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それぞれのその後①
しおりを挟む我は閻魔帳を閉じて正面を見た。
目の前には百回死んで発狂した女が奇声を発しながら横たわっている。
我は溜め息を一つ吐いて袂から丸薬を取り出す。
その名も『地獄印の気付薬』。
どんなに正気を失った者でも、これを飲めば一瞬で正気を取り戻せる代物だ。
我は女の口を無理矢理にこじ開けて薬を飲ませた。
「…あひゃっ…あれっ、アタシ…?」
「正気を取り戻したようじゃな。
やっと百回死んだか、待ちくたびれたぞ。」
女は呆然とした顔から喜びで一杯になった顔になる。
我も口の端をゆるりと上げた。
女は我の表情を見てビクついている。
「死にきった事じゃし話してやろうか。
貴様の両親のその後と佐竹 ナミカの母親のその後を。」
「…アタシが死んだ後ってことよね?」
「そうじゃ、あぁ口で説明するより見た方が早いかの。」
我はそう言って妖術で下界の様子が見られるテレビの様な物を出した。
ーそこには女が死んで数日後の宇多丸家が映っている。
「…パパ…ママ…」
それに加えて役所のお偉いさんが2人その場で土下座していた。
2人は謝罪の後に慰謝料として8千万円を支払う事で、裁判を回避したようだ。
女の事故死はニュースやワイドショーでも取り上げられていたので、役所側も早く幕引きをしたいのだろう。
8千万円が支払われたその日、宇多丸 サヤカは家計の通帳からきっちり半分引き落として自分名義の口座に移す。
そして、その足で役所に離婚届を提出して宇多丸 サヤカから石田 サヤカに戻った。
「ママ!?いつの間に離婚届なんて…」
「貴様のせいじゃよ。」
「何ですって!?」
女はもう死ぬ事はないと思っているのか威勢が良い。
「貴様が保育園で幼女を傷付けたあの日、貴様を庇った父親に愛想を尽かした母親が離婚届を書かせたんじゃよ。」
自分が原因とは思っていなかった女の目が見開かれた。
テレビはサヤカの続きを映している。
サヤカは携帯で電話を掛けていた。
「もしもし、今お時間は大丈夫ですか?
ーはい、離婚届をたった今出してきました。
ーえぇ、石田 サヤカに戻ったんです。
清々しました。
ーウフフ、ありがとうございます。
今まで待って頂いてありがとうございました、佐竹さん。
元夫を訴える準備は万全ですか?
ーそれなら安心しました。
裁判で必要なら証言台に立ちますので、遠慮なく仰って下さいね。
では私は今から異動先の職場の県に向かいます。
ーありがとうございます、佐竹さんもお身体にはお気を付けて。
では失礼します。」
石田 サヤカは携帯を手提げバッグにしまった後、スーツケースを転がしながらここから飛行機で2時間の新天地へと向かった。
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