魔王の秘密

水田 みる

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友達

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 メイちゃんは大広間にいなかったから、騒ぎを知らないのだろう。

ただの火事と思っているかもしれない。


「ツバキ様、お怪我はございませんか!?」


私に駆け寄って、体のあちこちを調べてくれた。

メイちゃんは心からこの火事の張本人を心配してくれている。


「…メイちゃん、時間がないから手短に言う。

この火事は私が魔法で点けたんだ。

あのバカ王子に裏切られて…もう我慢できなかった。」


ポタリと私の目から涙が溢れる。

元の世界に戻るんだという目標の為に、魔法や剣の修行も頑張った挙句のこの仕打ち。

絶望は勿論だが、悔しくて堪らなかった。

一度涙が出てしまったら、次から次へとあふれ出してしまう。

そんな私をメイちゃんは抱きしめてくれた。

 
「ツバキ様は理不尽な状況で、私達の為に世界を救って下さいました。

誰もあなたを責める事はできません!」


メイちゃんも泣きながら、私の為に怒ってくれた。

メイちゃんがいてくれて良かった。

唾棄したい人間ばかりの中で、唯一心を許せた人。

メイちゃんだけは死なせる訳にはいかない。

抱きしめてくれているメイちゃんを優しく剥がす。


「…メイちゃん、よく聞いて。

私が使ってた客間のベッドの下。

あそこに一回だけ使える、城外に転移できる魔法をかけてるんだ。

メイちゃんは今からそれを使って、ここから逃げて。」


私がまだ修行中、夜な夜な夜這いにくる変態王子対策に結界魔法だけじゃ不安を感じていた頃。

万が一の事を考えて、ベッドの下に件の転移魔法を準備していたのだ。

結局、結界魔法で十分だったから使う機会は今の今までなかったけれど。


「あぁ!それでツバキ様はベッドの下はお掃除しなくていいと、仰ってたんですね!

違います、そうじゃなくて私が使ってしまったらツバキ様はどう逃げるんですか?」


この土壇場でも変わらないメイちゃんの物言いに、つい笑ってしまう。


「私は大丈夫。

やるべき事をやったら、転移魔法をその場で使って逃げるから。

さぁ、もう時間がない!

メイちゃんは早く客間に逃げて!

…メイちゃん、今までありがとう。

大好きだよ。」


私の言葉を聞いてメイちゃんは一つ深く深くお辞儀をする。


「私もツバキ様が大好きです!」


メイちゃんはその言葉を残して、客間の中に全速力で駆け込んでいく。

私はそれを見届けてから図書館に向かった。






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