらしないだけだが、粛清されるだろう。
故にアレキサンダーは事が公になる前にセレスを皇宮から追放したのだった。
セレスは追放された後、生まれ故郷のラナラナ街で女子を出産する。
ーそれがパールだった。
そして女神ジュエルの祝福を受けていた。
セレスは女神に感謝してパールと名付けたのだ。
彼女は感謝と同時に恐怖も抱いた。
パールが只の女の子なら父親であるアレキサンダーは気にも掛けないだろう。
だが、どこかで娘が祝福者だと知ったら?
身分と権力を行使してパールを囲うかもしれない。
その為にセレスはこの日記帳に真実を書き記し、もしもの日が来たら娘のパールに報せようと思ったのだ。
「…お母さん…」
日記を読み終わり、パールは目の前が真っ暗になるような気持ちで呟く。
日記帳にはパールの出自が書かれた後は、セレスの日々が綴られていた。
愛してもいない男の子供なのに、日記にはパールに対する愛情で溢れていたのだ。
パールの両眼に涙が溜まり、零れ落ちそうになる。
彼女は右手でゴシゴシと拭い、カノコから受け取った封筒を出した。
ーどうして、お母さんは殺されたのか?
パールは怒りで震える手でカノコのメモを読み始めた。
パールが薬草の買い付けにドートン街に出発した次の日。
突然、セレスの薬屋に数人の騎士達と一緒に一目で貴族と分かる男がやって来た。
ー皇弟・アレキサンダーだ。
およそ17年ぶりの再会だった。
セレスは驚きながらもきちんと挨拶をする。
「お久しぶりでございます、皇弟殿下。」
セレスの言葉に周囲は驚き騒ぎになる。
騒ぎにしたくなかったアレキサンダーは
「久しいな、セレス。
単刀直入に聞く、俺の娘はどこだ?」
人が集まりだす前に本題を切り出した。
セレスは少しだけ顔を青ざめながらも
「…私に娘はいても殿下にはいらっしゃらないでしょう?」
キッパリと言い返す。
セレスの言葉にアレキサンダーはギリっと口惜しげに歯ぎしりをした。
「…隠し立てするなら只では置かんぞ。」
「殿下に娘は絶対に渡しません!」
セレスは凛と言い放った。
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