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ターコイズの章
ハルの矜持
しおりを挟む誰の目にも明らかに、ヒグは手当をしても死ぬであろう大怪我だ。
左の大腿を深く喰い千切られ出血が続いている。
「ヒグ!しっかりせぇ!!」
「あなたーっ!!」
ホッキとヒグの妻、ズワイがヒグに縋り付いて泣き叫んでいた。
そこに割って入ったのは
「どいて下さい。」
ハルの静かな声だった。
「貴様っ…!!」
ハルは胸倉を掴もうとしたホッキをするりと避けて、ヒグの近くに跪き両手をかざす。
「回復魔法、全開!!」
ハルが魔法を放った瞬間、傷は一瞬で塞がり蒼白だったヒグの顔色に血色が戻った。
ヒグの意識はまだ戻っていないが、一安心だと誰もが確信する。
ホッキがハルに声を掛けようとした刹那、突風が吹いた。
ハルの前髪は突風で巻き上げられ、目元が露わになる。
ー少し切れ長の綺麗な黒眼だった。
「…女神ジュエルの『祝福者』?」
ホッキの呟き声を拾ったハルは急いで前髪で目を隠す。
ホッキは
「祝福者なのに隠しておるというのは、訳アリなんじゃろうが…
先ずはヒグを助けてくれて、ありがとう。
礼を言うぞ。
何か事情があって儂が力になれるなら協力する。」
全身に力が入っているハルにそう声を掛けた。
ハルはホッキの本心からの言葉に、少し力を抜いた。
その後、ホッキとハルはホッキの家に移動してハルの話を聞く。
「私は回復魔法の祝福を受けた祝福者です。
事情は明かせませんが私が祝福者という理由で、さる高貴な身分の方が私を探し回ってるんです。
…でも、私はその方に捕まりたくありません。
ですから、同じ場所には長くは居座らず旅をしてるんです。」
「回復魔法を使えるのに薬師としても立派なもんじゃが、何故わざわざ薬を作るんじゃ?」
「回復魔法は魔法が使えなくなったらお終いですが、薬は調剤レシピがあれば誰でも作れます。
私は回復魔法は最後の手段として使いたいんです。」
ホッキは若いのに遥か先を見据えているハルに感心した。
「この村に宿はないが身を隠すのには、うってつけの家があるぞ。
条件としては丁寧に使ってくれればええ。」
こうしてホッキはハルにタークの家を貸し出したのだった。
ーそして今日、タークの子孫達が派手にドラゴン退治をした挙句、瀕死の重傷を負いハルが回復魔法を使う羽目になってしまったのだ。
イズンを治療した後、ハルはホッキに別れと礼を告げに来た。
ハルはドラゴン退治の経緯を話し
「しばらくはドサンコ村がドラゴン退治をしたという理由で、騒がしくなるかもしれません。
私は目立つ前に今からここを離れます。
1年間、怪しい私を匿って下さりありがとうございました。
皆様、どうぞお元気で。
…これは私からの気持ちです。」
ホッキに色々な薬の調合のレシピのノートを手渡した。
ホッキも
「こちらこそ1年間、村人達の病気や怪我の薬を与えてくれてありがとな。
これは儂からの感謝の気持ちじゃ。」
ハルに箱入りでブラックパールのピアスを差し出した。
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