誕生石物語

水田 みる

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ターコイズの章

英雄・ターク

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 2人だけのささやかな誕生祝いの宴が終わった翌朝ー


「…ハックシュン!」


イズンは寒さで目覚めた。


「うー、やっぱり帝都はメンソーレ村よりも大分冷えるなぁ…」


上着を羽織りながら独りごつ。

イズンの故郷メンソーレ村は南方の最南端だ。

冬でも上着はいらず薄手の長袖1枚で過ごせる。

対して帝都ジューラは真冬には雪が降るぐらいには寒くなる。


ーそして、今は12月だ。

雪はまだ降りだしていないが、冷え込みはきつい。

イズンは震えながら朝の身支度を整えた。

朝食を一緒に食べようかと隣の部屋にいるディズの部屋に行く為、ドアを開ける。


「「あっ!」」


何とディズも同じタイミングだった。


「おはよう、ディズ、下で朝ごはん食べようぜ!」

「おはよう、イズン、僕もうお腹ペコペコ。」


2人揃って宿屋の下の階の食堂に向かう。


「おはようございます、お客様!」


食堂では既に宿泊客らしき人達が、まばらに食事をとっていた。

若い青年が1人で給仕をして、青年の父親らしき男性が1人で料理を作っている。


「「おはようございます!」」


青年に挨拶を返して2人は空いている席に着いた。


「朝定食を2つ下さい。」


ディズが青年に注文するが、青年はイズンを凝視している。


「…あの、何か?」


イズンも居た堪れなくなり青年に尋ねた。

青年も自分が不躾に彼女を見ていた事に気付き


「す、すいません!

お客様が『英雄・ターク様』と同じ祝福者なもんで、つい!

し、失礼しました!!」


ペコペコと頭を下げて謝罪する。

しかし、イズンの耳は謝罪をスルーした。


「…『英雄・ターク』?

『ターク』って、ひいじーさんと一緒の名前だ…」


ボソリと呟いたが、その声をディズと青年の耳は拾う。


「イズンのひいお祖父さん!?」

「えええええーーーっっっ!!!」


ディズの驚きの声を青年の悲鳴がかき消した。

青年の悲鳴で他の客だけでなく、料理人の男も何事かと3人を見る。


「おいっ、サーモ!!

何叫んでやがる!!お客様に迷惑だろうがっっ!!」


料理人の男は青年を遥かに上回る声量で、青年をどやしつけた。

どやしつけられたサーモという青年は、半泣きになりながら


「だだだだ、だって、この人ターク様のひ孫だって…!」


イズンを指差す。

指を差されたイズンは不快感で、僅かに眉間に力が入った。


「バカ野郎!!

大事なお客様を指差すんじゃねぇっっ!!」


更に怒号が飛んで調理場から料理人が、すっ飛んでくる。


「ウチのバカ息子が申し訳ありやせん!!!」


父親は大きい手でサーモの頭を掴んで、無理矢理下げさせ自分も頭を下げた。










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