１０秒の運命ー閻魔帳ー

両親③

　夫に担任から教わった病院の名を告げて、娘と共に病院に向かう。

病院に着くと夫は既に入口で待っていて合流した。

マキを探すために辺りを見回すと、待合室に座っている彼女を見つけた。

両親も一緒に座っていて母親同士の目が合う。

一瞬でマキの母親の目に憎しみが灯った。


「この度は娘が本当に申し訳ありませんでした！」


急いで駆け寄り病院という場所柄、迷惑にならない声量で母親は精一杯頭を下げる。

その後にしゃがんでマキと目線を合わせて


「マキちゃんも本当にごめんね！

ほっぺたの怪我ごめんね、痛かったね…」


マキの小さい頬いっぱいに大きな絆創膏が貼られており、怪我の酷さを物語っていた。

呑気な夫も流石に事態の酷さに気付いたのか、謝って頭を下げる。


「ほらっ、お前も謝れ！」


夫はそう言って娘の頭を押さえつけて半ば無理やり謝らせようとしていた。


「…お宅のお嬢さんは…」


娘が謝るより早くマキの母親が口を開く。


「うちのマキに何か恨みでもあるんですか？

今は絆創膏で傷は見えてませんけど、完全には消えないとお医者さんには言われました。

指が目に入らなかったのは不幸中の幸いだって。

万が一、入っていたら失明してた可能性もあったって。」


静かに淡々とした口調が却って、マキの母親の怒りを際立たせている。


「…謝罪も治療費もいりません。

その代わり、マキの前に２度と姿を見せないで！」


マキの父親も同じように憎々しげに見つめ


「姿を見るのも不愉快です。

お引き取り下さい。」


そう吐き捨てた。

両親はもう一度だけ


「「申し訳ありませんでした。」」


と、頭を下げて３人で病院を後にした。

そして病院を出てからすぐに娘は


「あー、お腹空いたっ！

マキちゃんてば、あんな大きな絆創膏して大げさ！」


あっけらかんと言った。

次の瞬間

バッチィィィンと母親が娘にビンタをしていた。

全力だったので娘は軽く横に飛ばされる。

娘は痛みと母親からの初めての暴力に


「ウワァァァァン！！！」


叩かれた左頬を抑えて激しく泣き出した。


「子供相手に何やってるんだ！！」


夫は母親を非難する。


「…何って躾よ。

言っても言っても人の痛みが分からないんだったら、体で分からせるしかないでしょ。」


母親はそう言い捨てて、夫も娘も無視して帰宅した。