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☆39.5.娼婦の贅沢(3)
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「俺、ほんとに初めてだから、だからその、
……優しくして欲しい……」
馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、どうやら本当に馬鹿だったらしい。
シュゼーは自分の下になっているAを見下ろして、胸が切なくなった。
「そんなこと、いちいち言うな」
分かってるから、と胸元で握っている両手を解してやる。そうすると白くなった指にスっと血の気が通った。
まったく、どれだけ固く握りしめていたんだか。
白いシーツに散った黒髪は、青や紫の僅かな干渉色を浮かべて艶やかに潤っている。小動物的な雰囲気の大きな瞳も同じ色だ。
「……ぅん、」
唇を重ねると、Aが鼻にかかった甘い声を上げる。今時あんなセリフを持ち出すだけって控えめな声だ。吸い上げた舌は、面積が小さいわりにふっくらとした質感だった。軽く歯を立てると柔らかく押し返してくる。
両腕がシュゼーの首の後ろに回った。
薄い皮膚から張り出した骨がシュゼーに押し付けられる。鎖骨の描く弧も、ほとんど脂肪を蓄えていない胸も、肋骨の凹凸、針のように尖った腰骨。マットレス無しのパイプベッドにうつ伏せになったような具合の悪さだ。
気の毒になるほど貧相だったが、AはAで似たようなことを思っていたらしい。
「……、」
瞳を潤ませながらも、眉をハの字に下げている。キスを解き、唾液の糸をひと舐めしてから、シュゼーの首の後ろのサーフェイスバーベルを繰り返し撫でまわす。
そういえばさっきも、耳のピアスを数えるような仕草をしていた。
当たり前と言えば当たり前だった。人体に異物が埋め込まれているのだ。骨がどうこうというレベルではない。
「……ここも」
不始末を見つけられた気分で、シュゼーはAの片手を自分の首筋に導いた。Aはボディピアスをほくろと思っていたらしい。体温を吸ったピアスの輪郭を何度も辿る。
Aの指先はかさついていて、ピアスで敏感になっている皮膚に引っ掛かるたびにシュゼーの性感を煽った。それはシュゼーが腰の部分に入れたばかりのタトゥーに対しても同じだった。
互いに不自然なほど長く見つめ合っていたが、意識しているのは常に触れあっている部分だったし、これより先の行為のことだった。
けれど、シュゼーはまだ衝動的になるわけにはいかなかった。自分のトラウザーズの前をくつろげると、Aは誘導されるまでもなくそこに手を滑り込ませた。
「……っ、」
他人の手で触られるのは久しぶりで、シュゼーはわずかに眉をひそめる。
ある程度の予想はしていたのだろう。
ペニスを指の股で辿ると、先端で引っかかるものにAは小さく反応した。
アンパラング・ピアッシング。亀頭の部分に左右にバーベルピアスを通してあるのだ。挿入される側にはカリの部分が一段増えた形になる。見た目の異様さも相まって、わざわざこれを好む人間は稀だ。
玄人を悦ばせるためにしたのではないし、さらに言うなら自傷に近かった。
Aは薄っすら唇を開いた。
シュゼーは赤みを増したそこから、セーフワードである「ドクター」が出てくることを疑わなかったし、むしろ自分からストップをかけなかったのを不誠実だとすら思っていた。それでも言い出せなかったのは、Aなら受け入れてくれるのではないかという淡い期待に縋りたかったからだ。
Aは切なげに眼を細めた。細腰をくねらせる。スーっと足先がシーツの上を滑る音が、熱を帯び、次第に弾んでいく吐息の合間に聞こえた。
「…………」
無言だったが、これ以上ないほどの欲情が伝わってくる。
お互いに茶化し合って野良猫のようにじゃれ合えば、ただの気まぐれで朝を迎えることができるのに、そうできない切実さがあった。
こんな相手は初めてだった。
Aは驚くほど敏感で、どこを触っても反応を返してきた。
夜の住人らしく、なまっちろい肌は興奮で淡く色づいている。皮膚が薄いので、全身のいたるところに鬱血の痕を残したくなる。
「っ、……ぅ、……っ、あっ!」
両脚を開かされているAが、ビクっと上半身を反らせた。
足許にいるシュゼーからは、細い首筋と胸がせり上がったように見える。少し前まで色が薄く柔らかだった乳首も、今はぷっくりと存在感を示している。
さっきまで「女じゃないのに」とすすり泣いていたせいか、Aは片手で顔を隠し、もう片方ではシーツを固く握りしめている。
そうして一欠けらの喘ぎも零さないよう、身を固くしては失敗し続けていた。自分の反応ひとつで、減点が嵩んでいくとでも思い込んでいるらしい。
「んっ、」
Aのペニスを扱いてやりながら、時間をかけてほぐしたアナルに指を沈める。
中を傷つけないようにゆっくりと指の根本まで押し進めては、第一関節の中ほどまで戻す。その度にローションと先走りが入り混じったものが、くぷくぷと音を発てた。
当たり前だがAの中は熱かった。アナルの淵はきゅうっと締め付けてくるのに中はふわふわして、そこへ自分のものを突き入れることを想像すれば、シュゼーの呼気も自然と乱れた。
普段は抑制剤でおさえている支配欲が、首をもたげる。
AがDomの囲われ者だと勘違いした日、シュゼーは掴みどころのない苛立ちの中にあって、その正体はと言えば、ただの嫉妬だったのだ。
何度も指をストロークさせ、締め付けが弱くなるごとに指の数を増やしていく。「もう大丈夫だから」「焦らすな」と泣かれても耳を貸さなかった。
娼婦の贅沢がたった一度きりしかないなら、徹底的に感じさせてやりたかった。そういう形で支配欲を昇華するのが、一番良いように思えたのだ。
「アっ、
そ、そこ、っ、なんかっ、」
困惑交じりの高い声と共に、Aの身体が逃げを打つ。
細腰を掴んで自分の方へ引き戻し、シュゼーはさらに鈎状に曲げた指でそこを重点的に責めた。
まるで穴の開いた袋から流れ出るように、意味を成さない声が散らばる。
手の中のペニスがくっ、と角度を増したので、シュゼーは手を離した。前立腺の刺激だけでイかせたかったからだ。
「ンンッ!」
射精を逃したAが拳の合間から悲鳴を上げた。
ペニスの先端をヒクつかせながら、哀訴するようなまなざしを向けてくる。
「自分ですればいい、」
ベッドでそんな顔をして見せれば、男がどう反応するか分かりそうなものだ。シュゼーも自分で言っておきながら、意地が悪いなと思った。
「い、……っ、ふ、」
イヤだ、と言いかけ、Aは唇を噛みしめた。ぽろぽろと涙を溢れさせる。
Aはやはり馬鹿だった。
否定の言葉は聞きたくないと言ったシュゼーの条件を、この期に及んでも律義に守っているらしい。
……そんないじらしい真似をされたらたまらなくなる。
シュゼーは自分のトラウザーズで手を拭うと、Aの額に張り付いた髪を払い、中途半端なままのペニスに再び指を絡ませた。爪を使い、くすぐるようにして絶頂に導く。
「っはぁ、ア、……ぃ、ごめ、
ンっ、あっ、」
Aはちいさく何度も謝った。
Aが自分を想像して自慰をしたことを知らないシュゼーは、謝罪の意味が分からなかった。許すと言えばいいのか、あるいは逆なのか。
ただ謝りながら陶酔し、昇り詰める人間は意外に多いのは知っていた。
口を割らせるのは今度で良い。耳の外側を甘噛みし「……やらしい顔してる」と囁けば、Aは一瞬、全身を緊張させて呆気なく達した。
シュゼーの手のひらの中に熱い精液が迸り、指の間から滴っていく。
Aはぎゅっと眼を閉じ、奥歯を噛み締めていた。
両手は相変わらず顔を隠すのと、シーツを掴むのに必死だったが、両脚は無防備に投げ出されたままだ。足の指が丸まっているのだけが、射精による快感の名残りを見せている。
膝裏に手を差し入れ、膝頭が胸に付くまで持ち上げる。
荒い呼吸に合わせるようにして、両脚の間、広げられるだけ広げた間口が指を失ってぽっかりと開き、いやらしく開閉していた。
「っ、もう、入れて……っ、」
そうじゃないと収まりがつかないとでも言いたげな、切羽詰まった声色だった。
シュゼーはAに覆いかぶさるようにして、ペニスの先端をそこにあてがう。「はっ、」と背筋を張り詰めさせたAが鋭く息を吸ったのが、すぐ側で耳を打つ。
今から自分が受け入れるものの奇形を、一番自覚する瞬間だ。
けれど、シュゼーとしてもここにきて止めることは出来なかった。せめて痛がらせないよう、ゆっくりと腰を押し進める。
「っふ、う……、うぅっ」
亀頭の左右から飛び出た銀色のボールキャッチが、アナルを割り開きながら入っていく感覚に、さすがに呻き声が漏れた。
「A、」
Aは痛みにまぶたを震わせながらも、こちらに向かって唇を差し出してきた。
きれいだった。
まつげは朝露を含んだように濡れていたし、舌を出すことなく窄められた唇はただ触れ合うだけで嬉しいという、いとけない愛情に違いなかった。
唇を重ね合わせながら、シュゼーは慎重に腰をゆすった。その度に接合面から粘度の高い音が響く。
「……A、好きだ」
レッドライト地区の今晩だけで、何度この言葉が交わされただろう。そのどれよりも真実を折り込んだ定型句に聞こえれば良い。
「はっ、…………あっ、」
明らかに声色を変えたAが、いっそう頬を涙で濡らし、自分の身体に起こった変化を隠そうと身悶えた。
シュゼーのペニスを食い締め、中が燃えるように熱く、きゅうきゅうと蠢動する。
「あっ、……や、ン、ちが……、
ち、がう、……のに、…………、…………いぃ、」
まるで何かに抵抗し損ねたような、恥じ入るような嬌声だった。
……優しくして欲しい……」
馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、どうやら本当に馬鹿だったらしい。
シュゼーは自分の下になっているAを見下ろして、胸が切なくなった。
「そんなこと、いちいち言うな」
分かってるから、と胸元で握っている両手を解してやる。そうすると白くなった指にスっと血の気が通った。
まったく、どれだけ固く握りしめていたんだか。
白いシーツに散った黒髪は、青や紫の僅かな干渉色を浮かべて艶やかに潤っている。小動物的な雰囲気の大きな瞳も同じ色だ。
「……ぅん、」
唇を重ねると、Aが鼻にかかった甘い声を上げる。今時あんなセリフを持ち出すだけって控えめな声だ。吸い上げた舌は、面積が小さいわりにふっくらとした質感だった。軽く歯を立てると柔らかく押し返してくる。
両腕がシュゼーの首の後ろに回った。
薄い皮膚から張り出した骨がシュゼーに押し付けられる。鎖骨の描く弧も、ほとんど脂肪を蓄えていない胸も、肋骨の凹凸、針のように尖った腰骨。マットレス無しのパイプベッドにうつ伏せになったような具合の悪さだ。
気の毒になるほど貧相だったが、AはAで似たようなことを思っていたらしい。
「……、」
瞳を潤ませながらも、眉をハの字に下げている。キスを解き、唾液の糸をひと舐めしてから、シュゼーの首の後ろのサーフェイスバーベルを繰り返し撫でまわす。
そういえばさっきも、耳のピアスを数えるような仕草をしていた。
当たり前と言えば当たり前だった。人体に異物が埋め込まれているのだ。骨がどうこうというレベルではない。
「……ここも」
不始末を見つけられた気分で、シュゼーはAの片手を自分の首筋に導いた。Aはボディピアスをほくろと思っていたらしい。体温を吸ったピアスの輪郭を何度も辿る。
Aの指先はかさついていて、ピアスで敏感になっている皮膚に引っ掛かるたびにシュゼーの性感を煽った。それはシュゼーが腰の部分に入れたばかりのタトゥーに対しても同じだった。
互いに不自然なほど長く見つめ合っていたが、意識しているのは常に触れあっている部分だったし、これより先の行為のことだった。
けれど、シュゼーはまだ衝動的になるわけにはいかなかった。自分のトラウザーズの前をくつろげると、Aは誘導されるまでもなくそこに手を滑り込ませた。
「……っ、」
他人の手で触られるのは久しぶりで、シュゼーはわずかに眉をひそめる。
ある程度の予想はしていたのだろう。
ペニスを指の股で辿ると、先端で引っかかるものにAは小さく反応した。
アンパラング・ピアッシング。亀頭の部分に左右にバーベルピアスを通してあるのだ。挿入される側にはカリの部分が一段増えた形になる。見た目の異様さも相まって、わざわざこれを好む人間は稀だ。
玄人を悦ばせるためにしたのではないし、さらに言うなら自傷に近かった。
Aは薄っすら唇を開いた。
シュゼーは赤みを増したそこから、セーフワードである「ドクター」が出てくることを疑わなかったし、むしろ自分からストップをかけなかったのを不誠実だとすら思っていた。それでも言い出せなかったのは、Aなら受け入れてくれるのではないかという淡い期待に縋りたかったからだ。
Aは切なげに眼を細めた。細腰をくねらせる。スーっと足先がシーツの上を滑る音が、熱を帯び、次第に弾んでいく吐息の合間に聞こえた。
「…………」
無言だったが、これ以上ないほどの欲情が伝わってくる。
お互いに茶化し合って野良猫のようにじゃれ合えば、ただの気まぐれで朝を迎えることができるのに、そうできない切実さがあった。
こんな相手は初めてだった。
Aは驚くほど敏感で、どこを触っても反応を返してきた。
夜の住人らしく、なまっちろい肌は興奮で淡く色づいている。皮膚が薄いので、全身のいたるところに鬱血の痕を残したくなる。
「っ、……ぅ、……っ、あっ!」
両脚を開かされているAが、ビクっと上半身を反らせた。
足許にいるシュゼーからは、細い首筋と胸がせり上がったように見える。少し前まで色が薄く柔らかだった乳首も、今はぷっくりと存在感を示している。
さっきまで「女じゃないのに」とすすり泣いていたせいか、Aは片手で顔を隠し、もう片方ではシーツを固く握りしめている。
そうして一欠けらの喘ぎも零さないよう、身を固くしては失敗し続けていた。自分の反応ひとつで、減点が嵩んでいくとでも思い込んでいるらしい。
「んっ、」
Aのペニスを扱いてやりながら、時間をかけてほぐしたアナルに指を沈める。
中を傷つけないようにゆっくりと指の根本まで押し進めては、第一関節の中ほどまで戻す。その度にローションと先走りが入り混じったものが、くぷくぷと音を発てた。
当たり前だがAの中は熱かった。アナルの淵はきゅうっと締め付けてくるのに中はふわふわして、そこへ自分のものを突き入れることを想像すれば、シュゼーの呼気も自然と乱れた。
普段は抑制剤でおさえている支配欲が、首をもたげる。
AがDomの囲われ者だと勘違いした日、シュゼーは掴みどころのない苛立ちの中にあって、その正体はと言えば、ただの嫉妬だったのだ。
何度も指をストロークさせ、締め付けが弱くなるごとに指の数を増やしていく。「もう大丈夫だから」「焦らすな」と泣かれても耳を貸さなかった。
娼婦の贅沢がたった一度きりしかないなら、徹底的に感じさせてやりたかった。そういう形で支配欲を昇華するのが、一番良いように思えたのだ。
「アっ、
そ、そこ、っ、なんかっ、」
困惑交じりの高い声と共に、Aの身体が逃げを打つ。
細腰を掴んで自分の方へ引き戻し、シュゼーはさらに鈎状に曲げた指でそこを重点的に責めた。
まるで穴の開いた袋から流れ出るように、意味を成さない声が散らばる。
手の中のペニスがくっ、と角度を増したので、シュゼーは手を離した。前立腺の刺激だけでイかせたかったからだ。
「ンンッ!」
射精を逃したAが拳の合間から悲鳴を上げた。
ペニスの先端をヒクつかせながら、哀訴するようなまなざしを向けてくる。
「自分ですればいい、」
ベッドでそんな顔をして見せれば、男がどう反応するか分かりそうなものだ。シュゼーも自分で言っておきながら、意地が悪いなと思った。
「い、……っ、ふ、」
イヤだ、と言いかけ、Aは唇を噛みしめた。ぽろぽろと涙を溢れさせる。
Aはやはり馬鹿だった。
否定の言葉は聞きたくないと言ったシュゼーの条件を、この期に及んでも律義に守っているらしい。
……そんないじらしい真似をされたらたまらなくなる。
シュゼーは自分のトラウザーズで手を拭うと、Aの額に張り付いた髪を払い、中途半端なままのペニスに再び指を絡ませた。爪を使い、くすぐるようにして絶頂に導く。
「っはぁ、ア、……ぃ、ごめ、
ンっ、あっ、」
Aはちいさく何度も謝った。
Aが自分を想像して自慰をしたことを知らないシュゼーは、謝罪の意味が分からなかった。許すと言えばいいのか、あるいは逆なのか。
ただ謝りながら陶酔し、昇り詰める人間は意外に多いのは知っていた。
口を割らせるのは今度で良い。耳の外側を甘噛みし「……やらしい顔してる」と囁けば、Aは一瞬、全身を緊張させて呆気なく達した。
シュゼーの手のひらの中に熱い精液が迸り、指の間から滴っていく。
Aはぎゅっと眼を閉じ、奥歯を噛み締めていた。
両手は相変わらず顔を隠すのと、シーツを掴むのに必死だったが、両脚は無防備に投げ出されたままだ。足の指が丸まっているのだけが、射精による快感の名残りを見せている。
膝裏に手を差し入れ、膝頭が胸に付くまで持ち上げる。
荒い呼吸に合わせるようにして、両脚の間、広げられるだけ広げた間口が指を失ってぽっかりと開き、いやらしく開閉していた。
「っ、もう、入れて……っ、」
そうじゃないと収まりがつかないとでも言いたげな、切羽詰まった声色だった。
シュゼーはAに覆いかぶさるようにして、ペニスの先端をそこにあてがう。「はっ、」と背筋を張り詰めさせたAが鋭く息を吸ったのが、すぐ側で耳を打つ。
今から自分が受け入れるものの奇形を、一番自覚する瞬間だ。
けれど、シュゼーとしてもここにきて止めることは出来なかった。せめて痛がらせないよう、ゆっくりと腰を押し進める。
「っふ、う……、うぅっ」
亀頭の左右から飛び出た銀色のボールキャッチが、アナルを割り開きながら入っていく感覚に、さすがに呻き声が漏れた。
「A、」
Aは痛みにまぶたを震わせながらも、こちらに向かって唇を差し出してきた。
きれいだった。
まつげは朝露を含んだように濡れていたし、舌を出すことなく窄められた唇はただ触れ合うだけで嬉しいという、いとけない愛情に違いなかった。
唇を重ね合わせながら、シュゼーは慎重に腰をゆすった。その度に接合面から粘度の高い音が響く。
「……A、好きだ」
レッドライト地区の今晩だけで、何度この言葉が交わされただろう。そのどれよりも真実を折り込んだ定型句に聞こえれば良い。
「はっ、…………あっ、」
明らかに声色を変えたAが、いっそう頬を涙で濡らし、自分の身体に起こった変化を隠そうと身悶えた。
シュゼーのペニスを食い締め、中が燃えるように熱く、きゅうきゅうと蠢動する。
「あっ、……や、ン、ちが……、
ち、がう、……のに、…………、…………いぃ、」
まるで何かに抵抗し損ねたような、恥じ入るような嬌声だった。
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