誕生石物語

水田 みる

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パールの章

日記帳①

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 カノコは最後に顔を隠せるフード付きの外套をパールに差し出した。


「完全に目元が隠れる訳じゃないけど、少しはマシな筈だよ。

…あと、陸路はマズイね。

海路で帝都は出来るだけ避けて逃げるんだよ!

ー気を付けてお行き。」

「…カノコさん、色々とありがとうございます!

カノコさんも、どうか気を付けて…」


パールはペコリとカノコに一礼し、フードを目深に被って港に向かった。



ー早歩きで歩きながらパールは考える。

キンキッキ領には幾つか港がある。

大きな港町もあるし、船を出す為の港として存在する物もある。

自分が追われているなら港町は避けた方が良さそうだ。

小さな港ならラナラナ街から、徒歩で半月程の距離に『キーキー港』があった。

本来なら乗り合い馬車で行きたいが、検問をしていたらアウトである。

パールは仕方なく徒歩で目立たない様に、キーキー港に向かった。



ーそうして時折り野宿も混じえながらの半月、彼女は漸くキーキー港に到着した。

港は特に緊張感は漂っておらず、追っ手はここには居ないとパールは予測する。

果たして港は長閑で


「おーい、嬢ちゃん旅人かい?

あと少しで東方に行く船が出るけど乗るかい?」


船乗りらしき若い男が声を掛けてきた。

帝都を越えて東方に向かうなら、パールにとって文字通り『渡りに船』である。


「乗ります、乗ります!待って下さい!」


彼女は慌ててお金を払い、定員百人の船に乗り込んだ。

キーキー港から東方のトーカン領に向かう人は少ないようで、先程の船乗りの男が


「このまま人が少ないままなら、嬢ちゃん一番狭い個室で良ければ使っていいぞ!」


親切に申し出た。


「ありがとうございます!

お言葉に甘えて使わせてもらいます!」


パールは男の申し出を有難く受け入れ個室に入った。

静かに鍵を掛けた後、彼女は首元の日記帳の鍵を手にする。

そして手荷物から母親の日記帳を取り出して鍵を差した。

鍵はカチリとすんなり回る。

パールはフーッと大きく息を吐き出して、最初のページから目を通した。



ーパールの母・セレスは生まれはラナラナ街だが、パールを生む前は皇弟・アレキサンダーの皇宮でメイドとして働いていた。

そんな中アレキサンダーは見目美しいセレスに対して、無理矢理に関係を持ったらしい。

セレスはメイドで相手は皇弟。

嫌でも抵抗できなかったのだろう。


ーそうしてセレスは身籠ってしまった。

セレスの妊娠を知ったアレキサンダーは、ほぼ身一つで皇宮から追い出したのだ。

余りにも酷い仕打ちだがアレキサンダーにも事情があった。










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