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ターコイズの章
ターク伝④
しおりを挟む「…俺の死後に託す…?」
タークはララの言っている意味を捉えかねて、オウム返しした。
ララは頷き
「そう、私達の孫やひ孫の代に。
女神ジュエル様にタークと同じ祝福を授けてもらえる様に、お祈りするの。
ー今、この瞬間から死んだ後もずっと。」
途方もない提案をする。
「俺はそんなに信心深くなかったからなぁ。
でも、やれる事は全部やるか!」
タークもそれに対して苦笑いで同意した。
ーそれから2人は毎日毎日、雨の日も雪の日も欠かさず教会で祈りを捧げた。
しかし5年経っても、女神からはうんともすんともない。
それでも2人は諦めなかった。
と、ある吹雪の日も2人で祈っていた。
お祈りも終わり、2人が腰を上げようとした瞬間
『ーその願いは聞き入れられぬ。』
神々しい光と共に、鈴を転がすような声が静かに響く。
光がボール大の球体になっていて姿は見えないが、2人は確信した。
『女神ジュエルが降臨した』と。
『そなた達の必死な願いも分かるが、祝福を誰に与えるかは妾の権限。
子孫に祝福をという願いは越権行為であるぞ。』
女神は怒りではなく諭す様に、2人に言い聞かせる。
そんな事は百も承知だったタークは
「女神様、俺…いや私の寿命はあと何年残っていますか?」
『そなたは祝福を授けたゆえ、百までは生きられる。』
「ーならば、私の残りの寿命を引き換えにできないでしょうか?」
女神相手に取引を持ちかけた。
だが、女神はそれでも無言を貫く。
そして、ララも声を上げた。
「女神様!私の寿命もお使い下さいませ!
夫ひとりに背負わせません!!」
「ララ!?」
取引にララまで巻き込むつもりはなかったタークは焦る。
『ーそなた達の覚悟、確かに受け取った。
今申した条件ならば、そなた達の願いを叶えよう。』
女神との取引は成立したが、タークは悲愴な顔でララの肩を掴んだ。
「どうしてララまで!?
死ぬのは俺一人で良かったのに…!」
「…私が嫌なんです。
ターク一人が犠牲になるなんて…。
貴方と一緒にいけるなら、私はどこまでも付いていきます!」
ララは揺るがない瞳で己の意志を伝えた。
タークはもう反対できなかった。
『ーそなた達も準備があろう。
一旦、戻ってまた教会に来るまでの時間は与えよう。』
帰り道2人は無言で戻り、自宅で各々支度を済ませる。
タークは己のターコイズのブレスレットに魔力を込めて、詳細を省いて子孫に託す遺書と共にテーブルに置いた。
「ターク、準備は出来た?」
ララがまるで旅行の準備かの様に尋ねる。
「あぁ、俺はいつでも出発できる…。」
「ねぇターク、貴方は怒るかもしれないけど、私は死ぬ瞬間まで一緒にいられて幸せよ。
今まで本当にありがとう、愛してるわ。」
「…ララッ!俺も…俺の方こそありがとう!
君の事を世界一愛してる…!」
タークとララは抱き合いながら、互いに愛を伝え合った。
ーそして2人は教会に戻り、苦しむ事なく一瞬で天に召されたのだった。
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